【小説】P-man head #2

 CSS(Children Security System──児童安全保障システム)端末。生徒たちがかぶっている大きなピーマンの名称だ。児童が顔を隠しているのも、同じ制服を着ているのも(男女ともに同じ形式の制服を着ており性別をわかりにくくしている)、外部に個人情報を晒さないためだ。教師や同級生など、許可した者にだけ個人情報を提供する。合成された頭部の3D映像もその一部だ。

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 20XX年。あるウイルスが世界規模で蔓延した。そのウイルスには症状がみられず、死亡例もなかったことから発見が遅れた。そして人類がそのウイルスを発見したときには、すべてが手遅れだった。

 異変に気がついたのは、まずアジア圏の各国において新生児の出生率が急激に落ちたときだった。原因を突き止められないうちに、半年後にはアメリカ、ヨーロッパでも同様の現象が起き、その波はすぐにアフリカ、オセアニア、南アメリカまで波及した。世界中で赤ん坊が生まれなくなった。

 原因は新種のウイルスだった。すでに人類の60%以上がウイルスに感染しており、感染した者のほとんどが生殖能力を失っていた。ワクチンの開発にも失敗した。出生率は0.01を切り、このままいけば今世紀中に「人類」という種は絶滅することになる。

 クローン技術が解放され人類に適用された。しかし、なぜかそのすべてが失敗した。技術的には容易なはずなのにクローン人間が生み出されることはなかった。まるで神の意志が働いているかのようだった。神は人類の消去を決定したのかもしれない。全世界の人口は着実に減少していった。

 それでも稀に新生児が生まれることはあった。子供は希少な存在となり、その価値は急騰した。子供の誘拐が頻発するようになり、人身売買市場で高値で取引された。一人の子供の誘拐のために犯罪組織の私兵が小隊規模で襲撃にくることも珍しくなかった。裏社会にとっては、そこまでしても十分に採算がとれるほどのおいしいビジネスだった。

 この状態に対して各国は非常事態宣言を発令し、児童の安全と保護をなによりも優先した。

 しかし日本政府だけは「なにもしない」という選択肢をとった。当然、海外の犯罪組織が次々と日本国内に流入し、被害が集中した。それでも日本政府はネグレクトをしつづけた。日本の政治家と官僚組織の無能さは救い難かった。

 当然、国内外からはげしい非難が起こった。とくに日本の状況を危険視した国連は、全会一致で国連による日本への政治的介入を決定した。国家としてこれほどの恥辱はなく、当初日本政府は国連の決定に抵抗しようとしたが、各国は軍事力をちらつかせ有無を言わせなかった。

 各国の叡智と技術が結集し、児童安全保障システム(Children Security System)が構築された。システムの核となるのがCSS端末だった。CSS端末を児童に装着し、各児童をネットワークにつなげることによって、様々なリスクから児童たちを守るように設計されていた。

 日本における児童の犯罪被害は激減した。

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