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鬼ずかんep2『夢見の案内人』

「地べたで寝込んでたら体悪くするぞ」 

「…起きなっての」

聞き慣れない高い声。男の人だ。

息が止まりそうだった。

その姿を見て

地央の心臓はばくばくしてる。

(ピ…ピエロ!?)

あぜんとする地央をよそに

じろじろと眺めながら

ふ〜ん…という顔。

頭はもじゃもじゃで帽子を被っている。

右足はハートのタイツ、左足はスターのタイツ…少し筋肉質な足。

ふんわりした濃い緑色のバンツをはき、先の異常にとんがった茶色い靴を履いている。年季が入っているのにピカピカに磨かれてるようだ。

目の色は左右とも違う、青と緑だ。

顔は、奇妙…としか言えない。端正な顔立ちでもなく、ぱっとしない顔をしてる。ちょっと…気持ち悪い。顔中におっきなニキビがたくさんある。

年は30から40代ほど。

なにせ雰囲気がおかしいのだ。

霊ではない。人間?にしても何かがおかしい。気配、気配がなにか変なのだ。

爬虫類のオーラというか…かといって獰猛(どうもう)な感じがまったくしない。むしろ繊細な、綿あめみたいなすぐ消え入りそうな雰囲気。。

「お前こっちにくるみたいだね?

ちょっと厄介な感じだなあ…変なことするなよ?」

「は?え?」地央はひるんだままである。

「長い長いエスカレーターとトンネルがあるのよ、まあ、そこまでおいで。いつかその場所を見つける時がくるだろうよ。俺は夢見の案内人だ」

声をふりしぼり…「ゆ…?何を言ってるの?」

「俺は1回しか言わない」

そういうといなくなってしまった。

消えた、というか、いなくなってしまったというか、、。風のように。

残された地央は自分ちの、扉の前で

しばらく呆然とするしかなかった。

(まったく意味不明すぎ…からかわれたのかな?なんなの?

でもこんな社宅の、しかも3階にピエロって…なんでぼくに…)


ゴンッッ!!

目から星が出るくらい勢いのいいグーパンチが後頭部を襲う。

「痛ッッ!!」

振り向くと鬼の形相をした日代美が立っていた。

「こんなとこでなにしてんの!!

あそこからどうやって出たの!?」

「あ…あの、自然に開いちゃったんだ

それで…」

「心配かけるんじゃない!!」

と、もう一発ゴンッ!

(痛い。

痛いのは頭だけじゃない。

体中…

でも、探しに行ってくれたのかな?

物置場まで…だとしたら、ちょっとうれしい。

ママ、少しは気にかけてくれてるのかな?)

涙を浮かべる地央に日代美は苛立つ。

「早く入んな!」

黙って部屋へ戻り、眠った。お腹も空いていたが

無理矢理目を瞑り、ときどき泣きながら。

(あのピエロはなんなんだろう

パパはなぜあんなに殴るんだろう

なぜぼくは生きてるんだろう…)

いつの間にか深い眠りについていた。


(…寝ちゃったか) 

地央の部屋をのぞくと布団もかけずに眠っていた。

顔が腫れていた。膝もすりむいて血が滲んでる…

日代美の右手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。

(明日の朝起きたら食べるだろうから机に置いとこ…

与志と地央はなるべく顔を合わせない方がいい)

日代美は悩んでいた。

日代美もまた自分の父親から虐待を受けていた。母親は無関心だった。

まったく今の状況と同じなのだ。

(これじゃ変わらない…あんなに憎んだ両親とまったく同じことして!

自分はできると思ってた。与志も変わりたいって言ってたのに、同じことを繰り返すだけ。

あたしに与志を止めることができるんだろうか。

でもこのままじゃいつか地央に手をあげるだけじゃすまなくなる…

あたしも地央に…悪いことしてきた…

おおごとになる前にどうにかしてこの悪循環を止めなければ…)  

そっとコンビニ袋を置き部屋を出ていった。

【続】






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