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宅建士が思う、不動産契約の盲点

 私が宅建士になったきっかけとも言える出来事ですが、私は20代の頃に当時の恋人(結局、結婚しませんでしたが結婚前提でした)と同棲をして、その賃貸物件の解約後に敷金返してもらえない+原状回復トラブルに遭っています。


■全盛期にトラブルに遭っていた。

 結論から言うと、それは完全に悪徳不動産業者にハメられた、という状況だった事が後で分かったのですけれども、


家賃14万円の部屋の敷金がペット可も入れて4ヶ月分の56万円、そして、それだけでは足りずに原状回復費用として、さらに確か20万円ほどの追加請求をされて合計70万円台の請求!という散々な出来事がありました。(しかも3ヶ月ほどしか住んでいないし、当然汚してもいない。)


 この悪徳不動産屋の手口については、今日お話しするとかなりのボリュームになってしまうのでまた改めて、という事にしますが、


当時、法律も分からなければ契約書も読めなかった私は、慌てて行政が提供している無料の法律相談へ行き、2時間ほど並んで弁護士さんへ相談することになりました。すると、

「今日は朝から全部敷金トラブルの相談!!」

と弁護士さんがヤレヤレ顔で話を聞いてくれたことをよく覚えています。結局、せっかく相談に行ったのに、「裁判をしてもいいけど、これはちょっと厳しいかもね、契約書がね。」と言われたことで、別れることになった恋人と共闘しなくてはならないのも大変でしたし、泣き寝入りで終わりました。


 そこからちょうど5年ほど経った平成16年に賃貸住宅紛争防止条例が施行され、それに伴って、『東京都賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』(いわゆる東京ルール)が出来たわけで、



つまり、当時の私は「超流行りのナウイ詐欺に遭ったようなモノ」だったのだなあ、と後でしみじみ感じることになりました。今だったら「ザ・情弱!」って指さされてるところです。



 それで、つくづく「法律を知らない事は足元をすくわれることなんだ。」と感じた私は、法律を勉強することになりました。いつか、あの契約書の意味を自分で理解できるように!それが強烈なモチベーションでした。


■司法書士になるはずが、宅建士に。

 そうして、鼻息荒く司法書士を目指していたものの、民法・不動産登記法・借地借家法・憲法・刑法を学んだあたりで、「今年受からないと商法が、なんと来年、会社法にアプデするよん。」という事実を出産直後に知ったこと、そして、「ついでに司法書士は今後絶滅する可能性がかなり高い職種なんだよん。」というダブルパンチを受け、

もう、未来の希望を絶たれた想いで、産後育児の睡眠不足ノイローゼに身を任せ、1回も受験することなく私は諦めたわけです。


 司法書士の登竜門として、民法が重く被っている宅地建物取引主任者資格(現宅建士資格)があり、宅建士になるつもりなんて全然なかったのに、一応それだけは前年に受けて合格していており、


おまけにそこから数年後にうっかり離婚してしまったものだから、離婚後の社会復帰で自分の社会的価値を示すものが、なんとそれしかなかった、と(笑)。


 そこから、あれよあれよという間に不動産の専門となってしまいました。(ガス溶接免許持ってます!とか再就職には全く意味がなかった現実社会。)


■実務経験のない宅建士資格は蒙古斑と同じ。

 しかし、宅建士なんてものも、正直実務経験がなければ、本当に自動車のペーパードライバーと全く一緒で(ちなみに私はペーパードライバーです。)怖いわ、危ないわ、役に立たないわ、本当にただ取っただけでは何にも意味を持たない蒙古斑と同じレベルの単なる印です。


 宅建士の資格を持っていても、謄本も読めない、契約書すらまともに作れない人は本当に沢山いて、「真の宅建士」となると、これは感覚としてですけれど、合格者の中の1/10も居ないんじゃないかと思います。もしかしたら1/20とか、1/30くらいかもしれません。


 逆に、不動産業界はエライ役職の人ほど何故か宅建の資格持っていない、という珍現象もあって、そうした方々は資格はなくとも、百戦錬磨の戦士のような現場での生きた実務経験を血に刻んで生きてきているので、もの凄く色々な知識があったり、「見る目」とか動物的な「勘」が備わっています。


話が長くなってしまいましたが、そう、宅建士だからと言って、「真の宅建士」であるかどうかは分からなくて、逆に宅建士じゃないからと言って、不動産に無知とは限らないという事です。


 でも、私もかつては不動産業界とは無縁の一般人として敷金トラブルに遭った経験があるので分かるのですが、一般人は「宅建士がやることは絶対」だと信じているところがある気がします。日本人が温厚で平和ボケしているからというのも理由かもしれませんけれど、


宅建士が提示したもの、用意したもの、話す事は「プロなんだから間違いないし、絶対常識的なこと。」という思い込みがなぜかものすごく強くあるのです。


 実は例の敷金問題の物件を契約する際の「賃貸の重要事項説明」の読み合わせのシーンを私はメチャクチャ鮮明に記憶していてですね、
しかも、この敷金問題と原状回復トラブルの焦点となった「特約」部分の内容について、「ちょっとした違和感」を感じていたのです。


ほんとうに。なんて、人生はドラマチックなんでしょうね(笑)


その違和感を、え、そんなこと書いてあっても、きれいに使っていたら全室全部クロス張替えなんてするわけないよね?吹き抜けもあるのだし、って当時の私は、自分で自分に言い聞かせて説得させていました。


「だってこの人は、プロの宅建士さんなんだから。こういう内容に一応しておくのが不動産としては慣習なんだろう。」


ハッキリと、自分の中の違和感を、こういう言葉で説得させて打ち消した記憶があったのです。


 この不動産屋の主は昔ながらの地元の不動産屋で宅建士だったので、実務経験は豊富です。でも「プロ宅建士」ではなくて、「プロの詐欺師」でした。いや、その当時は東京ルールもなければ、民法の改正もなかったわけですから、実際は確かに「限りなくグレー」です。


しかし、賃借人の不利益になることが完全に分かっていてハメた、という悪意がある以上、私の中では彼は今も昔も「詐欺師」であって、プロの宅建士ではありません。

 彼は不動産業者という表向きの事業のほかに、なんとリフォーム専門の工事会社の社長でもあったのです。契約書には、彼が社長をしている工事会社を原状回復時に使う、という文言もしっかり記載されていました。


どの世界でもそうですが、立派なバッチが、人間性の証明にはならないのです。


■父の2棟目の収益物件購入時の売買契約

 少し、がらりと話は変わりますが、父が2018年に2棟目の収益物件を持つことになった際の売買契約が、これまた綱渡りのような状況でした。


 正直、呆気にとられるほどの衝撃的な出来事でもあったのですが(笑)、父は不動産仲介業者が広告に使うペラペラのマイソク1枚だけで、購入を決意し、満額で買付を入れるという事をしました(汗)。


私が知った時はもう父が買付証明をFAXした後だったので(なんで買付証明の出し方は知っているんだ!)


慌てて、大急ぎで仲介さんから、持っている物件資料を私のメールへ送信して貰う事となりました。結果…。

●謄本は3年前のもの
●写真はマイソク以外なし
●建物図面も地積測量図もボケボケで見えない
●賃貸状況が把握できるのは1年前の手書きのメモのみ
●誰が何年住んでいるなど殆ど不明
●1室賃料が激安の部屋があるが、理由が不明
●マイソクでは満室とあったが、現在は1室空室、さらに1室空く予定
●境界が分かる資料が数日たっても一向に出て来ない


 父側の仲介さんは20代の新人営業マンでしたので、おそらくは契約自体が殆ど経験としてなかったという事と、あとは結局、売主側の仲介さんではなかったので、父と同じくらい物件について「よく知らない」という状況だと思われました。そして、買付が入ったのに、何していいか分からないという状況。


 幸い、売主側の仲介さんが大手の「スーパープロ宅建士」さんだった為、父側の仲介さんを通して「貰って欲しい資料リスト」「聞いて貰いたいことリスト」を送信し、売主側仲介さんは丁寧にそれをまとめ、早々に寄こしてくれました。



 また、私は当時まだ会社員でしたので、契約日に立ち会う事も出来ないですし、丸腰同然の両親が重要事項説明の読み合わせに立ち会ったところで、私の例の原状回復トラブルに遭った際の状況と全く同じなわけですから、


ちょっと、嫌な買い手と思われそうでしたけれど、数日前「契約書」「重要事項説明」を予め渡して貰うことをお願いしました。


 やはり、そこには修正して欲しい点がいくつかあり、内容の疑問点についても挙げて、(もちろんもはや運び屋と化した若者仲介さんに渡し)売主側の仲介さんと間接的ではありますが、契約書と重要事項説明書のFIXをほぼ私が行いました。


■契約書と重要事項説明書は「契約前」に貰って一読する。

 ここまで慎重な対応をしなくとも、売主側の仲介さんは素晴らしい宅建士さんでしたし、たとえ仮に何か起こったとしても相手は大手不動産会社でもあるので、どこかへ逃げてしまう事もないですから、そこまでの心配は必要なかったかもしれません。


 けれども、宅建士としていつも思うのは、特に売買の場合、契約書の記名捺印、重要事項説明書の記名捺印の日というのは「特別な日」である為、あの緊迫した雰囲気の中で、仮によく分からない内容や、ちょっと違和感のある内容があったとしても、一般人の方が、


「ちょっと、ココなんか変だから、今日はハンコ押さない。書き直してきて!」なんて言う度胸はまず持てないと思います。


もう、押すことが決まっている儀式のような感じです。実際にそうして「押さない!」と買主さんがゴネるような状況に立ち会った経験も私にはありません。


 大概の場合は、「そんなものなんだろう。」でスルーしてしまうのではないかと思うのです。人生で一番大きな買い物とも言われる不動産売買でコレって、ちょっと皆怖くないのかな、といつも宅建士としては思うのです。そもそも、「何のことを説明しているのかよく分からない。」というような顔をしているお客様も実際、何度かお見掛けしました。


 でも、実務としては、相手の仲介さんとの契約書・重要事項説明書のFIXの作業というのは、特に自用物件のようなサイズであれば、直前の数日間、下手すると数時間前までやり取りしているという事はザラで、


お客様側に事前に契約書や重要事項説明書が渡るというのは、かなり大きな物件の時、もしくは買主さんが不動産業者だった時、買主側から求められた時以外には殆どありません。


 私の賃貸の原状回復トラブルの時もそうでしたけれど、「儀式通過」でしかなくて、賃貸の場合はその日、契約して「鍵を貰う」というのが賃借人側からするとメインであり、それをワクワクして待っていたわけですから、「なんか変だし、納得いかないからハンコ押さない。」なんて話にはなりようがないのです。


「契約」が双方の合意で成り立つという原点に戻ると、普通のように見えるかもしれない「この時の風景」にはとてつもない違和感があります。


 この「違和感」をスルーした結果、あの原状回復70万の惨事を招いたと思うと、やはり、いつも契約書というのは事前に貰うか、当日初めて内容を知るものなのであれば、「ハンコ、もしかしたら今日押さないかもしれない。」くらいの意気込みで出陣しないといけないものなんだろうな、と。


これが、宅建士として色々見てきた末の私の気持ちです。
(すごい業界の人には迷惑な話だと思いましたが、書いてみましたw)


 出来れば、この辺りは宅建業法か民法にでも「契約書・重要事項説明書は記名押印前〇日までに、事前に双方へ渡すこと」というのを義務とするような内容に改正された方がいい気が個人的にはしています。

これから賃貸・売買の契約をされる方の参考になれば幸いです。



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