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それ、アウトブレイクじゃないですか?

こんちには。

寒い日々が続きますが、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか?

新型コロナウイルス感染症COVID-19が、人類に「問題である」と認識されてから、1年が経過いたしました。

この1年間、地球上のあらゆる場所の人々が、ありとあらゆる手段を模索して、この新たな脅威に立ち向かい、問題を解決する努力を重ねてきました。

その成果は、ざっと上げると以下のようなものでしょうか。

①診断法の進歩
 ・核酸増幅法検査(NAT:Nucleic acid Amplification Test)
  ・PCRやLAMP法等の新型コロナウイルスの核酸(RNA)を増幅して検出する検査
  ☆筆者注:PCRは拡散増幅法NATの1つに過ぎません。皆様、略すときは”NAT”と呼びましょう~
 ・SARS-CoV-2抗原迅速診断キット

②治療薬の開発・臨床応用
 ・抗ウイルス薬:アビガン、ベクルリーなど
 ・ステロイド・免疫抑制薬:デカドロンなど
 ・抗凝固薬剤:ヘパリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)等

③ワクチン・予防接種
 ・一部の国で承認・使用可能となりつつあります

これらの成果は、人類が適切に新型コロナウイルスCOVID-19感染症を、人類皆で解決する必要のある「問題である」と認識されたからこそ、達成できたものであると本ノート筆者は考えております。

さて、最近は新型コロナウイルスCOVID-19感染症の「クラスター」が多発しているとの話題も日々見かけるようになってきました。

クラスター。この言葉の明確な定義を筆者は存じ上げませんが、通常は『「1カ所で5人以上の感染」をクラスターと呼ぶ』ことが多いという認識で大きなズレはないでしょうか。

医療業界、殊に病院では以前から院内感染対策の言葉として、「アウトブレイク」が用いられてきました。

院内感染対策における「アウトブレイク」については、厚生労働省からの通知に明確に定義されております~医療機関における院内感染対策について(平成26年12月19日)(医政地発1219第1号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0640&dataType=1&page

以下、厚生労働省通知を引用いたします。

3―1.アウトブレイクの定義

(1) 院内感染のアウトブレイク(原因微生物が多剤耐性菌によるものを想定。以下同じ。)とは、一定期間内に、同一病棟や同一医療機関といった一定の場所で発生した院内感染の集積が通常よりも高い状態のことであること。各医療機関は、疫学的にアウトブレイクを把握できるよう、日常的に菌種ごと及び下記に述べるカルバペネム耐性などの特定の薬剤耐性を示す細菌科ごとのサーベイランスを実施することが望ましいこと。また、各医療機関は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)等の全国的なサーベイランスデータと比較し、自施設での多剤耐性菌の分離や多剤耐性菌による感染症の発生が特に他施設に比べて頻繁となっていないかを、日常的に把握するように努めることが望ましいこと。

以上引用おわり。

「クラスター」。新型コロナウイルスCOVID-19感染症では聞きなれた言葉ではあるのですが、定義も明確ではないこの「クラスター」という言葉を医療現場のしかも感染対策の場に用いるのは、筆者は、感染対策に従事するものとして、あまり好ましく思いません

それは、感染対策の場では、「クラスター」という語感が、筆者には軽く・それほど重大なものではないという印象を受けるからです。

もちろん、感じ方は人それぞれ~ですので、あくまでも本ノート執筆者の感じ方ではあるのですが。

私は、病院・医療機関内で、新型コロナウイルスCOVID-19感染症の症例(職員+患者の皆様方)が、一定期間内に、同一病棟や同一医療機関といった一定の場所で発生した院内感染と判断された症例の集積が通常よりも高い状態となった、場合には「アウトブレイク」が発生した~と捉え、これを適切に「問題である」と認識すること~これが新型コロナウイルスCOVID-19感染症の病院・医療機関内での多発事例を解決するために大切なことなのではないか?と考えております。

たしかに、上記厚生労働省の「アウトブレイクの定義」は、「原因微生物が多剤耐性菌によるものを想定」とは記載されていますが、新型コロナウイルスCOVID-19感染症にも、各医療機関で同様かつ独自の「アウトブレイクの定義」を作成して対応していくことが、新型コロナウイルスCOVID-19感染症対策として重要な時期となっているのではないかと想像いたしております。

ここで重要なのが、「各医療機関で独自の『アウトブレイクの基準』」を作成することでしょうか。

平時より、一定数の新型コロナウイルスCOVID-19感染症症例が、職員・患者の皆様方から発生する医療機関と、ほとんど発生のない医療機関で、同様のアウトブレイク基準にする必要はないと考えます。

また、同一医療機関であっても、新型コロナウイルスCOVID-19感染症症例がほとんど発生していない時期と、多数の発生のある時期ではアウトブレイクの基準は柔軟に変化せざる負えないのではないか?とも思っております。

もちろん、本記事執筆時点(2020年12月8日現在)の、日本の多くの医療機関では、院内で1例でも新型コロナウイルスCOVID-19感染症の症例が発生した場合には、「アウトブレイク」に準じた厳しい感染対策が求められるでしょう。

しかしながら、万が一、新型コロナウイルスCOVID-19感染症の流行状況が今よりもさらに大変な大流行となった場合には、一定数の新型コロナウイルスCOVID-19感染症の症例発生は、アウトブレイクの基準に到達しないと判断せざる負えない時期もやってくるかもしれません。

そのような事態にならないように、流行の抑制と感染対策を徹底する両面の対応が重要なのですが。

本日は、新型コロナウイルスCOVID-19感染症で突如出現した、「クラスター」という言葉と、従来からの「アウトブレイク」に関してのお話でした。

病院・医療機関では、新型コロナウイルスCOVID-19感染症の院内感染症例発生の際に、安易に「クラスター」と捉えずに、重大な「アウトブレイク」が発生したと認識し、適切な問題解決策がとられることを切に望みます



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