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自己紹介④ *上京前の奇跡

冬のオーディションの最終面接で、一番下のレベルからのスタートだと現実をつきつけられた厳しくもやさしさ溢れるドラムの先生から、ひとつ課題を言い渡された。

 先生 「こっちに来る前に、一回でいいからライブをしておいで」

当時高校のお遊び軽音楽部以外でバンドを組んでいたわけでもなく、ライブといっても学園祭は終わっちゃったし、レッスンに通っていた音楽教室の発表会も終わったばかりで、次回の演奏予定は当然のごとくゼロだった。先生はそれを分かったうえであえてそんな課題を出したんだろう。
高校の友達はみんな女子大生になる準備でそわそわしていて、とても「一緒にライブやろう!」と言える雰囲気ではなかった。音楽教室の発表会で知り合った他の楽器の人たちとは連絡先の交換はしていたものの、どこかでライブをやるとなるとお店に交渉にいったりチケットノルマなどなど、とても3月末までという期限内にライブが出来る気がしなかった。
最寄駅近くにあるライブハウスに事情を話して出演交渉をしようと何度か試みたことがあったけど、そこのお店はいつ行っても閉まっていて、結局交渉も出来ないまま。ライブハウスなんてお店が開くのはたいてい夜だから、学校帰りの夕方に行っても開いてないんだよね。

どうせそんな課題を出したことなんていちいち覚えてないだろうし、こっちから言わなければそのままスルーされるだろうからまあいいか… と諦めかけていた頃、

 「そこの彼女〜連絡先教えてよ〜」

学校帰りに突然声をかけられた。
振り向くとスーツ姿のいかにもな風貌のチャラ男くんがこっちを見ている。
無視!!! …しなかったのである。

その時なぜか私は、ついうっかり連絡先を教えてしまった。その日の夜にチャラ男くん (自称ホストらしい) から連絡が来て、どういう話の流れか覚えてないけど、春から音楽の専門学校に通うために東京に引っ越すんだけど、その前にどこかでライブをやりたいんだっていう話をしたら、

 「俺ギター習っててさ、今度そこの発表会があるんだけど、出させてもらえるか聞いてあげようか?」

チャラ男くんは実は神様の使いであった。

その後、その発表会に特別枠ということで1曲限定で出演させてくれることとなり(しかもタダでチケットノルマもなし!)、さらになぜかチャラ男くんは発表会には出ないというので、お友達のベーシストを紹介してもらい、ギターリスト、鍵盤、ボーカルと、いろいろな繋がりをフルにつかって声がけをし、なんとか寄せ集めのバンドを結成。一度だけスタジオにみんなで集まって練習をしてのライブ当日。相川七瀬の「夢見る少女じゃいられない」を熱演。笑

この時初めて学校の同級生以外と自ら交流を持つことの楽しさを知った。とくにキーボードをやってくれた子は自分より年下の女の子で、妙にドキドキしてしまったのを覚えている。

私には全然関係のないギター教室の発表会なのに、高校の友達や音楽教室の仲間などもライブを見に来てくれて、たった1曲なのに、図らずも私の送別会的な雰囲気となってしまって嬉しいやら恥ずかしいやら。その後チャラ男くんとは一切音沙汰なく、名前すら覚えてないんだけど、本当に神様の使いだったのではないだろうかと思っている。ちゃんとお礼を言ったかどうかさえも今となっては覚えていない。

いろいろな人たちの支えがあったおかげで先生からの課題をなんとかクリアし、これで胸を張って上京できる!と、春からの新生活へ向けて期待に胸を膨らませていたあの頃は、まだまだ箱入り娘の世間知らずだった。

出会いを大切にし、出会った人に自ら連絡をとり集まってもらい、ひとつのことを成し遂げる楽しさを、この17才の時の経験が教えてくれた。


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