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「わらしべ長者」〜井戸の中の冒険記8〜

【これは瞑想中に体験する物語の冒険記録です】

いつも井戸を降りていくイメージをするところから瞑想をはじめています。

今回は、井戸の中の世界に8回目に訪れた時のお話です。


【2023.9.27.の井戸の中の冒険記録】
「わらしべ長者」


防護膜を張って、井戸を見下ろして立っている。

縄を井戸の周りに巻きつけた。
今日はもう一周巻きつけようと思い、二周巻きつけて、井戸の中へと入る。

縄を伝って壁を蹴りながら降りて行く。
見上げるとまだ入り口が近い。

今日はなぜだか、縄の果てまで待ちきれずに手をすぐにはなしてしまった。

「あっいけない!」と思った時にはもうビューッと落ちて行き、しゃがみこむくらいに強く着地した。

立ち上がりながら見上げると、松の木があった。

その近くには、木でできた昔ながらのアーチ型の橋があり、下には川が流れているようだ。

川の向こうには屋根が並んでいて、家があるのだろうか、遠くには山が見える。

松の木のそばの橋の前に、私は突っ立っているようだった。

すると、遠くから馬に乗った人がやってくる。
だんだんと近寄ってきて、そばにはお付きのもののような人もいる。

馬に乗った男は日本の昔のお殿様のような姿で、睨みつけるようにこちらを見て、また別の方角を睨んで、あたりを見渡しながら馬とお付きのものたちと行ってしまった。

心底ほっとして胸を撫で下ろす自分に気がつき、私はいつのまにか松の木のうしろに隠れていたようだった。

私は知らぬ間に甲冑のようなものを着ていて、右手に布のふさのようなもののついた棒を持っていた。
なんだこれ、と思っていると、浴衣のようなものを着た子どもたちが集まってきて、私を取り囲んだ。

挿し絵「甲冑を着た男」

何か遊びに巻き込まれているのだろうか。
「ちょっとちょっと、お前たちと遊んでる暇は俺にはないんだよ」そんなことを伝えながら私は木でできた橋を渡って行く。

すると、老朽化していたのか木の板が割れて、私は下の川に落っこちた。

幸い浅い川だったが「ついてねえな」と思いながら水浸しになって、川から上がると土手の草むらを自力でのぼって橋の向こう側へたどり着いた。

なんとダサい男なのだろう、と私は自分のことを思った。

しかし、なんだかしょげていたらもっとダサい気がして「いいや面白くなってきたじゃないか」と思い直して、前を向いて歩きはじめた。

家が立ち並ぶところまでは結構距離があり、その間の広い草っ原を通っていると、さっきの子どもたちだろうか、けらけらと笑いながら二手に分かれ、向かい合って衝突するように走っていく。

私はその間を通っていくので、子どもたちを避けながら歩かなければならない。

どうやら子どもたちは戦の真似ごとをしてじゃれて遊んでいるようだった。

「戦なんていいもんじゃねえぞ」と内心思いながら避けていると、自分の足についていた甲冑のパーツだろうか、それが外れて地面に落ちた。

すかさず、ひとりの子どもがそれを手に取って、相手の子どもを殴ってしまった。

私は、急いで止めに入って「何をしてるんだ!」と甲冑のパーツを取り上げた。

そこで、ハッとした。
「そうだ、俺が戦をするとそれを真似する奴が出てきてしまう。
いい武器を手に入れれば入れるほど、こうやって何も知らない者が傷ついてしまうのだ」と感じた。

私はやるせないような、自責の念にとらわれて、立ちすくんだ。
殴られた子どもが泣いていて、戦ごっこをしていた子どもらは、不思議そうにこちらを見上げている。

私は武器で殴ってしまった方の子どもに話しはじめた。

「お前には父ちゃんと母ちゃんがいるだろう。
父ちゃんと母ちゃんがいたからお前が生まれたんだろう。
お前が殴られて泣きながら帰ってきたら、父ちゃんも母ちゃんも悲しいだろう。

お前が殴った奴にもな、お前と同じように父ちゃんと母ちゃんがいるんだ。

お前が殴ったやつは、結局お前なんだから。
わかるな、悲しい思いさせちゃいけない。

だから殴ったり殴られたりで遊ぶのはもうやめろ。」

子どもたちはみんな落ち込んだようにうつむいた。
しかし、しばらくするとまたみんなで集まって輪になって遊びはじめた。

そうそう、そうやって新しい遊びをみんなで考えてやればいいんだよ、戦の真似なんかより楽しい遊びをたくさんつくってさ、そんなことを思いながら、男は甲冑を揺らしながら彼らに背を向けてまた歩きはじめる。

ふ、と立ち止まって「そもそも俺がこんなもの着てるからいけないんだろう」と思い直し、身につけていた甲冑やカブトのようなものをすべて脱いだ。

「これがまた子どもたちや、別の者に見つかったら同じようなことが繰り返されちまう。
さて、どうするか」と考えた。

そこで、さっき渡った橋で、老朽化した木の板から落ちたことを思い出した。

「そうだ、この甲冑を朽ち果てさせちまえばいい」と思いついた。

しかし、穴を掘って埋めても、その穴が誰かに見つかってしまえば同じことだ。

誰にも見つからない場所を探さなければ、と思い、甲冑を手に持ったままトボトボと歩いていく。



すると大きな暗い山の前に立っていた。
目の前には鳥居があり、不気味な雰囲気が漂っていた。
ここに入らなきゃならないのかと少々気が重かったが、仕方なく一礼してから鳥居をくぐる。

山だというのに傾斜などなく、真っ暗闇を歩いていくと、足元により一層真っ暗な穴があった。

「ここにこれをいれちまうか、だけど本当にここなら安全か?そんな保証どこにもないだろうが。
この穴がどこに繋がっているのかもわからないのに無責任に『ここなら安心だ』と言っていい問題じゃない。
俺は自分が安心したいだけでここまできたんじゃないんだぞ!」と、私は真剣に葛藤していた。

ふ、と私は、「手に持ったこれと一緒に、自分もこの穴の中へ入ってしまおうか」と思った。

すると、穴の向かいには何か得体の知れない大きなものがいる気がした。

そして、心の中で思っていることを目の前のそいつに伝えてしまった気がした。

目の前のその大きな存在は、
「それはいい、ぜひそうしてみるといい」
そんなふうに促して、そうするのを心待ちにしているようだった。

そいつを信頼してなどいなかったけれど、私はこの男そのものになって、手に持った甲冑と共に穴の中に飛び込んでいった。


穴の中を猛スピードで落ちて行くと、上に向かってカーブした滑り台から、飛び出るようにして光の中へ投げ出された。

すると私は、はじめてここにきた時と同じ松の木の下に立っていた。

「なんだかそんな気がしていたんだよなあ」とため息をつきながらしゃがみこんだ。
それに、捨てたくてたまらない甲冑も手に持ったままだった。

どうするかなあ、と困っていると、また子どもたちがやってきて私を取り囲んで遊びはじめた。

勝手に自分のまわりを駆け回って遊ぶ子どもたちをそのままに、私はハッと思いついた。

「そうだ、この甲冑を跡形もなく分解して、ひとつひとつを別の道具やおもちゃだと言って配っちまえばいい!そうすれば元の形も元の使い道も消えるだろう!」と。

すぐに紐を解いたり一枚一枚を切り離して、そばにいた子どもらに、「これな、お日様に当てると、ほおら綺麗だろ、いろんなところでお天道様にかざしてみな」と配ってしまった。

鋭利な部分は町まで持って行って「これは肉の分解に使うもので、いい品だから」と言って配ってしまった。


すべて配り終えて何にもなくなった私は、あの草っ原にたたずんでいた。

「わらしべ長者の逆さまになったみてえなオチじゃねえか」と思いながらも、
この男はすがすがしく笑っていた。

「そうかもしれないが、この男は本当によくがんばったんじゃないだろうか」と、私は思った。

すると、男の手が、画像が乱れるようにして消えかかっていた。

「ああ、本当は存在しない人間だったのか俺は、まあ、それでもいいか」
そう思って目を閉じると、次に目を開けた時には、もうすっかりとっぷりと日が暮れて夜になっていた。


お山の上には明るいまん丸のお月様が、
井戸の中から見上げた入り口みたいに、
煌々と輝いていました。



(おわり:井戸の中の冒険記「わらしべ長者」)





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