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【設立60周年を迎えた(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)会長に聞く】民間主導による効果的な開発協力事業の実現

ODAに続くビジネス化がコンサルタントの役割に

開発コンサルティング業界を代表する(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)が設立60周年を迎えた。この機を捉え米澤栄二会長にこれからのコンサルタントの目指すべき方向などを聞いた。米澤会長は「民間主導」による事業領域の拡大とビジネス化を強調する。
(聞き手:本誌主幹・荒木 光弥)

(一社)海外コンサルタンツ協会 会長
(オリエンタルコンサルタンツグローバル 代表取締役社長)
米澤 栄二 氏

複雑・多層化する開発課題

――ECFAが設立60周年を迎えられた。この間、開発コンサルティング業界を取り巻く環境は大きく変化を遂げてきた。まず、現会長としてこの間の変化をどう捉えられているか。
 日本の政府開発援助(ODA)予算は1997年をピークに、現在はほぼ半減している状況だ。一方、開発協力ニーズはどうかといえば、今やその存在抜きに世界を語れないグローバルサウスと言われる途上国・新興国のインフラ整備ニーズは膨大であり、脱炭素社会の実現やデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)など、いわゆる地球規模の課題も山積している。
 また、気候変動の問題は、自然災害の激甚化、食料安全保障などにダメージを与え、これらが複合的に絡み合い、難民・避難民の大量発生につながっていると言える。さらに、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・ガザでのイスラエルとイスラム主義組織ハマスの軍事衝突などに対応し、平和構築・復興支援のニーズは今後、急激に高まっていくはずだ。
 こうして見てくると、私たち開発コンサルタントが取り組むべき課題はまだまだ多く、しかもこれまでに直面したことのない複雑で、多層的な開発課題への取り組みが求められていると言えよう。
 こうした変化と課題は当然、私たち開発コンサルタントの意識と行動様式にも変化を迫っており、ODAについては本邦コンサルタントとしてしっかり貢献していかねばならないと考えている。一方、非ODAやPPP(官民連携)などの事業領域についても一層の拡大に努め、ビジネスとして定着・発展させていく必要がある。これなくして中長期的な成長はあり得ないと考えている。

――事業領域の拡大に必要なアプローチや能力は何だろうか。
  私たち自身が新しいスキームを提案し、例えばプロジェクトを形成し、その実現に向けて民間の資金を引っぱってきたり、あるいは国際協力機構(JICA)の海外投融資や世界銀行、アジア開発銀行(ADB)のファンド、また案件の内容によっては韓国など第3国のドナーのファンドにつなげることなども柔軟に考えていくべきだ。ODAだけに頼らない、コ・ファイナンスを組成できるような能力を鍛えていくべきだろう。
 また、事業のビジネス性を高め、徹底して収益を上げる取り組みがなければ開発コンサルタントの生き残りはないと考えている。

新しい試みの積極展開

――ECFA設立60年を一つの起点に、コンサルタント業界の仕事がどうすれば拡大していくのか。一つのポイントは、その国の発展のための政策をバックアップする新しい試みが重要だと思う。
 私たちもインフラに限らず、その国にとって成長分野としてのニーズがあり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも資する事業をやっていかないと成長・発展はないと考えている。
 新しい試みはすでに始まっている。当社の取り組みを紹介させていただくと、一つはインドネシアにおけるエビの屋内養殖事業がある。もともとジャカルタ近郊ではエビの養殖が盛んで、海の近くに養殖池を作り、屋外型でやっている。ところが、エビの糞など汚物が堆積し土壌汚染が進行し、使えなくなった池が大量に放置されている状況だ。そこで私たちは完全屋内の「閉鎖循環型」養殖事業に取り組んでいる。
 昨年、国際協力機構(JICA)の現地事務所発注案件で実証事業を進めさせていただいているが、1㎥当たりの生産量が非常に高まり、例えば従来の池10施設の生産量をほぼ1施設で揚げることが出来る。さらに腐って放置されていた池は土壌改良を行い、一部にはソーラー施設を設置し、その発電を屋内養殖に使ったり、また一部にはマングローブを植栽し、マングローブ林の復活も計画している。これらをワンセットの事業として形成し、現地のパートナーと組んで推進していこうと考えている。
 スラウェシにおいても同様の取り組みを計画しており、当社は投資事業として鋭意取り組んでいく考えだ。

――環境保全につながるし、輸出拡大など経済効果も期待される。非常に先進的な事業になるのではないか。
 もう一つの取り組みを紹介させていただくと、小型SAR(合成開口レーダ)衛星と地下水シミュレーション技術を活用し、例えば途上国の都市部で深刻化する地盤沈下のモニタリング・コンサルティングサービスの提供などにも注力していく方向だ。ジャカルタなどでは地盤沈下の問題が顕在化し、随分長い時間が経つが、小型SAR衛星による解析により、かなり精度の高い沈下のシミュレーションが出来る。
 当社は2022年6月、小型SAR衛星の開発と運用を手掛ける(株)シンスペクティブに出資した。また、今年4月には、同社とともに水循環シミュレーション技術を持つ(株)地圏環境テクノロジーと戦略的提携覚書を締結している。
 今後は両社の持つ最先端のテクノロジーと当社のコンサルティング機能を有機的に連携させ、地盤沈下のモニタリングシステムを構築するとともに、東南アジア地域を中心に3社が連携し、効果的なインフラ整備も推進していく考えだ。

民間主導の時代へ

――途上国の真のニーズを現場でつかみ、日本でもっとも知っているのは開発コンサルタントの皆さんだ。まさにODAの付加価値がそこにある。その価値を巨大にしていかないといけない。会長のお話から、そのことを強く感じた。
 私たちはODAの先を見据え、相手国やクライアントが直面している問題・悩みを的確に捉えて広角的に事業形成していくことが大切だ。そういう自覚を業界全体としても共有したいと思う。

―― しかも、ビジネスとして成り立たせないといけない。開発協力事業の先のビジネス化を考えていく。今後のコンサルタントの大きな役割ではないだろうか。
 今、ビジネス化のお話が出たが、相手国が本当に必要とする事業でないとビジネス化は難しい。そのニーズを見極め、求められるテクノロジーと資金リソースを発掘・動員し、事業形成していく能力が開発コンサルタントに求められている。

――「民間主導」の事業推進体制が求められていると思う。開発協力の歴史を調べていると、民間主導でやっていた時代はやはり活性化していた。まさに経済協力が行われていた。民間主導で“突破口”を切り開いていくべきであろう。
 民間主導の実施体制は非常に重要だと思う。途上国の開発ニーズに対応していくため、ODAと民間資金の戦略的な組み合わせは必須だ。ただ、ODAに過度な期待をかけるのではなく、ケースによっては民間資金、世銀、ADBのファンド、他ドナーの開発資金、海外投融資などを主体的に動員していくべきだ。税金を原資とするODAのみの入札の中では限界があり、環境は変え難い。
 やはり民間主導で流れを変えていくべきだろう。
――これからの開発コンサルタントには、広角に物事を捉え、分析し、事業として成り立つかどうか、最後のジャッジメントまでが求められる。その能力をさらに鍛えていくべきだ。


「ECFAトピック 第61回定時総会と設立60周年記念祝賀パーティーを開催」は、下記PDFからご覧いだだけます。


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本記事は国際開発ジャーナル2024年8月号に掲載されています
(電子版はこちらから)


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