愚痴

 結婚をいやがる私に結婚をすすめる女性。
 男性の化粧を否定的に言う女性。

 そういう女性に出会うたび、女性への差別はなくならないんだろうとぼんやり考える。

 差別を無くそうと声高に叫ぶ昨今。
 私は、ときどきよくわからなくなる。

 あらゆる多様性を受け入れろ、寛容であれ。そういう意見をたくさん目にするのだが、寛容であれとうたうのであれば、「受け入れない誰か」も受け入れなければならない。
 もちろん、「受け入れない差別主義者」が社会全体に蔓延するのは良くないと思う。不公平だからだ。

 今の世の中はあらゆる主義主張が簡単に世界中に発信されてしまう。
 それが私にはとても良いものであり、とてもおそろしいものだ。

 私は最近、通勤電車に増えた学生たちが、マスクをしていても会話に花を咲かせているのをなんとなく嫌に感じる。これは私個人の【気持ちの問題】だ。
 たぶん電車内の換気はされているし、ほんの十分ほど話したところで何かあるわけではない。それでも、私は数人が密集している場で会話する人にはあまり良い印象を持たない。
 もちろんこんな私の気持ちは他者に周知され黙ることが徹底されるはずもないし、そんなことは起きてはならない。
 なぜなら徹底することは換気をしていると主張している電車のポスターや、密集地の努力をすべて否定してしまうのだ。

 世間には【暗黙の了解】が跋扈していて、私は日々それらにさらされて生きている。
 結婚は良いもので、出産は正義らしい。
 化粧は男のするものではなくて、女は一定の水準を保った化粧を施すべきらしい。不公平も良くないらしい。
 誰かの意見を安易に否定すると、誰かは傷付いてしまうらしい。
 感染しないように従業員たちは体温をはかり、マスクをしていればまったく問題がなくて、床に落ちた肉は絶対に捨てなきゃいけなくて、年功序列は尊ばれ、差別はなくなるべきらしい。

 どれが正しくてどれが間違っているのか、私は毎日いろんなことの真偽を考える。考えてたまに口に出すと「そんなこと聞かなくてもわかるよね」と苦笑いする人しかいなかった。こんなことを考える暇も必要もないと言う。

 私は私の他に私のような人を見たことがない。
 ないから、きっといない。口に出したら変人扱いされてしまうから、そうではないと否定されるだろうから、いないんだよ。