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私のファンタジー、アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティの作品が大好きです。
私にとって、クリスティ作品はファンタジー。
痛い、苦しい、つらい。
そんな時こそ、クリスティ!

私の回復を支えるクリスティ作品

春休み中に、わが家にもコロナがやってきまして。
子どもの看病を終えた私は、自分の体調回復をがんばりました。
私の体調回復を支えたのが、アガサ・クリスティの作品たちです。
ベランダにおっきなクッションを持ち込んで、
ズボンを膝までたくし上げて日光浴をしながら、
クリスティの世界に浸る。

入浴剤をたっぷり溶かした湯船で、
水蒸気を鼻から吸い込みながら
クリスティの作品に癒される。

わたくし、アガサ・クリスティ名義で出されている翻訳本は、すべて所有しておるでごんす。
本棚の前で背表紙を品定めしながら、自分で自分にクリスティを処方してあげるのでやんす。
まずは、そうですね、短編集から始めましょう。

ヘラクレスの冒険

ヘラクレスって、ギリシャ神話のヘラクレスです。
名探偵エルキュール・ポアロ(Hercule Poirot)のエルキュールって、ヘラクレスのフランス読みだねっていうところから物語が始まるのです。
たったそれだけなんだけれど。
そこからポアロは、ギリシャ神話ヘラクレスの難業に見立てた事件に挑戦していくことになる。
それぞれの事件が短編になっていて、アッサリ読めるし、わかりやすい。

私は「ケルベロスの捕獲」が好き。
ポアロが心を寄せているロサコフ伯爵夫人と、地下鉄のエスカレーターですれ違ってから二人が再会するまでの運びがすごく好き。
ロマンティックなんだか、茶化されているんだかわからない、著者の主人公ポアロの扱いにニヤッとしちゃう。
事件が始まってからは、ちゃんとした王道の名探偵ポアロが描かれているんだけれど、その前後ではクリスティがポアロをイジりまくってる感じがして、ポアロにもクリスティにも人間味を感じるの。

パディントン発4時50分

大好き。
パチッとはまっていくストーリー展開と、ミス・マープルのチャキッと感。
実際に事件の手がかりを追う人物は、若くて優秀な家政婦ルーシーなんだけれど、ミス・マープルの達観っぷりがかっこよすぎる!
そして、ルーシーを中心に描かれる古き良き時代の日常生活の様子がワクワクする。
家政婦の仕事を通して、食卓の様子、屋敷内の部屋、人間関係のあり様が伝わってくる。
事件の解決も、ミス・マープルのキャラクターをめいっぱい活用して、スッキリする結末。
ミス・マープルの出番は多くないけれど、マープルの魅力がぎゅう詰めになった長編です。

死の猟犬

ミステリー小説というより、ホラーとファンタジーの間の作品って感じがする。
謎が謎のままでいい、っていう気軽さがある。
ホラーというほどこわくはない、なんだかちょっと不思議な話の短編集。
でも、クリスティの世界を満喫したいときは物足りないかもね。
いやいや!「検察側の証人」があった!
これぞクリスティ!な作品が収録されてたわよ!
「検察側の証人」って、老婦人を殺害した容疑で若い男性が逮捕されて、その無実を証明するために奮闘する弁護士から語られるストーリーなんだけど、クリスティの登場人物の扱い方がすごく楽しい。
子ども用ジェットコースターみたいなアトラクション的作品。

邪悪の家

ぐわんとひっくり返される感じが気持ちいい。
読者も登場人物も、みんなで気持ちよく裏切られる。
裏切られる快感を味わうために読み進める。
私にとってのミステリー小説の醍醐味は、そこにある。
ハッとさせられる瞬間、本に向かって目を見開いてしまう瞬間がたまらない。

カリブ海の秘密

ミス・マープルがすごい勢いで活躍する。
彼女の見たもの聞いたもの、考えていることが、つぶさに描かれているので、読みながらミス・マープルと一体になれる幸せを感じる。
そう。私はミス・マープルになりたい。
人間に愛情を持ち、人間らしさを歪めることなく受け入れているからこそ、本質を見抜く観察力。
憧れるー!

復讐の女神

「カリブ海の秘密」を読んだ後に読むものといったら、これでしょう。
ミス・マープルが事件解決のために協力したラフィール氏からの依頼が発端になる物語。
ラフィール氏の遺言は、明確な指示だけしか遺していなかったから、最後までずっと何を依頼されているのかわからないままなのに、最後の最後でビタッとすべての思いがあふれるように描かれる。
少し哀しさの残るエンディング。

運命の裏木戸

お風呂に持ってったら、湯船に落っことしてギャー!となった。
気をつけよう。

この作品は、クリスティが最後に執筆した作品らしいけど、なんだかまだまだ続きそうな感じ。
じんわりじっくり続くエネルギーを感じる。
私の大好きなトミー&タペンスのストーリー。
クリスティ作品に登場した当初はチャッキチャキの20代だったトミーとタペンスにも、孫ができて新しいおうちで生活をし始める。
その新居で「メアリ・ジョーダンの死は自然死ではない」というメッセージを見つける。
っていうか、掘り起こす。
タペンスが好奇心旺盛に古本からメッセージを探り当てるシーンも、トミー&タペンスのシリーズっぽくて好き。
突っ走るタペンスと、地に足ついた冒険好きなトミー。
ハラハラしたりムフフと笑ったりしながら、2人の会話を堪能できる作品です。

謎のクィン氏

クィン氏は、不思議な魔力を感じる、恋の妖精みたいな人。
姿を見せたり見せなかったり。本当にいるんだか、本当はいないんだかわからない。
だけど、恋にまつわる事件の解決を導くように、サタースウェイト氏の前に現れる。
サタースウェイト氏。
この名前、この響き。好き。
このおじさんは、教養ある普通のイギリス紳士で、完全に現実世界の人。
サタースウェイト氏の前にクィン氏が現れると、読者とともにサタースウェイト氏はファンタジーの世界にいざなわれる。
ファンタジーと現実世界の行ったり来たりが楽しめる一冊。

パーカー・パイン登場

スッキリ爽快。
夢見心地の絶頂で夢が覚めたのに、後味スッキリ!爽快な朝を迎えたような気持ちになれる。
ポップでカジュアルでユーモラスな短編集。
統計学からのデータをもとに、あらゆる人間の「幸せ」を叶えるパーカー・パイン氏。という設定自体がおもしろくなっちゃう。
いろんな依頼人が出てくるんだけど、全体的にエンターテインメント要素が強めでグッと重くならないストーリーばかりだから、殺人事件とかのミステリーはこわいなと思う人にもおすすめです。

アガサ・クリスティの魅力

とてつもなく人間味あふれる作品たちを生み出してくれたクリスティに、心からの感謝をお伝えしたい!
人間のいいところも、悪いところも、全部ひっくるめて作品に詰め込んで、それらを愛していこうとするような雰囲気が好きです。
クリスティ作品を愛読して約30年。
私、これからも、アガサ・クリスティの作品を愛し続けるわ。


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