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美しい時間しかない世界:「ライモンダ」第3幕より

2021年の夏に開催された第16回世界バレエフェスティバルのオンライン配信の観劇レビューです。

マリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフの「ライモンダ」

今回は、マリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフの「ライモンダ」のパ・ド・ドゥ。
マリーヤ・アレクサンドロワのInstagramにバレエフェスの写真が掲載されていました。
スターがてんこ盛りで、キャーキャー言っちゃう!

ラントラートフの踊りをもっと観たい!

ラントラートフの踊りが好き。
優しさと柔らかさで包み込んだ強靭な伸び縮み。伸びるジャンプ。羽のような着地。
オンライン配信でのインタビューでは、観客からの拍手で感極まった姿がとても印象的でした。
「嵐のような熱い拍手の波を舞台で感じて、最後にお辞儀をしたときに涙が出た」
「世界が文化でつながることを壊してはいけない」
そんなお話をされてました。
私、ラントラートフさん、好き!

ラントラートフが「ラ・バヤデール」でソロルを踊ってる動画を見つけました。
ニキヤがザハロワ。ガムザッティがマリーヤ・アレクサンドロワ。
名前の羅列を見ただけで、とろけます。
動画は、有名なバリエーションを踊ってるシーンから再生されるように貼ってあります。
ぜひ!楽しんでください!
ラントラートフのソロの後には、マリーヤ・アレクサンドロワのソロも始まります。

ラ・バヤデールといえば、コールドバレエの美しさが、、、と話を続けたくなっちゃう!
あと、ラ・バヤデール、ライモンダ、パキータの3つの演目がいつもごっちゃになっちゃうんだよなぁ。

それはともかく、
今回は世界バレエフェスティバルのオンライン配信で見た、マリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフのライモンダの話をしたいと思います。

美しい時間だけを切り取ったようなパ・ド・ドゥ

画面を見つめながら、強く感じていたのは、
ただただ美しい
ということでした。
見ていると、天に昇っていくように画面の奥に吸い込まれていく。
美しい時間だけで彩られたパ・ド・ドゥ。
優雅なエスニックの雰囲気が、背後に、静かに、力強く流れている心地よさ。

アレクサンドロワのフンワリした袖が、動くたびに音に少し遅れてたなびく。
その品のある妖艶さで、舞台にファンタジック感がとろけ出す。
マリーヤ・アレクサンドロワの凄みのある貫禄に、画面の前でたじろぎました。
それは舞台の上の大黒柱のような、観客が観劇するための心の拠り所、心を預けて自由に楽しむ場所が確保されているような貫禄で、誰もが魅了されるダンサーだなぁと思いました。
そしてはばたくようなジャンプと、圧巻のアダージオ。
静かにエキゾチックな美しさが流れるパ・ド・ドゥでした。

男性ソロのバリエーションでは、ラントラートフの額縁いっぱいまであふれるロシア感。
ジャンプからのプリエは、着地の隙のなさが心を震わせる。
完璧な美しさに対するリスペクトで、震えちゃう。
手足に優雅さをまとって、舞台の上にふりまきながら、美しい世界を観客に届けているようでした。

マリーヤ・アレクサンドロワが踊るバリエーションは、神々しい月の光を浴びているような時間だった。
女神が月夜の湖のほとりで、祈りを捧げる踊りをしているような。
マリーヤ・アレクサンドロワは大理石の彫刻の女神ように、まぶしい光を集めて、それを観客に反射させているようだった。

「ライモンダ第3幕」の参考動画

宴のはじまり

ライモンダ第3幕の最初は、中低音の木管楽器の音が鳴って(本当に木管楽器かどうかわかんないけど、私にはやわらかい筒を通ってきた音が響いているように聞こえる)、華やかなラッパが響く。
オープニングテーマ曲のようなワクワクするような上品なメロディが繰り返し流れて、楽しい宴のはじまりはじまり。
おとぎ話の最初のページを開いたような胸の高鳴りを感じます。

一段落すると、一瞬、曲がとまる。
次の音が鳴ると、突然エスニック情緒に満たされた世界が現れて、青いスモークが流れてきたような(流れてないけれど、そういう音が聞こえてくる)妖しげで華やかな宴が、静かに行われます。
フルートの小鳥の鳴き声のような音に合わせて、小刻みに進むところがとんでもなく心を撃ち抜かれる。ズキュン。

アレクサンドロワとスクヴォルツォフの踊るライモンダの動画がありました。
2人の登場のシーンは、とってもワクワクします。

優雅なエスニックの世界

私がアレクサンドロワ&ラントラートフの魅力を一番堪能したのは、それぞれのバリエーション(ソロで踊るやつ)でした。
先ほどと同じ動画ですが、バリエーションの部分から見られるように貼ってあります。
最後まで、あっという間に楽しめる見どころ満載のシーンです。

踏む踊り、ライモンダ

ライモンダはハンガリー民族舞踊がモチーフになっていて、体を折り紙みたいに使って踊るのが特徴的だなぁと思っています。
肩とアゴのラインをピシッと合わせて、体を一枚の紙みたいに使う感じ。
古代エジプトの壁画にある絵みたいな。
でも、ただ平面的なんじゃなくて斜め上方向や斜め下方向にエネルギーを向けるしぐさになるから、妙な立体感があるの。
だから、目の前の空間をパタッと折ったり、スッと開いたりするのが見えるような踊り。

そしてライモンダは、踏む踊り。だと思う。
地面で音をとってるように見える。
下の方に向けてブワッとエネルギーを向けてステップを踏んだ、その瞬間に、エネルギーが反射してくる反動でジャンプしたり、横に動いたり、脚があがったりしてるような踊りだと思うのです。
だから、見てる私もビクンビクン心がはじけるように反射しちゃう。
妙なお祭り感がある。

「妙な」というのは、タタッというような、半歩ズレた感じがあるんです。
それがすごく心地いい。
そしてワクワクするんです。

そういうはじけるような踊りをもっとも堪能できるところは、最後のコーダ。
最後の方で、たくさんの人が踊っている部分です。
どうぞ!!

今回の世界バレエフェスティバルでは、ここは踊られなかったけれど、すっごくワクワクする曲で大好き!
ジャン!って曲が終わった瞬間、ブラァボー!!って叫びたくなっちゃう。

アレクサンドロワとラントラートフのパ・ド・ドゥが見られて、本当によかったなぁと思いました。
このペアがくり広げる穏やかで真摯な世界は必見です!

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