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理詰めで誰でも面白いストーリーが作れる 6 キャラクターシステム

面白いストーリーを作るための、充分な量と質の理論を提供する連投テキスト。
6回目である今回は、キャラクターという概念への理解を深めるために、キャラクターシステムという考え方について述べる。


イーストンの政治システム論

「いきなり政治の話かよ!?」と不信感を抱いた方、どうかご安心いただきたい。
ここからの話は断じて「政治的主張」ではなく、「政治学上の理論の紹介」である。
なぜそんなものを紹介するのかと言えば、キャラクターの本質を理解する上で、非常に有益であるからだ。

以下に紹介する政治システム論とは、イーストンという政治学者が提唱した、政治学上の理論である。

まずはこの図を見て欲しい。

「政治システム」というのは政府のようなもの、
「環境」というのは国民生活を含めた社会全体のようなものだと考えて欲しい。

「入力」から順に見てゆこう。
「要求・支持」とあるが、要求したり支持したりするのは、「環境」に含まれる国民だと考えて欲しい。
国民の「要求・支持」を承けて、「政治システム」の内部では政策の立案や審議等、様々なことが行われる。
そうして最終的には、「政策の決定と実施」という「出力」が行われる。
さらにその「出力」の結果、「環境」すなわち社会全体には様々な影響が及ぶ。
その影響は「フィードバック」と呼ばれる。
その様々な影響すなわち「フィードバック」を承けて、国民は「政治システム」を「支持」したり、新たな「要求」をぶつけたりする。
つまり再び「入力」が行われるのだ。
後は延々とその繰り返しである。

試しに消費税を例にして、この図に当てはめてみよう。
国民が「消費税を廃止しろ」という声を上げたとする。
これはまさしく「要求」であるから、この図の中では「入力」に当たる。
それを承けて「政治システム」の内部では、様々なことが行われ、結果的には消費税廃止は実現せず、消費税減税という「政策の決定と実施」が「出力」されたとしよう。
その消費税減税は「環境」すなわち社会全体に様々な影響を及ぼす。
それが「フィードバック」である。
国民は消費税減税を「支持」したり、あくまで消費税の廃止を「要求」したりすることで、再び「入力」が行われる。
以下延々と繰り返し。

というのが、政治システム論の考え方だ。

私はこの政治システム論に少し手を加えることによって、キャラクターシステムという独自の考え方を編み出した。

キャラクターシステム

次にこの図を見ていただきたい。

構図そのものは政治システムと全く同じであることが、おわかりいただけるだろうか?
「入力」を承けて「システム」が「出力」を行い、「出力」の影響が「フィードバック」して、それを承けて再び「入力」が行われ、以下延々と繰り返しという構図である。

以上の点を念頭に置いた上で、
政治システムの図とキャラクターシステムの図とで、どこがどう変わっているのかを確認したい。
「政治システム」が「キャラクターシステム」に、
「環境」が「状況」に、
「要求・支持」が「状況把握」に、
「政策の決定と実施」が「行動」に、
「フィードバック」が「状況変化」に、
それぞれ変わっていることを意識して欲しい。

それでは順に見てゆこう。
「入力」に当たる「状況把握」とは、読んで字のごとくである。
「自分自身が今現在、どのような状況に置かれているのか」――
それを把握するという行為が、この図における「入力」である。
「状況把握」という「入力」を承けて、「キャラクターシステム」の内部(当該キャラクターの脳内や胸中)で、様々な処理が行われる。
その結果、何らかの「行動」が、実行に移されるという形で「出力」される。
実行に移された「行動」は、多かれ少なかれ状況に影響を及ぼす。
その結果、「状況変化」という形の「フィードバック」が起こる。
その「変化した状況」を、再び「状況把握」するという行為が再「入力」であり、以下同じことが延々と繰り返される。

試しに架空のキャラクター、一郎(男子高校生16歳)の下校時の出来事を、この図に当てはめてみよう。
一郎が帰り道を歩いていると、一天俄かに掻き曇り、土砂降りの雨が降ってきた。
一郎の全身は瞬く間にずぶ濡れに。
「土砂降りの雨でずぶ濡れ」という「状況」を、一郎は否応なしに「把握」しているので、これはまさしく「入力」に当たる。
この「状況把握」を承けて、一郎は慌てて考えを巡らす。
すなわち「キャラクターシステム」内部での処理である。
一郎が即座に思い出したのは、いつもカバンに入れてある折り畳み傘の存在である。
直ちに「折り畳み傘を探す」という「行動」を起こす一郎。
これが「出力」である。
カバンの中を覗き込んだ一郎の目に、スマホの待機画面が飛び込む。
そこにはメッセージ受信の通知。
送信者は何と、一郎が密かに想いを寄せている、クラスメイトの女子だった。
表示されているメッセージ内容は「放課後、屋上に来て」。
「折り畳み傘を探す」という「行動」を起こした結果、「土砂降りの雨でずぶ濡れ」という状況に、「あの子が自分を待っている」という状況が追加された。
これは「状況変化」すなわち「フィードバック」である。
「あの子が自分を待っている」という「状況の把握」が「入力」であり、それを承けて一郎の「キャラクターシステム」の内部では、再び処理が行われ、
以下延々と繰り返しといった具合である。

これが、キャラクターシステムという考え方である。

キャラクターシステムの内部で行われていること

前項で、「キャラクターシステム内部での処理」という表現を用いたが、この「処理」についてもう少し掘り下げてみよう。
「処理」とは一体何なのか?
キャラクターシステムの内部で行われているのは、果たしてどのようなことなのか?

やや乱暴な要約をするなら、キャラクターシステムとは、「状況把握」という「入力」を、「行動」という「出力」へと変換する、装置のようなものである。
その「変換」の細かな仕組みこそ、システム内で行われる「処理」の中身である。

まず注意して欲しいのが、「出力」されるものが「行動」であるという点だ。
行動が実行に移されるためには、実行に移すべき行動が決定されなければならない。
実行すべき行動が決定されるためには、充分な検討が行われなければならない。
実行すべき行動を検討するためには、何らかの基準が必要である。

その基準として最も重要なものの一つが目的である。
なぜなら、前回のテキストでも述べた通り、行動とは目的を達成するための手段だからだ。
つまり、実行に移すべき行動を検討するためには、目的が明確化されなければならないのだ。

これも前回のテキストで述べたことだが、主人公は常に何らかの目的を持っている。
ある時点で主人公が持っている目的を、現行目的と呼ぶこととしよう。

「状況把握」という「入力」が行われた際、最初に浮上する問題が、「把握した状況」と現行目的との兼ね合いである。
現行目的とは常に、過去の状況を承けて設定されたものである。
しかし状況は常に変わり続ける(「フィードバック」し続ける)ので、「入力」された「状況」下では、現行目的が意味を成さなくなることも、全く珍しいことではない。
その場合、現行目的は破棄され、代わりに新たな目的が検討され、そして設定される。

話が煩雑になったが、大まかな流れを要約すると以下のようになる。

「状況把握」という「入力」を承けたキャラクターシステムの内部では、
目的の検討が行われる
目的の設定が行われる
行動の検討が行われる
行動の決定が行われる
以上のプロセスを経て、「行動」という「出力」が行われる。

つまり、キャラクターシステムの内部で行われる処理とは、目的の検討と設定、そして行動の検討と決定の四つである。
キャラクターシステムを装置とみなすなら、「状況把握」という「入力」は、目的の検討と設定、行動の検討と設定によって、「行動」という「出力」に変換されるという流れなのである。

以上の説明ではやや無機的なきらいがあるので、以下のように言い換えても良いだろう。

キャラクターシステムとは、
時々刻々と変化し続ける状況に応じて、
常に「最適な」目的と行動を検討・設定・決定する装置
である。

まとめ

イーストンの政治システム論から、
「入力」を承けて「システム」が「出力」を行い、「出力」の影響が「フィードバック」して、それを承けて再び「入力」が行われ、以下延々と繰り返すという構図を抜き出し、
キャラクターの行動決定に当てはめたものが、キャラクターシステムである。

「状況把握」という「入力」を承け、
「キャラクターシステム」の内部において、
目的の検討、目的の設定、行動の検討、行動の決定という処理が行われた後、
「行動」という「出力」が行われ、
その「行動」によって「状況が変化」し(「フィードバック」が起こり)、
変化した「状況が把握」されることで再び「入力」が行われ、
以下延々と繰り返されるというのが、
キャラクターシステムという考え方である。

キャラクターシステムとは、
時々刻々と変化し続ける状況に応じて、
常に「最適な」目的と行動を検討・設定・決定する装置である。

なぜ「最適な」を「 」で囲ったのかと言えば、各キャラクターの個性によって、何が最適であるかは、自ずと異なってくるからである。
次回はその点、すなわちキャラクターの個性について、深く掘り下げるつもりである。

前回のテキストでは登場人物を生身の人間として扱えなどと言っておきながら、今回のテキストでは一転して装置などという表現を用いた。
そのことに違和感を覚えた方もいらっしゃるかも知れない。
その点についても、キャラクターの個性について掘り下げる次回のテキストにおいて、極力納得していただけるような補足説明を行いたい。

今回のテキストは以上である。
最後まで読んでくださったそこのあなた、本当にありがとうございましたm(__)m

参考文献
○ロバート・マッキー著、越前敏弥訳『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(フィルムアート社)(2018年)
○沼田やすひろ『超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方』(講談社)(2011年)
○Webサイト『コトバンク』内「政治体系」の項(https://kotobank.jp/word/政治体系-1178804)

Xやってます。
https://x.com/ideology_theory
主に政治経済ネタをつぶやいてます。
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万民救済!日本復活!

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