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ブーブーブレイブ          『第三話・最後のヒーロー』

◯御習の家・表(夜)
表札に『御習』と書かれている。

◯同・食卓(夜)
夕食を食べている冷斗、五織、御習。
冷斗と五織は横並んで椅子に腰掛けていて、向かいには御習が椅子に腰掛けている。
御習の声「我が家の名字は御習。尻を向けて円陣を組むレンジャーたちの絵と確実に意味がある、そう私は確信し、その日の夕食の時に両親にそれとなく問いかけた」
御習「父さん、母さん、ぼくらの家系は由緒があるんだよね?」
冷斗「はあ? 由緒? 百姓のはずだぞ」
御習「でも、例えば芸能の有名人とか先祖にいなかった?」
五織「そんな祖先がいたら出汁にして商売でもしてるわよ」
冷斗「なんかあったのか」
御習「いや、なにも」
御習の声「私は両親にしつこく聞くのを止めた。私のヒーローのグッズを全部捨てるくらいなのだ。もしまたヒーローの話しになれば、強く否定されるのは目に見えていた」
御習、口をモグモグさせて首をひねり、
御習の声「自分で答えを見つけるしかないと思った。だが、一体あの絵はなんなのか、検討がつかなかった……」

◯同・御習の部屋(夜)
布団で仰向けに寝ている御習。

◯御習の夢
御習、レッドレンジャーになり、二メートルはある怪獣Aの胸に肩を入れて組み合っている。
レッドの御習、いったんバックに飛び、右手の拳を突き出してパンチする。
御習「レッドパンチビーム!」
パンチの先からビームが出て怪獣Aが消滅する。

◯御習の家・御習の部屋(夜)
御習、目を覚ます。
御習「夢か。うん?」
御習、起き上がり布団を払う。
御習の腹が妊婦ほどに膨らんでいる。
御習「えっ?」
御習、お尻を見る。ぷっと屁が出る。
御習「これは……」
またぷっと屁が出る御習。
御習「そうかついに!」
御習の声「この時私はとある武器を得た――」

◯黄土高校・体育館
全校集会のため整列している生徒たち。
列の中央の御習、にんまり笑顔。そのお腹はふっくら膨れている。
校長A「みなさん、おはようございます。春の全校集会を始めます。今年も朗らかな陽気と言いたいところですが、最近怪人の目撃情報が出ています。ですので厳重に注意すること。しかーし、だからといって決してビビらないこと。悪に立ち向かう勇気が悪を」
突然、御習が屁をする。
御習の屁「ぷっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぷりっ!」
唖然とする校長Aと生徒たち。
続いてくっせーなどの苦情。
校長A「そんなもんトイレでしろー!」
顔をくしゃっとさせて笑う御習。
続けてこめかみに右手のピースを付け、離してかっこつける。
(参考 群馬県高校新人陸上女子100㍍決勝)

◯同一年一組・表
一年一組のプレート

◯同・中
生徒たちが談笑している。

◯同・表
一年一組のプレートの下にやってくる御習の足。堂々とした足、体、そして、顔。 

◯同・中
教室の前方の扉を開け御習が入ってき、奥に堂々と歩いていく。
クスクス笑い出す生徒たち。はずくねーのかな、どんだけ溜まってんだ、などの声がする。
御習、一番前の最奥の自分の席に堂々と座る。
御習の声「御習のオナラ。それも特大最長。そりゃおかしいに決まってる。だが、私にはまったく恥ずかしさはなかった」
御習、窓から外を見る。
御習の声「ついにレッドになれたのだから。武器がオナラの!」
御習「ピンチにはオナラでリラックスだぜ」
緩めのズボンから覗く御習の半ケツ。

◯御習の家・御習の部屋(夜)
御習、枕二つを自分の代わりに布団の中に入れて、掛け布団を整える。

◯道路(夜)
黒枠に赤色のレンズのメガネを掛け、黒のマスクをし、赤いパーカーに赤いスパッツ姿の御習、電柱から電柱をさっと移動していく。
御習の声「早速、私は夜中にパトロールに出ることにした。不安はまったくなかった。それよりも長年のヒーローへの抑圧からの解放感が強かった。だがその矢先……、驚愕の事態に遭遇することになった。いやマジで驚いた」

◯繁華街(夜)
閉まっている店が並ぶ繁華街。
御習、腰をかがめて見つかりにくいように歩いている。
ホステスAの声「きゃー!」
御習、さっと振り返って走って路地裏に入る。

◯路地裏(夜)
ホタル型の怪人ホタブーがホステスAに馬乗りになっている。
ホタブーの尻はきらきらと茶色に光っている。
ホステスA「やめてー!」
ホタブー「黙れザコ!」
ホタブー、尻に片手をやる。手がドロの糞だらけになる。次にその手でホステスAの顔を撫でる。
ホステスA「やめてー!」
泥だらけになるホステスAの顔。
ホステスA「くさい! くさすぎる!」
ホタブー「てめえ! いい匂いがしますだろうが!」
ホタブーを発見する御習。
御習「やめろー!」
御習、ホタブーの体を持ち、ホタブーを放り投げる。
10メートルほど遠くの壁にぶち当たるホタブー。
ホステスA、逃げ去る。
ホタブー、起き上がると御習を見る。
ホタブー「なんだてめえ!」
御習「ただの御習さ! じゃないレッドだ!」
ホタブー「……なんだそれ。オナラ? 屁なのか? おかしいやつだ。ただ先に言っとくぞ。俺ラスボスだからな」
御習「えっ?」
ホタブー「俺はラスボス。最後のボス」
御習「最後の?」
ホタブー「そう、ラスボスのホタブー」
固まる御習。
御習「……」
御習の声「まさに驚愕の事態だった! 最初の敵がいきなりラスボスだった!」
御習、キリッとした顔になり、
御習の声「だが、そのラスボスに怯むことなく私は突き進んだ」
御習「だからなんだってんだ! 俺はレッドだ! この地球を守るヒーローだ!」
ホタブーに向かいお尻を向ける御習。
御習「レッド暴風警報!」
ぷーっ! と爆音がし、御習の尻から屁が発射される。
強風がホタブーに向かって突き進み、砂埃が巻き上がる。
ホタブー、風を受けて壁に背中を強打する。
ホタブー「ぐへっ!」
ホタブー、地面に倒れて消える。
御習「やった、か」
御習の声「ラスボスらしいホタブーは滅法弱かった。私はあっさりと勝利した」
こめかみに付けてあったピースの右手を離してかっこつける御習。

◯地球
地球の上に浮き、両手を腰に当てて堂々とした御習。
御習の声「ホタブーの勝利を皮切りに、私は次々と怪人を倒していき、やがて地球一のヒーローになる、そう期待に胸を膨らましていた。だが――」

◯御習の部屋
ソファに仰向けに寝ている学ラン姿の御習(18)、退屈そうな顔。
御習、お腹を手で力なく叩く。
御習の声「ホタブーを倒してから武器の強いオナラはまったく出なくなった。新しく怪人が出ることもなかった。本当にホタブーはラスボスだったらしい。諸悪の根源を断ち切り、やがて地球に平和が訪れた。はいいが、私は目標を失った」

◯道
道の真ん中を背を向けて歩く御習。学ランを着て背中を曲げている。
御習の声「それから普通の人として」
学ランが背広に変わる。
御習の声「ごくごく普通に会社勤めをし」
背広がセーターになり、頭もスキンヘッドになる。
御習の声「私は年老いた。そして75歳のいま、遺書をしたためている」

◯地球の全体地図
御習の声「現在はXX20年。怪人こそ現れないがこの国の貧富の差は拡大し、犯罪率も上昇している」
富裕層と貧民層の暮らしぶりが対比して描かれる。

◯ビル一階
机に足を乗せて椅子に腰掛けたり、携帯ゲーム機で遊んだり、漫画を呼んでいる社員達。
パトカーが道路を走る。だが誰も気に留めない。
御習の声「平和が染み過ぎて人類の危機感が乏しくなったためだろう。今後この状況が改善しなければ、、、」

◯御習(6)が右手をピースにしてこめかに当てているアップ
肖像画のような御習、真剣な眼差し。
御習の声「確実にヒーローたちが求められるだろう。残念ながら私はヒーローになり損ねた。だが、この私の人生の物語に触れた誰かから、真なるヒーローが誕生することを願う。そして地球を平和に導いてくれ」

◯ゲームセンター・クレーンゲーム機
ベンチに座っている学ラン姿の草。
草、『遺書75 作・御習風』のラスト一枚のページを捲る。
最後のページ、ENDと真ん中に書かれてある。
草、一息ついて、
草「すごく変形的な物語だったなあ」
草、立ち上がるとゴミ箱に向かう。
草「でもごめん、作り話には興味ないから。ぼくいまは勉強が大事なんだ」
『遺書75 作・御習風』をゴミ箱に捨てる草。

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