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ideaboard® 開発ストーリー連載 #5_モニターテスト編 |更新した仮説の検証

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
〈過去の記事〉
ideaboard® 開発ストーリー連載 #1_発想編 | アイデアの種を育て続ける 
ideaboard® 開発ストーリー連載 #2_デザイン開発編 | プロトタイピングと仮説の更新
ideaboard® 開発ストーリー連載 #3_デザイン開発編 | デザイン事務所 f/p design との協業
ideaboard® 開発ストーリー連載 #4_知的財産戦略編 |デザイナーの新たな収益モデルを考える

第5回目も引き続き、NKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN 室長の長﨑 陸さんにお話を伺います。いくつもの仮説と検証を繰り返し、最終形に近づいてきたideaboard。それでもまだ、実際に使用するであろう現場から見えてくるものは、デザイナーたちも気づいていなかった人の気持ちの小さな反応でした。

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長﨑 陸 / Riku Nagasaki
中西金属工業株式会社 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN
NKC BUSINESS DESIGN CENTER

1.外部パートナーとのモニターコラボレーション

ーモニターとして持っていったのは、#2_デザイン開発編 の記事で出ていたマテリアル京都さんが初めですね。その後、他のユーザーにも使ってもらったんですか?

一番ヘビーユースしてもらったのがコンセントさんです。
コンセントはサービスデザインという概念で国内を牽引している会社で、本当に”アイデアのまな板”として使うであろう場所。一番タフなユーザーとして、使い勝手や改善点を教えてもらうには最適かなと思いました。実際、大量にホワイトボードの面積を消費する業態であることはなんとなく知っていたので。だから、最終形に近いものが出来上がってきたタイミングで、それらを車に積んで東京に持って行きました。

ーコンセントではどんな風に使っていましたか?

本当に、とにかく書いて、人とコミュニケーションするためのアイデアのまな板として使ってくれました。二枚重ねてテーブルにしていたのも彼らですね。

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テーブルの天板にする前提で設計をする場合は、ある程度耐久性がないとダメなんです。ideaboardでは軽さを追求しているので、テーブルにするには強度が足らず少したわんでしまうのはわかっていた。ただ、ユーザーとしては絶対平置きしたくなるはずなので、実際には皆さんがどんな風に使うのかなと思って見ていました。結局、コンセントでは二枚重ねた後に、IKEAのテーブル脚を、通常の二脚でなく三脚置いて使っていたんです。普通に二脚で支えるとやっぱり少したわむ。でも三脚だと安定する。なるほどと思って、今KAIMENのスタジオでもこの方法で使ってるんですよ。

2.ideaboardが適さない現場への気づき

ー他にも想定していなかった使い方などはありましたか?

建築設計や不動産メディアも手がけているOpenAでは、想定していたシーンが無かったという意味でいい実験になりました。彼らもクリエイションが非常に強いので、どんな使い方をしてくれるんだろうと期待して本拠地であるシェアオフィスに数枚置いてもらったんですけど。

ーideaboardを使うシーンがなかった?

そのシェアオフィスで発生するミーティングは、アイデアをブレストするというよりも、決まったことを進めていくためのプロジェクトマネージメント的な要素が強いものが多かったんです。
実際に書かれている内容を見ても、スケジュールのチャートのようなことが多い。そうなると幅900mmしかないideaboardでは、手狭感が出てくるんですよね。さらに腰高よりも下は見えにくいから、結局上半分ぐらいしか書いてくれないこともある。

つまり、決まったことを進めていくためのシーンにideaboardは適していないということがわかりました。はっきり言って壁一面のホワイトボードの方がいい。もしくはideaboardにしても、縦に立てかけるのではなく、壁に横向きで張り付けられるアタッチメントとかがあったらいいのかなとか。

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ー実際の現場でリアルに設置することで、想像が及んでいない使われ方、もしくは使われないという事実が見えくるんですね。

形がシンプルであるからこそ、間違った使われ方とかも出てきます。自立させるための丸いシリンダーは本来、ideaboardの横から刺すものなのですが、下から挿しちゃったりとか。

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東京で展示した時にも同じように間違って置かれて、お客さんが当たったときに倒れて割れたこともありました。この問題はデザインの最終フェーズで、f/p design(以下f/p)さんと意見が分かれたところです。僕は、ユーザーに対して正しい向きをわかりやすく伝えるために、一部平らな面があってもいいんじゃないかと思ったんです。でもf/pの方は、もっとプリミティブでもいいんじゃないか、ここまで引き算しているのに、新たな要素を付け加えるべきでないと。さらに、将来的に例えば正円形のideaboardが作れた時、シリンダー側に面があるとうまく収まらないことも指摘してくれました。
そこまで考えたら、面を付けない方がいいのかなっていう判断ですね。ユーザーは、使い方を最初間違えても、正しい使い方を比較的すぐ学習するし、それ以降はきっと間違わない。そこはもうユーザーの学習に任せることにしました。

3.フチの色の違いによって生み出される、ユーザーの行動変容

ーモニターに使ってもらうことで商品的に変更になった点などはあるんですか?

例えば、当時、周囲のフチを白くするか黒くするかで悩んでたんですよ。最初のプロトタイプver1.1あたりでは、とにかく形も色もシンプルな、薄い豆腐のような1枚の板にしようと考えていて。CG上ではもちろん描けるし、作れそうであるとf/pさんとも合意していた。ただ、材料となるウレタンを選定していく中で、白いフチに対する懸念が出てきたんですね。

例えば、ウレタンって実は顕微鏡でしか見えないレベルの微細な穴が空いているので、書いて消すを何度も繰り返すとだんだん黒ずんでいくかもしれない。他にも、白いウレタンは黄変しやすかったり、黄変しない特別なウレタンは成形が大変だったりとか懸念事項が多かったんですね。

ものづくりにおいてはこの材料の選定のところが一番苦労したところかもしれない。その時点で、僕は白へのこだわりが捨てきれていなかったんですが、f/pさんたちは黒にすることも前向きに考えてくれていた。じゃあどちらも作ってみようと。そんな経緯で、モニターへ渡すものについては、フチが黒いものと白いもの、両方を用意しました。

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ー黒いフチと白いフチ。モニターではその2つでどういった違いが見えてきたんですか?

面白いんですけど、フチの色によって人の挙動が変わるんですよ。

試しに使ってみてくださいと渡したら、まず、白い方は床にそっと置くんです。きれいな真っ白のものなので、オフィスの土足で歩くコンクリートの床に置く時に、ちょっとした割れ物を扱うように隅からそっと置く。
一方で、黒い方は結構ラフに床に置く。バンパーがついているような感じで。微かな違いなんですけど見てるとはっきり差があるんですね。それを見たときに、これは黒だなと。地面にガンガン置いて立てかけることを前提にしてたので、ユーザー本人が言葉にできてなくてもどこか心の中で引っかかるのはよくないなと。

ー一見すると意匠性だけの問題にも思える周囲のフチの色ですが、その色でさえ、それを取り扱う際のユーザーの心理や行動に影響してくるんですね。

ものづくりの現場の意見から見ると、黒は作りやすさや品質管理のしやすさの面で優れている。デザイナーのエゴで考えると、白がいいかもしれない。でも実際のユーザーからすると、実は色はどちらでも良くて、置く時に気を遣わず置きやすい方がよかったんですね。いろんなオフィスでなんの気兼ねもなくどんどん使ってもらうためには、黒いフチの方が、使うときの気持ちのハードルが断然下がるっていうのは、僕たちもf/pさんも気づけてなかったことで、最終的な決め手になりました。

もうこの頃は仮説がかなり高精度で作れていたので、どちらかと言うと仮説が正しいかどうか、ひとつひとつ証明していく作業に近いところがありましたね。

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次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#6 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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