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サステナビリティ・レポートの構成要素(2)マテリアリティ

「マテリアリティ」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。サステナビリティ・レポートを読むと、マテリアリティの分析、マテリアリティの特定といった記述をよく目にします。今回はこのマテリアリティの意味について説明します。

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マテリアリティ

マテリアリティはマテリアルの類語ですから、物質とか原料に関わるというイメージがあります。実際にマテリアリティを辞書で調べると、「物質性、具体性、有形物」といった説明があります。さらに「物事の重大さ、重大な課題」といった説明もあります。会計用語として使われるケースもあり、その場合は「財務諸表に重要な影響を及ぼす要因」のことを指します。サステナビリティ・レポートにおいて使われる際は、自社のサステナブルな発展に向けた環境、社会、ガバナンス(ESG)面の重要課題といった意味を持つことが多いです。
 
現在、環境、社会、経済面の持続性への懸念は、多くの人々に共有されるものになっています。環境、社会、経済面の持続的開発に資するビジネスは、成長が期待され、持続的発展が見込めます。一方で、これに逆行するようなビジネスは、存在意義を問われ、持続的に発展することが難しくなります。マテリアリティ(重要課題)とは、自社の持続的発展に強く関係する環境、社会、経済面の課題と理解されます。
 
例えば、大量のエネルギーを消費する産業では、気候変動対策や温室効果ガス排出抑制が、持続的発展に向けた重要課題になるはずです。また開発途上国の熱帯雨林から原材料を調達するような産業では、現地の生態系の保全が重要な課題になりえます。あるいは、現地の鉱山や農園における強制労働、児童労働への対策が重要な課題かもしれません。さらに、産業廃棄物処理、製品のリサイクル、食品ロス削減のようなテーマも、業種によっては重要課題でしょう。
 
自社にとって何がマテリアリティかを検討する際には、そもそも誰にとっての重要性なのかについて考える必要があります。マテリアリティを特定する際に、「ステークホルダー」を集めてエンゲージメント(話し合い、意見交換)を実施することが求められますが、その際に、誰にとっての重要性に注目するかが、この「ステークホルダー」の選定に影響します。
 
SDGsに親和性の高い考え方、「ステークホルダー」をより広く捉える考えでは、投資家も含め、地域住民、消費者、取引先、NGO、行政なども含めた広い人々を「マルチステークホルダー」として位置付けます。この場合、企業の中長期的価値ではなく、企業の事業活動が地域の経済や環境、人々に対してどういった影響を及ぼすのかに注視します。例えば、開発途上国の熱帯雨林から原材料を調達している産業では、事業活動が直接・間接的に現地の野生動物の棲息、生態系保全に重大な影響を与えているのであれば、それがマテリアリティと見なされます。
 
一方で、「ステークホルダー」として投資家などの金融・資本市場の関係者に注目するアプローチもあります。投資家が投資判断を行う際に重要となる可能性の高い財務関連サステナビリティ・テーマが重要課題、すなわちマテリアリティとなります。例えば、前述のように大量のエネルギーを消費する産業であれば、石油や石炭といった化石燃料への依存は、中長期的に企業財務に影響を与える大きな経営リスクになります。企業の中長期的な財務的価値を損なうことになりかねません。こうしたビジネスでは、自社の企業財務に影響を与え得る気候変動対策などがマテリアリティと見なされます。
 
「ステークホルダー」を「マルチステークホルダー」と広く設定する見方と投資家に限定する見方とは、入口の視点は異なるものの、結果として同じ課題をマテリアリティと特定することがあります。両者のマテリアリティの具現化には時差が発生する可能性もあります。例えば、某国の農場が地域の少数民族を強制労働させて農産物を収穫させており、多国籍企業がこの農産物を原材料として使用しているケースがあったとします。当該企業がこの農産物の調達を続ける限り、現地の人権侵害は助長されることになります。地域社会を含む「マルチステークホルダー」の視点ではこの人権問題はマテリアリティと認識されます。
 
この人権問題が国際社会から注目されず、企業経営に影響を及ぼすことがないままだと、投資家の視点ではマテリアリティになりえません。しかし、その後に何らかのきっかけで国際社会が人権侵害に注目するようになり、消費者の不買運動、行政の金融措置といった事態が生じたとします。この場合、当該企業をめぐる状況は大きく変わります。この企業が現地から当該農産物を調達し続けることは、中長期的にこの企業の価値を損なうものと認識されます。投資家にとっても人権問題は重大な課題と認識されることになります。例えば、アパレル大手のH&M社は、2020年に中国の新疆ウイグル自治区産の綿糸の調達をやめる決定を発表しました。その前後の現地と国際社会の認識の変化を見ると、両者のマテリアリティの具現化、そして認識には時差があることをお分かりいただけるかと思います。


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次回は「サステナビリティ・レポートの構成要素(3)サステナビリティ課題との紐づけ」についてご説明します。 

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