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離婚後の親権・監護権(韓国)

 この記事は、法制審議会家族法制部会第5回会議(令和3年7月27日開催)に参考人として招致された山梨学院大学法学部の金亮完教授のプレゼンテーションを議事録から転載したものです。
 2024年3月に国会提出された改正民法案は、自民党法務部会「家族法制のあり方検討プロジェクトチーム」の提言から後退した内容でした。国会審議の修正動議により、ここで紹介する韓国のように共同養育計画書の作成義務付けは盛り込んで欲しいものです。

  • 大村部会長 それでは,再開したいと思います。
     続きまして,離婚後の子の養育の在り方に関する海外法制等のヒアリングを行います。今回のヒアリングに関しまして,事務当局の方から少し説明をお願いいたします。

  • 北村幹事 事務局でございます。前回の御議論を踏まえまして,これから4名の研究者の方々に参考人としてお話をしていただきます。他の御予定との関係もありまして,本日のお話は金参考人,山口参考人,小川参考人,西谷参考人の順にお願いしてございます。各国の法制度の把握のため,各参考人には第一次的には民事法制度の客観的な内容を御説明いただきつつ,必要に応じて実情等にもお触れいただくようお願いしております。本日は恐縮ながら,お一人15分から20分程度で御講演いただきたいと思っております。
     また,それとは別に,冒頭御説明いたしましたように,参考資料として石綿幹事からフランスについてお調べいただいた資料を,また,事務局の方から関西大学の西澤希久男教授等の協力を得て用意したタイについての資料を,それぞれ御参考までに配布してございます。こちらも適宜御参照いただければと思います。

  • 大村部会長 ありがとうございました。
     各参考人の御説明,あるいは配布資料等に対する御質問は,4人の参考人の御説明が終わった後にまとめてお願いできればと考えております。
     それでは,4先生,お待たせして大変申し訳ございませんけれども,最初は山梨学院大学の金参考人からということで,韓国の制度等について御説明を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

  • 金参考人 よろしくお願いします。では,画面共有をいたします。映っておりますでしょうか。では,始めさせていただきたいと思います。

 ただいま御紹介いただきました山梨学院大学の金でございます。甚だ僭越ではございますけれども,私の方からは韓国の離婚後の親権と監護権について申し上げたいと思います。時間の制約がございますので,本日はこの問題に関する韓国法の状況についての客観的な説明を皆さんにさせていただきたいと思います。
 では,レジュメに沿って説明をさせていただきたいと思いますけれども,まず,1のところを見ていただきたいと思います。今,画面に映っている1の表ですけれども,これは離婚後の親権と監護権の帰属についての韓国の家族法のこれまでの改正というものをまとめたものです。時間の制約もありますので,関係するところはこの三つ目の1990年改正と2005,2007年の改正が関わってきますので,この3か所についてお話をさせていただきたいと思います。  
 まず,離婚のときに父母の協議で親権者を定めるようになったのは,韓国では1990年の家族法改正のときです。それまでは離婚後は父の単独親権と定められておりました。その後の2005年改正ですけれども,御存じのように,この2005年の改正というものは戸主制の廃止と,それに伴う戸籍の廃止を内容とする家族法の大改正であったわけですけれども,この離婚後の親権については,父母の協議が調わないとき,それから,協議ができないときは家庭法院の審判の申立てをすることが当事者に義務付けられたというところに特徴があります。これは,1990年改正のところを少し見ていただきたいと思うのですけれども,この部分ですね,90年改正で,協議不調,不能の場合には当事者の請求によって家庭法院が定めると規定されておりましたので,それは飽くまでも当事者の任意ということになっておりましたから,この点についてはこのままだと申立てをしなければ親権の空白が生ずるという批判がありまして,それにこたえる形で2005年の改正で義務化したということです。
 次に,2007年の改正ですけれども,この改正で,これも先生方も御存じのとおりだと思いますが,韓国では協議離婚の手続が非常に厳格化されました。この協議離婚の手続は,この改正で,離婚後の子の養育と親権者の決定に関する協議書を提出しないと協議離婚ができないというふうになったわけですけれども,この制度が導入できたのは二つの背景があると言えます。一つは1977年に,上の方のこちらの方になりますけれども,この1977年の改正で協議離婚意思確認制度というものが新設をされました。この制度自体は当時の追い出し離婚というものを防止するために,離婚の意思の有無を家庭法院で確認をするという制度だったわけですけれども,これによって,協議離婚をしようとする夫婦は必ず家庭法院を経由しなければいけないという,言わば制度的な基盤というものができたということが言えます。
 もう一つの背景ですけれども,これはソウル家庭法院,実務の方で2000年代の初め頃から試験的に2007年の改正で新設した協議書提出の義務化ということなのですけれども,それを実は先立って試験的に運用していたということがあります。といいますのも,1990年代後半に起きた金融危機で韓国の経済状況が急激に変化をして悪化をしてきましたので,離婚がかなり増えてきたということと,離婚後の子の監護についても十分な用意がないまま離婚する夫婦が増えてきたという事情がありました。そこで,ソウル家庭法院では法院内に裁判官と調査官等からなる組織を作って,それに対応するための様々な対策に取り組んでいたわけですけれども,その一つが離婚熟慮期間だとか,離婚後の子の監護についてもう少し考えなさいというようなことをやっていたようなのですけれども,それが2007年の改正で立法に至ったということになります。
 2007年の職権でという,この部分に下線が引かれているわけですけれども,この職権でという部分については,レジュメに記載されておりますとおりで,この離婚意思確認制度というものは裁判手続ではありませんので,その中で家庭法院が職権を行使することは法体系上無理があるという理由から,これは立法の誤りだというような指摘をする立場もあります。ただ,これに対しては,手続法の立法をするという前提の下で,父母の葛藤が激しい場合には,やはり家庭法院が職権行使をする必要もあるのではないかというふうな主張をする立場もあります。
 今,離婚後の親権,監護権に関する家族法の改正で大事な三つの改正を紹介したわけですけれども,このような経緯を見てみますと,それぞれの改正に際して,国会での議論とかを確認してみても,少なくとも民法の条文上では,制定されてから今日に至るまで,例えば離婚後の共同親権を正面から認めるとか,あるいはそれを可能にする,あるいは共同親権を前提とした改正というものは実はなされていないということが申し上げられるのではないかと思います。にもかかわらず,韓国でこの共同親権への動きが出てきたということにつきましては,実務と学説によるところが非常に大きかったということが言えます。その動きを実務で具体化したのは,やはり先ほど申し上げましたように,金融危機を背景としたソウル家庭法院での対応が始まった2000年代前半であったということが言えます。

 では,次の2ページのところを見ていただきたいと思いますけれども,条文上はそのような共同親権というものは少なくとも読み取れないところがあるわけですけれども,では韓国で共同親権を認める根拠はどこにあるかというところになりますが,大きく分けて事実上の根拠と条文上の根拠の二つに分かれております。条文上の根拠につきましては,表の下に韓国民法の909条の訳文を載せておきましたので,適宜併せて御覧いただきたいと思います。共同親権を認める立場が挙げている実質的な根拠というものは表に書いてあるような二つになります。子の福祉と,離婚後やはり単独で子どもを監護しているという場合が多いですので,そういった単独で子を監護している親の負担を軽減することになると,これが事実上の根拠として挙げられておりまして,では条文上の根拠はどうなのかということなのですけれども,この共同親権を韓国で議論する際にやはりネックになるのが909条2項のところで,この部分ですね,親権は父母が婚姻中のときは,父母が共同でこれを行使すると書いてありますので,反対解釈すると離婚後は単独親権ではないのかというような指摘がなされるわけです。
 これに対しては,賛成派,これがほぼ多数ですけれども,レジュメに書いてありますように,この909条2項というものは離婚後の共同親権を禁止した趣旨ではなくて,親権の帰属における父母の対等性を定めた909条1項の延長線上にあるものであると,909条1項というものは,父母は未成年子の親権者となると書いてありますので,父母であれば親権者になるのだと書いてあるわけだから,これは対等なもので,これを行使の面で規定をしたのが2項であるということになります。それから,4項と5項があって,条文の内容はここに書かれているとおりなのですけれども,ここで裁判,親権者を指定するとか,いろいろなことが書いてあるのですが,この中身というものは,2人を1人にするわけではなくて,共同親権を維持するのか変更するのかを定めたという趣旨であると。ただ,子どもの福祉の観点から見たときに,単独親権が望ましいときもありますので,909条2項,4項,5項というものはそれに対応するための規定であるというような解釈をして,共同親権が可能だというようなことになっております。

 これが今,実務でも採用されていますので,そうしますと,次の3のところですけれども,今申し上げましたように,子の離婚後の共同親権というものは学説と実務で形成されてきたということが言えると思いますが,そういたしますと,今,レジュメの3のところで御覧になっていますように,離婚した後の親権と監護権の帰属というものはレジュメの3の⑴の①から④までの対応があり得るということになります。
  離婚後の通常の状況を考えますと,恐らく①か③のいずれを原則とするかということになってくるかと思いますけれども,韓国では共同親権を理論上認めるとしても,やはり原則的な形としては①,父母の一方が親権者と,監護者ですけれども,養育者を兼ねるというところを原則としているのではないかと思われます。
  それが㋐から㋒までですけれども,この㋐というものは韓国で共同親権を認めた判決としてよく引用される大法院の2012年4月13日の判決ですが,事実関係は少し分からないところがありますので,判決文だけ引用しておりますけれども,1行目のところで朱色になっているところなのですけれども,親権と養育権というものが常に同一の者に帰属するわけではなくて,子に対する養育権,これは監護権ですけれども,監護権については父母の一方に,親権については一方又は双方に帰属すると定めることは,たとえ慎重な判断が必要であるとしても,一定の基準を充足する限りでは許されるのだということを言っておりますので,裏を返せば,原則的な形としては①ではないのかというようなことを述べているものだと思います。
  次に,㋑のところは,一つの事例と言っていいと思いますけれども,これは大法院の判決の4年前の,事案自体が非常に特殊な事案で,父母ともに離婚に際して子を育てたくないと言っていた父母だったのですけれども,これについては裁判所が,逆に共同親権だということを述べています。共同親権の共同養育ですから④の形ですけれども,採用をしたというケースです。失礼いたしました,今の判決というのは審判ですね,2008年2月1日の審判ですけれども,これについては逆に,共同親権,共同養育というものを言わば教育的な効果も狙って使っているわけですけれども,括弧書きの中にこういう表現を使っているのです,通常の離婚夫婦と同様に単独親権,養育の状態に戻すことも可能だということを言っていますので,ソウル家庭法院というものは韓国では家事事件についてはいろいろな指針を出しているところでもありますので,時期的に考えても,ソウル家庭法院のことということを考えても,恐らく実務というものはこういうふうに捉えているのかなと思われます。
  それから,㋒のところなのですけれども,これは韓国で共同親権を主張された代表的な学者の先生ですけれども,その先生も,共同親権を採用すべきだという論文の中で,朱色のところだけですけれども,この共同親権というものが全ての離婚家族に適した親権の在り方であるということを意味するものではない,下の方ですけれども,夫婦間の葛藤と父母としての役割というものを切り離して考えるという高いレベルでの姿勢を備えることが必須であることを述べられていますので,共同親権というものはいろいろな条件が整ったときに採用されるものであると述べられていらっしゃいます。
 それから,⑵,⑶,⑷ですけれども,⑵は離婚後の親権と監護権者を定める際の考慮要素をここに載せておきました。それから,⑶は監護者の権限になりますけれども,これは日本法とほぼ同じであると考えていただいて差し支えないかと思います。それから,⑷のところですけれども,裁判離婚の際にも協議を勧告するということになっておりますので,その辺も⑷に記載をしておきました。

 それから,その他の方ですけれども,親権者の公示につきましては,子の基本証明書の詳細,それから特定に記録されることになっております。本日添付した資料の1から4までがあると思いますけれども,詳細はレジュメを参照していただきたいと思いますが,韓国では戸籍が廃止されて,5種類の証明書に切り替わっているわけですけれども,この基本証明書というものはその個人の出生から死亡までの国籍だとか親権,後見に関するものが記載されるものです。それが御覧になっている資料のような形で記載をされることになっております。
 それから,DVへの対応ですけれども,協議離婚の段階で民法でできることは,離婚熟慮期間というものを短縮あるいは免除するということです。ただ,DVがある場合では恐らく協議離婚は無理だと思いますので,離婚については裁判離婚に流れていくことになると思います。そのほか,特別法として家庭暴力犯罪の処罰等に関する特例法だとか,③の家庭暴力防止及び被害者保護等に関する法律がありますので,それによる保護と支援が行われるということになります。
 それから,子の意見の聴取については,子の年齢が13歳以上の場合には原則として意見を聴取しなければならないこととされております。


 最後になりますけれども,統計を見ながら,離婚制度の改正と,その後の韓国の離婚がどういうふうに変化してきているかというところを簡単に説明したいと思います。まず,2007年に協議離婚が厳格化されましたので,その協議離婚が厳格化された規定というものは2008年6月から施行されております。結果として協議離婚が年々減少していましたけれども,少しずつまた増えている傾向であって,それに連動する形で裁判離婚が同じような傾向を示していることになっております。
 それから,未成年の子のいる夫婦の離婚なのですけれども,未成年の子どもがいる夫婦の離婚というものは2014年,ここに斑点が掛かっていますけれども,この年を契機として逆転をしました。ですから,未成年の子どものいる夫婦の離婚というものがどんどん減っているということになっております。それと併せて,家事事件ですね,親権者の指定変更の新受件数と子の養育に関する処分の新受件数の数字もここに載せておりますけれども,やはり2007年の改正をきっかけとして事件の数がぐっと増えてきていることになっております。日本でも司法統計年報からすると,親権者の指定変更に関しては直近のデータだと約5,000件ありますので,人口比とかを比べると同じだということになると思うのですが,子の養育に関する処分に関しては圧倒的に韓国が少ないので,これについては少し検討する必要があろうかと思います。
 時間になりましたので,非常に駆け足ではありましたけれども,韓国については以上で説明を終わりたいと思います。御清聴ありがとうございました。

(了)

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