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Cafcass メンタルヘルス思考ツール

この記事はカフカスの「Mental Health Thinking Tool」を翻訳したものです。

メンタルヘルス思考ツール
カフカス
タヴィストック&ポートマン・NHS財団トラスト

症状の重篤度
⑴軽度
 頻度が少なく、強度が低く、我慢できる苦痛。
⑵行動範囲
 症状は規則的で苦痛を引き起こすが、思考を歪めたり、我慢できない苦痛を引き起こしたりすることはない。調節不全または過度の反芻思考の時期があるかもしれないが、これは恒常的ではなく、高度に障害的または危険な行動をもたらすものでもない。
⑶重度
 頻繁または恒常的に、強い苦痛および/または思考の歪みがあり、断続的な入院を必要とする。攻撃的または重度の調節不全行動、自殺傾向および/または深刻な自傷行為を示す。

慢性
⑴軽度
 単発のエピソード/初回エピソード。
⑵行動範囲
 エピソードは短いが頻度が高く、強い場合もある。また、症状が完全に寛解することはなく、比較的緩和された期間を経て変動する場合もある。
⑶重度
 早期発症/長期にわたる慢性的な症状で、寛解する時期がない。

併存疾患
⑴軽度
 精神疾患、薬物乱用、学習障害などの併存がない。
⑵行動範囲
 困難を悪化させるが、機能または治療へのアクセスに重大な影響を与えない、その他の関連する併存状態。
⑶重度
 薬物乱用かつ/または学習障害を含む幾つかの疾患の併存。

機能
⑴軽度
 仕事、家事、人付き合い、身の回りの整理、時間通りに子どもを学校に連れて行くなど、十分なレベルの注意を払って日常生活を継続できる。
⑵行動範囲
 殆どの日は何とかなるが、機能が制限される日がある、または基本的な業務は殆どこなせるが、苦労している。その結果、失業、長期の病気療養、身の回りの整理の制限、社会的関係からの引き籠りの影響を受ける可能性がある。子供の世話に一貫性がなく、学校に遅刻することもある。
⑶重度
 機能の全ての側面に影響がある、または一部の領域に非常に深刻な影響がある(例えば、外出できない、身の回りのことができない)、症状が寛解せずセルフネグレクト、ホームレス、その他の深刻な結果になる恐れがある、または他者と関わることができない、何らかの形で関係を維持することができない。子どもの出席率が悪く、家庭や基本的なニーズを無視する姿勢が見られる。

治療へのアクセス
⑴軽度
 適切な学際的なチームかつ/または適切な治療サービスを受け、一般開業医が定期的に投薬を見直す。
⑵行動範囲
 短期間の治療サービスや、困難な時期に時間制限のあるCMHTのサポートが受けられる場合がある。
⑶重度
 自治区で利用できる適切なサービスがなく、基準を満たさない。

治療との関わり
⑴軽度
 定期的に服薬し、繰り返しの処方箋とレビューを効果的に管理し、全ての治療セッションに出席し、有意義に関与する。
⑵行動範囲
 または、服薬はしているが、治療を拒否している、または、治療には出席しているが、出席率が低いか、表面的な関わり方や消極的な関わり方をしている。
⑶重度
 服薬を守らず、治療やCMHTを交えたレビューを拒否し、治療に対してあからさまに敵対的かつ防衛的な態度をとる。

治療への反応
⑴軽度
 自己回復に努め、更なる治療のための新しい機会を求めている。新しい対処戦略を用いて危機に対応することができ、新しい思考と洞察を証明し、新しい状況にスキルを一般化することができる。
⑵行動範囲
 症状の緩和と機能の改善が見られるが、危機に対して脆弱、あるいは危機の中で試されておらず、まだ古い対処の仕組みが残っている、新しい状況にスキルを一般化するための支援を必要とする。
⑶重度
 症状に変化がなく、治療に対して敵対的で問題があることを認めたがらない、または多くの治療を行ったが精神状態、洞察力、対処能力に目に見える変化がない。

洞察力
⑴軽度
 自身の病気の性質と程度、治療の引き金と必要性についての十分な洞察力がある。また、これが子どもを含む他の人にどのように影響するかについても洞察している。
⑵行動範囲
 自分が困難を抱えていることは認めるが、自分自身や子どもへの影響を否定し、治療の必要はなく、自分自身で対処できると感じている場合がある。 自分が困難を抱えていることを理解し、子どもへの影響も多少はあるが、制御できていると感じているか、予後について非現実的な考えを持っている。
⑶重度
 自分が問題を抱えているとは信じておらず、治療の必要性も感じておらず、自分自身の精神状態と子どものウェルビーイングを結びつけて考えていない。

親子の意思疎通への影響
⑴軽度
 温かく同調的な意思疎通が認められ、子どものアタッチメント行動が安心感を示している。
⑵行動範囲
 一貫性のない、または制限された感情、人に関与することが少なく、同調する能力が低い、しかし時には押しつけがましかったり、引き籠ったりする。自分自身の感情的な状態が子どもの前でこぼれ出てしまい、共有に関わる境界線が不十分なことがある。
⑶重度
 一貫して意思疎通が不十分、人への関与/暖かさは少ない、押しつけがましく/引きこもり、否定的/批判的、子どもに不安を引き起こし、子どもを自分自身の困難に引き込む。子どもとの断続的で奇妙な意思疎通または敵対的な意思疎通。

発達への影響
⑴軽度
 子どもの発達の後期に発症する、および/または非常に短く軽度のエピソードがある。
⑵行動範囲
 発症は早いがエピソードはより短いか軽い、または人生の後半に発症し、より深刻な困難がある可能性がある。
⑶重度
 初期の発育段階で病気が発症し、その後も継続している。

子どものレジリエンス
⑴軽度
 子どもは十分な対処能力を持ち、少なくとも一人の養育者に対して安心できるアタッチメントを持ち、親の困難さを理解し、必要なときには支援を求めるだろう。
⑵行動範囲
 子どもが表面的なレジリエンスは有しているものの、潜在的な脆弱性を抱えていたり、親子の役割逆転によって負担がかかっていたり、対処や助けを求める能力はあるが、役に立たない対処や困難な感情を抱え込む懸念がある。
⑶重度
 幼児や、対処する資源が限られていたり、発達障害があったり、ネグレクトや虐待によってすでに深刻な影響を受けている年長の子ども。子どもの行動が困難で、親に更なるストレスを与える可能性がある。

社会的支援
⑴軽度
 病気を理解し、子どもに寄り添うことのできる機能的で献身的なパートナー、親子に休息を提供し、子どもが親の困難を理解するよう支援する家族や友人との良好なネットワークがある。
⑵行動範囲
 社会的支援が限られている、またはパートナー自身に中等度の困難があり、恐らく家族の状況は、支援はしてくれるが洞察力に欠けるか、時には対立することもあり得る。
⑶重度
 孤立している、支援がない、または精神的に不安定であるか虐待的なパートナーまたは薬物を乱用しているパートナー、またはソーシャルネットワークは、主に反社会的または薬物使用中心で、対立やリスクにさらされている。

介入の機会-「解決可能な問題」
(              記入欄             )

注:このツールは、親がメンタルヘルスの問題を抱えている場合、あなたの考えを整理し、証拠を批判的に検討するためのものです。このツールは、リスクの規範的尺度や決定的な尺度として設計されたものではなく、ケースの幅広い証拠と合わせて、全体的に構成された専門的な判断の中で使用されるべきものです。

重要:このツールは、既存のエビデンスベースと研究から開発されたものですが、検証されたツールではありません。このツールは、アセスメントと分析のために使用されるべきであり、実務家の専門的判断に代わるものではありません。

[訳者註]NHS 国民保健サービスNational Health Service
イギリスの国営医療サービス事業をさし、患者の医療ニーズに対して公平なサービスを提供することを目的に1948年に設立され、現在も運営されている。NHSにはイギリス国家予算の25.2%が投じられている。NHSは加入者からの保険料と一般財源などで賄われているため、原則無料で受診(処方薬、眼鏡、歯科治療、視力検査などを除く)。が可能となっている。ただし、かなりの待ち時間を要するため、金銭的に余裕がある場合にはイギリス国民でもプライベート医療サービスを受ける人もいる。

[訳者註]タヴィストック&ポートマン・NHS財団トラストThe Tavistock and Portman NHS Foundation Trust
財団トラストは、NHSの一部であり、NHSの病院および精神保健サービスの半分以上を提供する非営利の公益法人。1920年に設立されたタヴィストック・クリニックは、1948年にNHSの一部となった。その後、1931年に設立されたポートマン・クリニックとタヴィストック・クリニックが1994年に統合し、タヴィストック&ポートマンNHSトラストが新たに設立された。

[訳者註]CMHT Community Mental Health Teams)
イギリスで、医療および社会サービスの専門家(精神科医、社会福祉士、地域の精神科看護師、心理学者、メンタルヘルスセラピスト)の学際的なチームを指す。

(了)

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