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壱 「知らないと損をする」 ファミリーバイオレンス・スクリーニングツールの重要性~家族法実務家のために~

カナダ司法省のレポート「知らないと損をする」を翻訳・公開します。
作成者:ルークス・プレイス
執筆者:
パメラ・C・クロス(文学士―法学士、非営利団体「ルークの場所」法務部長)
サラ・クラン博士(ゲルフ大学 心理学部博士研究員)
ケイト・マッズオッコ(法学士/経営修士候補者2020、トロント大学)
メイビス・モートン博士(ゲルフ大学 社会および人類学部准教授)
2018年2月

背景の設定
ファミリーバイオレンスの定義

 ファミリーバイオレンスFVには普遍的に共有されている定義は存在しません。しかし、以下の例が示すように、殆どの定義が共通する重要な要素を含んでいます。FVとは、家族内で、家族の一人が家族の一人または家族のメンバーを虐待または無視する行動です。

 ファミリーバイオレンスは、子どもや大人が家族や親密な関係にある人から経験するあらゆる形態のいじめ、虐待、またはネグレクトと見なされています(司法省,2017)。
 ドメスティックバイオレンスやファミリーバイオレンスは、誰かがパートナーや他の家族メンバーを脅迫や抑圧という方法で支配しようとしたときに発生します(オーストラリア政府、オーストラリア法改正委員会、2011年、p3)

 カナダ主席公衆衛生官による「カナダの公衆衛生の現状に関する報告書」には、次のように記されています。

 ファミリーバイオレンスは、公衆衛生上の重要な問題です・・・。カナダの家族の中には、健康に影響を及ぼす可能性のある不健全な葛藤や虐待、暴力を経験している人がいます。ファミリーバイオレンスは総称として知られている通り、様々な形態をとり、深刻度も様々で、身体的、性的、精神的、経済的な虐待は勿論のこと、ネグレクトも含まれます(カナダ首席公衆衛生官、2016年、p3)。

 カナダ政府の「ファミリーバイオレンスに関する全国クリアリングハウス」は、「ファミリーバイオレンス」という言葉を広い意味で使用し、以下に示す範囲における様々な形態の虐待を包含すると定義しています。

・・・親密な関係の範囲内で、親と子の関係、監護する者とされる者、アダルトチルドレンと親、兄弟姉妹、親密なパートナーを含む。交際関係、婚姻関係、内縁関係において・・・(ノバク,2006年、p1)

 虐待の形態には、身体的暴行、心理的または精神的虐待、性的虐待、ネグレクト、剥奪、経済的搾取が含まれます。
 「ファミリーバイオレンス」という言葉は、子どもを含む暴力を経験する可能性のある人々の範囲を認めるために、より広い用語として採用されることが多くあります(Murray & Powell, 2009)。しかし、「ファミリーバイオレンス」のようなジェンダーに中立的な言葉は、女性(とその子ども)がこうした暴力の主要な被害者であることを認めていないため、異議を唱えられています(Murray & Powell, 2009)。フェミニストによるファミリーバイオレンスやドメスティックバイオレンスの解釈は、虐待的な関係におけるジェンダーと権力の役割を強調します(Berns, 2001; Htun & Weldon, 2012)。
 国連は、このジェンダー分析をFVの定義に持ち込み、少女や女性に対する暴力の加害者としての男性に焦点を当て、次のように認識しています。

 ・・・女性に対する暴力は、女性が男性と比較して従属的な立場に追いやられる重要な社会的メカニズムの一つである(国連児童基金、2001年、p2)。

 この視点は、国連の多くの出版物にも表れています(「女性に対する暴力に関する法律のハンドブック(国連、2010)」、「女性と少女に対するドメスティックバイオレンス(国連児童基金、2001)」を参照)。
 親密なパートナーへの虐待、高齢者虐待、児童虐待、女性虐待といった言葉は、虐待を行った者とその被害者の間にどのような関係があるかをより具体的に示すものとして多く使われます。
 ジェンダーや家族的な関係を構成するものについての理解が進むにつれ、「ファミリーバイオレンス」という言葉が包含するものについての理解も進んでいます。例えば、カナダ統計局(2012)は、その出版物「カナダにおけるファミリーバイオレンス」の中で紹介しています。即ち、「2010年 統計プロファイル」で、初めて交際相手との関係における暴力をプロファイルの一部として取り上げました。これまでこの出版物では、配偶者(婚姻中、内縁関係、別居中、離婚済)、18歳未満の子どもや若者、65歳以上の人に対する虐待のみを対象としていました(カナダ統計局,2012)。
今回のFVSTに関する研究は、親密なパートナー同士の虐待に焦点をあてています。虐待はどんな形態であれ、どんな関係であれ深刻です。しかし、FLPが初診の文脈で大人の依頼者をスクリーニングする場合、パートナー虐待がスクリーニングの焦点となることが殆どです。これは、親密なパートナーからの暴力は、夫婦の親密な関係が解消された後も継続し、段階的に拡大することもあるという認識からです(Laing, 2017)。
 このような状況であっても、FLPは、スクリーニングの結果、あるいは依頼者からのコメントによって、あるいは法的な問題(例えば、児童保護の関与)が発生したことによって、他の形態の虐待(特に児童虐待)に気づくことがあります。このような場合、あるいは子どもの代理人を務めることになった場合、児童虐待のスクリーニング用に特別設計されたツールを使用する必要があるかもしれません。但し、そのようなツールの検討は、この研究の範囲外です1。

ファミリーバイオレンスの力学
 全てのFVが同じように見えるわけではありません。ジョアン・B・ケリーとマイケル・P・ジョンソン(2008)の研究は、親密なパートナーに対する虐待の様々な類型を探求しており、それは、彼らの言う「状況的カップル暴力」(パートナーの一方または両方が相手に対して否定的行動をとりますが、相手からはどちらに対してもその恐れがない場合)から、「強制的支配暴力」(一方のパートナーが相手に対して常に虐待行動を行い、二人の関係において殆どまたは全ての権力と支配力を握っている加害者に怯えながら被害者が生活するまでに至る場合)までの広い範囲にわたっています。強制的支配暴力の関係では、家庭と刑事の両方で最も強力な法的介入が必要です。
 ケリーとジョンソン(2008)の研究によると、状況的カップル暴力を含む幾つかの類型は、女性も男性もこの種の行動に関与していて、特定のジェンダー・ダイナミックがないことが示されています。しかし、異性間関係において、深刻な身体的傷害や死亡、長期的な心理的被害につながる可能性が高い強制的支配の類型は、圧倒的な数が男性から女性に対して行われています(Kelly & Johnson, 2008)。
 これらの結果は、2016年のカナダ主席公衆衛生官の報告書でも支持されています。

 2014年、131人のカナダ人が家族の手によって殺され、133,920人のデート中やファミリーバイオレンスの被害が報告されたが、被害者の大多数は女性である・・・女性は男性よりも親密なパートナーに殺される可能性が高く、性的虐待、より深刻で慢性的な親密なパートナーの暴力を経験する可能性が高い(カナダ首席公衆衛生官、2016、p16)。

 この調査報告書は、FV、特に最も深刻な形態の強制的支配暴力と殺人のジェンダーに配慮した現実を反映しています。本報告書では、虐待を受けている人を指す言葉として「女性」または「彼女」、虐待を引き起こしている人を指す言葉として「男性」または「彼」を使用します。私たちは、男性が女性パートナーから加害された虐待のサバイバーになりうること、また、レズビアンやゲイ男性の関係においてもFVが発生することを認めています(カナダ主席公衆衛生官、2016年)。スクリーニングツールが普遍的に使用されるためには、様々な親密なパートナーシップを持つ人々(女性、男性、性自認の連続体の別の場所に位置する人々)に対応できるように設計されなければならず、使用される言語はこの多様性を反映したものでなければなりません。
 FLPが、虐待の様々な類型を理解し、依頼者がどのような類型・種類の虐待に対処しているかを知ることで、依頼者の状況に適した法的救済措置やプロセスを特定できるが重要です(Carey, 2011)。同様に、虐待の手口も人間関係によって様々です。一般的な手口は以下の通りです。身体的、性的、精神的/心理的、社会的、言語的、経済的虐待。しかし、加虐者は、パートナーの宗教、人種、民族、年齢、その他パートナーに特有の特徴を利用して、パートナーを威嚇し、支配することもあります。殆どの加虐者は、長期にわたって複数の手段を用いており、最も深刻な虐待(サバイバーに長く続く影響)は、身体的ではなく心理的なものです(Johnson & Dawson、2011年)。
 ドゥルース虐待介入プログラム(Pence & Paymar, 2003)が開発したパワーとコントロールの車輪(下図)は、虐待の様々な手口を視覚的に説明するのに役立ちます(ドメスティックアビューズ介入プログラム, 発行年不明)。

 FLPを含むFVサバイバーに関わる人は、別離後の虐待の現実も理解する必要があります(Ornstein & Rickne, 2013)。このことは、虐待が別居の時点で終わるのではなく、エスカレートすることが多いので重要です(Zeoli, Rivera, Sullivan & Kubiak, 2013)。
 オンタリオ州ドメスティックバイオレンス死審査委員会の2016年年次報告書では、2003年以降のこれまでの報告書と同様に、実際の別居または係争中の別居が、第一の危険因子であるドメスティックアビューズの過去歴(73%)に次いで致死率の高い危険因子であると特定されています。2016年の報告書のためにレビューされた事件の67%は、係争中の別居または別居したばかりを含んでいました(オンタリオ州主席検死官事務所,2017)。
 ドゥルース虐待介入プログラム・別離後の力と支配の輪(下図)が示すように、別離後の虐待には致命的な危害を加えるリスク以上のものがあります(ドメスティックアビューズ介入プログラム,発行年不明)。

 殆どの虐待者は、パートナーが自分から去った後、自分の力と支配力を再強化する方法を模索します(Brownridge, 2006)。ある者は、別れた女性に罰を与える必要があると考えます。また、元パートナーの生活を困難にすることで、彼女を元の関係に戻したいと考える者もいます。元パートナーの動機が、その人が行う虐待の種類を形成します。例えば、力や支配力を取り戻したいと思っている加害者は、強制的な行動に出る可能性があります。元パートナーを罰したいと思っている虐待者は、身体的虐待をする可能性があります。パートナーを取り戻そうとする者は、経済的な虐待を行うかもしれません。
 更に、具体的な手口も変わってくるかもしれません。加害者は、家庭の中でパートナーと接触することができなくなったため、以前のように頻繁に身体的虐待を行うことができなくなる可能性があります。その代わり、ストーカー行為や犯罪的嫌がらせが増え、脅迫が多くなります。加害者は女性の職場-彼女を見つけられるとわかっている場所-に焦点を当てるかもしれません(Showalter, 2016)。加害者は子どもに焦点を当て、自分の味方になるよう精神的に操り始めるかもしれません(Fotheringham, Dunbar & Hensley, 2013; Zeoli, et al.)。
 ラヴァル大学の「ファミリーバイオレンスと女性に対する暴力に関する学際的研究センター」の研究にもあるように、別離後の虐待は、女性とその子どもの両方に、深刻な身体的、心理的、経済的影響を与える可能性があるのです。(Dubé et al., 2008).
 「バンクーバー・バタード・ウーマン支援サービス」は、別居後の虐待と家庭裁判所の手続きの関係を調査し、虐待者が元パートナーに対する権力と支配を維持するために使うかもしれない多くの戦術を指摘しました(Law, 2014)。
 よくある法的いじめの手口は以下の通りです。
   ・裁判書類の提出拒否、書類の提出遅延、特に家計情報に関して不完全または不正確な書類を提出する
   ・必要のない時に自己弁護をする
   ・煩わしい申し立てをする
   ・裁判所の命令に従わない
   ・休会を何度も求めたり、弁護士を何度も変更したりして、手続を遅らせる
   ・交渉を拒否する
   ・家事事件に子どもを巻き込む
   ・家庭裁判所の手続き中に、女性を脅迫したり、身体的暴行を加える
(Abshoff & Lanthier, 2008; Bemiller, 2008; Coy, Scott, Tweedale, Perks, 2015; Martinson & Jackson, 2017)

トラウマの役割
 ジュディス・ハーマンは、1992年の画期的な著書「トラウマと回復:ドメスティックアビューズから政治的テロまでの暴力の余波」において、女性に対する暴力の状況下における継続的トラウマの概念を紹介しました(Herman, 1992)。以来25年、彼女の研究は、他の研究者や実践者によって更に発展、拡大されてきました(Moulding, 2016; Wilson, Fauci, Goodman, Mcleigh, & Spaulding, 2015)。カナダで特に注目すべきは、個人で開業している臨床心理学者であり、トロント大学精神科の准教授でもあるロリ・ハスケル博士の研究です(Haskell & Randall, 2009を参照)。
 FVサバイバーの多くは、継続的なトラウマを経験しており、それが家族法事件に効果的に関与する能力に大きな影響を与える可能性があります(Bemiller, 2008)。過去の虐待の事実を話したがらない、集中できない、法的情報や概念を理解し保持するのに苦労する、監護権や金銭問題などの重要な事柄について決断するのが困難であると感じることがあるかもしれません。トラウマを抱えた人が、被害のリスクを過少または過大に認識することは珍しいことではありません。また、感情の高ぶりは、家庭裁判所の訴訟当事者にとっても課題となり得ます。継続的なトラウマは、メディエーションなどの代替的紛争解決プロセスを利用する際に必要とされる、効果的に交渉する能力を阻害する可能性があります。これは、これらのプロセスを用いてはいけないということではなく、単にトラウマの影響に注意を払う必要があるという意味です。
 女性に対する暴力事件のトラウマについて、より多くのことが明らかになるにつれ、多くの専門家が、自分たちの実務に「トラウマ・インフォームド・アプローチ」と呼ばれるものを発展させてきました(「ネットワークを学ぶ」、発行年不明)。ファミリーバイオレンスの文脈でトラウマ・インフォームド・ケア(TIC)を採用することは、ドメスティックバイオレンス領域で活動する組織や個人が従事している多くの必要不可欠な実務(例えば、エンパワーメント、ピアサポート)をトラウマ・インフォームドの枠組みで捉えなおすことにつながります。それはまた、サバイバーのトラウマに関連したメンタルヘルスのニーズを支援しようとする新しい概念(ヒストリカル・トラウマなど)やアプローチ(心理教育など)を統合することを意味しています(Wilson et al., 2015)。

ファミリーバイオレンスと家庭裁判所との関係 
 弁護士は平均して21.7%の事件でFVが問題であると報告し、裁判官は自分が扱う事件の25.3%でFVが問題であると述べています(Bertrand, Paetsch, Boyd, & Bala, 2016)。
 FVは、その長期的な影響、別離後の虐待の蔓延、多くのサバイバーが経験するトラウマから、家庭裁判所のプロセスを通じて理解され、認識されなければなりません。特に、威圧的支配暴力は特定されねばなりません。家庭の中の暴力が全ての法的問題を決定付けるかどうかは別として、その存在は、当事者やその子ども、その状況のより周辺にいる人たちに影響を与えます(Araji, 2012)。
 特に子どもがいる場合、裁判所は、両親による子どもに関する意思決定、子どもが住む場所、両親が子どもを受渡する方法や子どもについてコミュニケーションをとる方法、家族が必要としている支援内容について適切な命令を下すために、家族の中の暴力について知る必要があります(Cross, 2016; Zeoli et al.2013)。
 現在および将来の安全に対する懸念は、過去および現在進行中の虐待について裁判所が知らなければ対処できません(Abshoff & Lanthier, 2008; Araji, 2012; Croll, 2015; Coy et al, 2015; Dalton, 2013)。

家族法実務家にとってスクリーニングが重要である理由
 多くのFVサバイバーは、誰にも、特に弁護士を含む、彼女たちが知らない人には、なかなか虐待の歴史を明かしません(Bingham, Beldin, & Dendinger, 2014; Cattaneo, Stuewig, Goodman, Kaltman & Dutton, 2007)。
サバイバーは恥を感じたり、信じてもらえなかったり、加害者から報復されることを恐れたり、虐待の深刻さを否定したり、家族法の事件と関連性があるとは思わなかったり、パートナーをまだ気にかけていたり、虐待を開示することで児童保護当局の関与につながることを恐れたりします(Cross, 2016)。
 適切なスクリーニングツールの使用は、特に、施術者が「全ての依頼者に使っている」「依頼者は楽な方法で自由に質問に答えていい」と説明してツールを紹介すると、虐待の開示に対してより安全に感じられる雰囲気を作り出すのに役立ちます(Deckerら、2017年)。
 スクリーニングツールを使って収集された情報は、様々な方法でFLPを支援することができます。施術者は、安全性の懸念を特定し、安全対策のために適切なリソースを依頼者に紹介することができます。弁護士は、虐待に特化した法的選択肢を依頼者に提示することが検討できるようになり、依頼者との協働においてトラウマを考慮したアプローチを実施することができます。虐待について知ることは、弁護士がどのようなプロセスを検討するか、特にメディエーション、他の紛争解決方法、訴訟のどれがより適切であるかに影響を与える可能性があります。
 また、スクリーニングツールによって依頼者が虐待の加害者であると特定された場合、この情報は弁護士にとって、適切な行動を決定し、依頼者の行動に関して助言し、必要であれば安全装置を設置する上でも非常に重要なものとなります3。

リスクアセスメントとスクリーニングツールとの違い
 リスクアセスメントとスクリーニングは共に、FVに対する組織的対応の重要な要素です。しかし、両者は互いに全く違うものであり、曖昧にして単一体として扱うべきではありません。本報告書では、スクリーニングツールに焦点をあてて分析を行っています。
 リスクアセスメントとは、ファミリーバイオレンスの状況に存在する静的要因(人口統計学的情報や幼少期の履歴など、固定的で変えられないもの)と動的要因(薬物乱用など、変化してリスクに影響を与えるもの)の両方を(ほぼ)客観的に調べ、将来起こりそうなことを決める手助けをすることです。リスクを見積り、特定し、定性化し、定量化することによって、最善の行動を決定するために、人々に関する情報を集める、意思決定プロセスであると定義されています(Nicholls, Pritchard, Reeves & Hilterman, 2013; Northcott, 2013)。包括的なリスクアセスメントでは、加害者と被害者双方に影響を与える可能性のある外部変数は勿論、双方に関連する要因も検討します。主要な危険因子が特定されると、更なる暴力の可能性を最小限に抑えるための計画(しばしば安全対策と呼ばれる)を策定することができます。
安全対策は、加害者による更なる暴力から被害者が身を守るために取ることのできる手段(例えば、家の鍵を変えるなど)を含むことは勿論、加害者の特定の行動(例えば、パートナー/元パートナーに近づかないという条件)の制御を求める場合もあります。新たな暴力行為の際にサバイバーが何をするか、パートナー関係を断つための計画、パートナー関係を断った後も安全に過ごすための計画、子どもの安全を守るための計画などが含まれることがあります(Sudderth, 2017)。
 現在、カナダでは多くのリスクアセスメントツールが使用されています(Millar, Code & Ha, 2013 参照)。死亡率だけに焦点を当てたツール、加害者側の再犯性に着目したツール、一般的な虐待や暴力に焦点を当てたツールなどがあります。多くは刑法制度の中で使用されていますが、全てではありません。使用方法について専門家が正式なトレーニングを受ける必要があるツールもあります。同様に、安全対策にも様々なアプローチが存在します。
FVのスクリーニングは全く違います。スクリーニングは、個人(または、メディエーションの場合は元夫婦)を扱う専門家(例えば、医師、看護師、弁護士、メディエイター)が、FVの履歴があるか否かを判断するための情報を収集するためのものです。Todahl & Walters (2011)は次のように説明しています。
 特に、IPV(親密なパートナーからの暴力)の普遍的なスクリーニングとアセスメントは、書面と口頭で、現在の問題に関係なく、全ての成人の依頼者に現在と過去のIPV被害について直接質問する手続きです(375頁)。
 この情報は、専門家が他のサービスやサポートを適切に紹介するためは勿論、依頼者のために適切な対応や行動を選択するために利用することができます。
 メディエーションの文脈においては、スクリーニングツールを使用してFVを特定することにより、当事者がメディエーションを希望するか否かを検討し決定することが可能になることから、虐待の被害者にとって特に重要なことです。また、メディエイターは、この情報に基づいて、より安全で、両当事者間の力の不均衡を是正して可能な限り条件を公平にする巧みなアプローチをとることができますし、メディエーションは適切ではないと判断することもできます(Davis, 2006)。また、スクリーニングツールを使用してFVを特定することにより、専門家がサバイバーとともに安全対策について話し合い、コミュニティ内の支援サービスを確実に認識する機会を生み出します(Ellis & Stuckless, 2006)4。更にまた、メディエイターは、スクリーニングの結果を利用して、カウンセリングやその他の支援について加害者と話し合うことができます。
 家族法の文脈でFVSTを使用することにより、弁護士は、依頼者が加害者のもとを去った後、ストーカー行為を受けていることを知るかもしれません。その結果、弁護士は、依頼者が接近禁止命令を求めるか、申告可能な刑事告発に関する警察への連絡を提案することができます(Kerr & Jaffe, 1999)。特定したFVの性質に応じて、弁護士は共同親監護が適切ではないことを示唆する可能性があります(Shaffer, 2004)。更に、家族が刑事、児童保護、および/または移民手続きに巻き込まれている場合、スクリーニングツールの使用を通じてFLPによって集められたFVに関する情報は、このような文脈でも支援することができます(Mosher, 2015)5。スクリーニングツールを使用してFLPが収集したFVに関する情報は、そうした文脈でも役に立ちます(Mosher, 2015)5。

方法論
FVSTワーキンググループ
 幅広い専門家の専門知識を活用するため、FVSTワーキンググループを結成し、調査・分析・提言の作成を支援しました。ワーキンググループのメンバーには、弁護士、医療専門家、メディエイター、学者、女性に対する暴力のアドボケイターが含まれています。このグループは、研究チームと協力して、文脈に応じた知識と経験を提供し、過去に、あるいは現在、実際に使用されているFVSTへのアクセスを仲介しました。また、これらのメンバーは、本報告書に対するフィードバックも提供しました。 ワーキンググループのメンバーリストは、付録Aに掲載されています。

スクリーニングツールの認証
 司法省から認証されたスクリーニングツールの受領後、私たちは、家族法、メディエーション、法律扶助、ヘルスケア、女性に対する暴力、児童福祉、家庭内暴力研究、その他関連する部門や環境で使用されている追加のFVSTについて、学術的および灰色文献の検索を行いました。利用可能なツールの包括的なレビューを確実にするため、主要な検索用語(図1)および関連する検索パラメータ(表1)を作成しました。 学術データベースと検索エンジンは、学問分野や専門職を横断して網羅できるように選択しました(例:サイコインフォ、プロクエスト、メドライン、ウエストロー・ネクスト、レクシス・アドバンス・クイックロー、グーグル、グーグル・スカラー)。合計86件のスクリーニングツールが分析に含まれることになりました6。
 FVSTを認証するためのデータソースは以下の通りです。
   ・学術的な査読付き文献(ツールの開発及び心理学的評価、スクリーニングツールを用いた実証的研究など)
   ・灰色文献、即ち、入手困難な文献や資料(法律事務所や政府機関のような組織で使われているツール、未発表のツールなど)
   ・レビューに含まれる公開論文の参考文献リスト
   ・ワーキンググループメンバーへのインフォメーションインタビュー(希望職種に就いている人との面接)

スクリーニングツールおよび文献の分析
 スクリーニングツールと付属の文献(入手可能な場合)の混合法分析により、FVST間の質的類似点と相違点(例:質問の順序、ツールの形式/スタイル)および量的相違点(例:内容の頻度数)を確認しました。
 各スクリーニングツールから適切な情報を体系的かつ一貫した方法で引き出すための調査ツールを開発しました。調査ツールは、マイクロソフト・エクセル(補足資料)で作成され、各FVSTは別々の行に記録しました。ツールには、以下の列が含まれています。
   1. 管理情報(文書ID、コーダーID)
   2. FVST情報(FVST名、著者、国名)
   3. FVST分野(家族法、メディエーション、医療、VAW(女性に対する暴力)、児童福祉、不特定多数、その他) 3.
   4. FVSTの評価(ツールは統計的に検証されたか?(有効性と信頼性の程度を評価した)、どんな統計的検証の手段が使用されたか)
   5. FVSTの実施方法(依頼者が実施するもの、実務者が実施するもの、いずれか、不明、その他)
   6. FVSTの内容(質問総数、どのような質問をしたのか)
   7. FVSTの質問形式(複数選択/チェックリスト、はい/いいえ、リッカート尺度(例:強く反対から強く賛成までの5段階評価)、自由回答、イメージ、簡単な答え、その他)。
   8. FVSTの採点と解釈
   9.  抽出ツールに含まれない追加的な関連情報
 検索パラメータに基づき、86件のFVSTを選択しました。著者2名(KMとSC)がそれぞれ43件のツールを調査し、関連情報を抽出しました。
 詳細なプロトコルやフレームワークを含むFVST(例:詳細なメディエーション・プロトコル)については、FV識別(親密なパートナーからの暴力や児童虐待を含む)に固有の質問だけを分析対象としました。より大きなプロトコルや枠組みの一部として含まれる安全性およびリスクアセスメントツールは、今回の研究の範囲外であると考え、これらのツールの質問は分析しませんでした7。
 FVSTの検証に続き、各ツールから抽出した具体的なスクリーニング質問を分析しました。この分析の目的は、各FVSTの質問の内容を調べ、スクリーニングの際に尋ねられる質問の種類と範囲を決定することでした。FVSTの質問の様々な内容を反映した49件のカテゴリーが特定されました。これらのカテゴリーは、著者が各ツールから取り出した質問を1つずつ検討し、必要に応じて新しい内容のカテゴリー(即ちテーマ)を開発する中で作り出したものです。
 FVSTの設問に対して内容分析を行いました。この手法は、テキストデータを分析するための一般的な研究手法です(Cavanagh, 1997; Hsieh & Shannon, 2005)。これにより、研究者は、スクリーニングツールの質問のような質的データのパターンを定量化し、意味を持たせることができます。各FVSTは、それぞれの内容区分の有無(0=なし、1=あり)についてコード化されました。質問内容カテゴリーの例としては、以下のようなものがあります。
   ・警察の関与
   ・依頼者または他者に危害を加えるという脅し
   ・子どもに対する虐待またはその恐れ
   ・身体的虐待、心理的虐待
   ・ストーカー行為
   ・パートナーに対する就職禁止/妨害行為
   ・金銭へのアクセス/コントロールの拒否(全リストは補足資料、テーマタブ参照)
 各ツールの質問内容のカテゴリー数を表す合計スコア(0~49点)を算出しました。質問内容のカテゴリーの総数に基づく最も包括的なFVSTと最も包括的でないFVSTのリストは、表2を参照して下さい。
所属国、セクター、実施形態、質問形式を含む、FVSTから特定された追加情報について、度数(即ち、物事の発生回数)およびパーセンテージを求めました。
 上記の分析を補足すべく、研究チームは、家族法の弁護士によるスクリーニングツールの認知度と使用頻度を評価するために、FLP(弁護士、裁判官、メディエイター)、女性に対する暴力専門家、医療研究者に17回の情報提供面接8を実施しました。面接は5~20分程度の短いもので、実務家に対して、既知のFVSTを特定し、ツールを使用しているかどうか、使用している場合はどのツールをどのように使っているか、FVに関するスクリーニングを意思疎通のどの時点で行っているかなど、自身の業務で使用しているFVスクリーニングのプロセスについて説明を求めました。非法律家(「女性に対する暴力」VAWの専門家や研究者など)には、より一般的に、スクリーニングツールに精通しているか、どんなツールを知っているか、これらのツールが誰によって使用されることを知っているか、について尋ねました。

(了)

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