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あとがき――若しくはとあるアサイラムにおける或る物書きの面談

註:監視カメラの映像より抜粋。音声は別途編集したものである。

「えーそれでI・Sさん。あなたは『 #パルプアドベントカレンダー2019 』に参加したと」
 白衣を着た医者、あるいは研究者のような人物は酷薄な目つきで対面のみすぼらしい物書きを見やる。
「そ、そうです『最期のクリスマスまで、あと』ってタイトルでしてね。へへっ、詩的でしょ?」
 ヘラヘラした笑みを浮かべる物書き――I・Sに対して医者、あるいは研究者は大きな溜息で応えた。
「あのねえ、I・Sさん。あなた完全に勘違いをしていらっしゃる」
「と、言うと?」
 訝しむI・Sに対して医者、あるいは研究者は大上段から斬り捨てる。
「このイベントの趣旨は『アドベント』ですよ。待降節。クリスマスに向けてテンションを高めるためにやってるんです。それを、詩的? 他の参加者の作品を御覧なさい」
 そう言ってタブレットを差し出す。

 そこに載っているのはどれも極上のパルプ作品たちだった。I・Sは卑屈そうな目を大きく見開き、酸欠の金魚のように口をパクパクとさせる。
「翻って、あなたの作品はどうです? そもそもこれパルプじゃないでしょう」
「う、うるさい! パルプは自由なんだ! 逆噴射先生もそう仰っていた!」
「やれやれ……逆噴射先生のお言葉を自分勝手に解釈して。本当に身勝手ですねあなたは」
「さっきからあんた偉そうに……! 俺は逆噴射小説大賞2019の二次選考通過者様だぞ!」
「賞の権威はあなたの権威とは何の関係もありません。あなたはここではただの患者です」
「患者だと? そもそも何故俺はこんなところにいるんだ。弁護士を呼んでくれ」
「弁護士? あなたに付与されていた人権はここに入った時点で消失していますので、そんなものはあなたにはもう無縁です」
「エッ……」
 I・Sは愕然とした表情で周りを見渡す。白い壁。白い天井。出口にはいかめしい黒服の男。帯銃。
「それで、なんでこんな作品を書いたんですか? 後続の電楽サロンさんに迷惑がかかるとは思わなかったんですか?」
「そ、そりゃクリスマス滅びろって気持ちからですよ! みんなある程度そう思ってるでしょ?」
「それはあなたの妄想ですね。外でそんな事を言ったら弁護士を呼ぶまでもなく反クリスマス罪で銃殺刑だ」
「反クリスマス……なに?」
「やれやれ。どうやら処置無しのようだ。おい、あの薬を持ってきてくれ」
 医者、あるいは研究者が手をパンパンと叩いて黒服に合図をする。I・Sは顔を真っ青にして食って掛かった。
「あ、あの薬はやめてくれよぉ! お願いだ! あれを打たれるとなんにも分かんなくなっちまうんだ!」
「そのための薬ですからね。大丈夫。先は長い。あなたはきっと回復してまた外に出られますよ」
「ヤメロー! ヤメロー!」
 暴れるI・Sを赤子の手を捻るように制圧した黒服は、注射器から空気を押し出すと中身の怪しげな薬品を打ち込んだ。
「アッー! アー……あーあーはははは」
 I・Sは一瞬白目を剥いてがくがくと痙攣したが、すぐに弛緩した顔つきになり、まるで白痴のごとく涎を垂らし更には失禁までした。医者、あるいは研究者が席を立つ。黒服がI・Sを引きずっていく。

 映像はここで終わっている。

【ブレイク・ザ・パルプ・ジェイルへ続かない】


これはなんですか?

「 #パルプアドベントカレンダー2019 」に投稿した「最期のクリスマスまで、あと」のあとがきとして書かれた与太話です。
 あの話の後にこれを載せたらぶん殴られそうなので、正気を取り戻した私は文章を削除し、秩序は保たれました。

PS5積み立て資金になります