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スレイト・オブ・アンタゴニアス【ギドのアジト プレッツェルゲーム】

スレイト・オブ・アンタゴニアス(アンタゴニアスの石板)は、アンタゴニアス世界のありふれた日常風景、あるいは謎めいた幻視です。さまざまな登場人物の営みは刻々と移り変わります。何が映し出されているか、気が向いたときに見てみましょう。

** スレイトに新たなヴィジョンが映し出された **

「ほりゃ、あーひゃほとさみゃ、はやきゅ、はやきゅ」
 シアラがプレッツェル菓子を咥えたまま嬉しそうに急き立てるのを、アーカロトは苦い顔で見つめていた。
 周りでは子供たちが棒状のプレッツェルの両端を咥えてさくさくと齧っている。途中で折れてうわーとかおしいーとかコロコロと笑い転げていた。
 だが年長の男子二人組だけはニヤニヤと笑ったままシアラとアーカロトを眺めている。
「どうしたジジイ、早く遊んであげろよ」
「女を待たせる男はだせえぞ!」
 そして口笛で囃し立てる。アーカロトは溜息を吐いた。市場でゼグが珍しい菓子があったと買ってきたのが先程のこと。それを見てシアラが「おじいさまからおそわったあそびをためしたい」と言い出した。
 プレッツェルゲーム──二人の人間が両端を咥えて折れないように食べ切る遊戯。説明を聞いて子供達は早速遊び始めたが……何故かシアラの相手をアーカロトがすることになったのだった。
「へいへいびびってるー」
「シアラ泣きそうだぞジジイ」
 言われて見れば確かに完璧な美しさを誇る目尻にじんわり涙が溜まっているのだった。
「……やれやれ、分かったよ」
 アーカロトはもう一端を咥える。シアラの顔が近い。透き通る様な白い顔に少し赤味が差したのは気のせいだろうか。
(アンタゴニアス、最適な応力と角度とタイミングを計算しろ。ちょうど真ん中で折れる様にする)
「あ、デカブツの力借りるの禁止な」
「なっ……!?」
 機先を制する言葉にアーカロトは狼狽えるが、すぐに銃機勁道の応用でなんとかなると思い直す。
「銃のぶじゅつのやつ使うのももちろん禁止な」
 アーカロトは愕然とする。全ての退路は断たれた。なんの策も、勝利の保証もないままこの戦に臨まねばならない。
「ひひふぁすわ!」
 シアラが勢いよく宣言し、
 勢いが良すぎてそのままプレッツェルが折れた。

PS5積み立て資金になります