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骨のうたう

竹内浩三という詩人の「骨のうたう」という詩をご存じでしょうか。全文はこちらで読めます。

この詩を読んだ後、子どもたちに問いました。
「ここで描かれている戦争はいつの戦争だと思う?」
「第二次世界大戦だと思う」
間髪入れずに答えが返ってきました。根拠は?
「『とおい他国で』とあります。『とおい』というのがどれくらい遠くのことを言っているかはわかりませんが、第二次世界大戦が一番『とおい』わけですから。」
そう、この詩で描かれているのは第二次世界大戦です。では、いつ書かれたのだと思う?

これは、かなり意見が分かれました。
「戦争が終わってすぐじゃない?」
「いや、高度経済成長期だと思う」
「戦争に行った人がおじいさんになってからふり返って書いているのかも。だとしたら割と最近。」
いずれにしても全員、「戦後」と予想しました。

そこで私がいいます。
「竹内浩三はルソン島で戦死しています。『骨のうたう』は1942年の作品です。」
「え…」
子どもたち、絶句です。まあ、それはそうですよね。戦争で亡くなった詩人がどうして、

故国は発展にいそがしかった
女は化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨はなんにもなしになった

https://www.aozora.gr.jp/cards/001675/files/54814_54034.html

などと書けるのか。感想を書かせたら、次のようなものが並びました。

「戦争中に、戦後の国がどうなるかまで想像して、詩を書いていてすごいなぁと思いました」

「とても切なく、このような詩が書かれたこと自体が、そもそも悲しいと思った。」

「私は戦争を体験した人の気持ちはあまり知らなかったので、すごく衝撃的でびっくりした。正直、こんな形で死ぬのは少しいやだと思った。それにしてもなぜ、そんなに未来を予測できるのか不思議。」

「この詩を書いた時は、辛い中、ずっと誰にも悩みが言えず、苦しいのだと思った。

「『こらえきれないさびしさや』『絶大な愛情のひびきを 聞きたかった』と書いていることから、戦争で自分は死ぬと分かっていたけれど、自分が大切に思う人の愛情を短い時間(自分が死ぬまで)でしかもらうことができず、さびしさを表していると思う。戦争では、そういった、まだ人生を楽しめていない人達がたくさん亡くなって、悲しい。」

戦争を教えるのって本当に難しいな、といつも思います。私自身は、小さいころに母から聞いた話が自分の戦争観のベースになっていると思うのですが、それを押し付けるわけにもいきませんし、と言って通り一遍のことを話すだけでは、戦争の「情報」しか伝えることができない。

竹内浩三の詩に触れさせることが正解かどうかはわかりません。今日の授業が子どもたちに何かの引っかかりを残したのではないかという実感はありますが、さて。


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