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学級通信最終号「負け」

月曜に出した学級通信で終わりにしようかな、と思っていたのだけれど、何となく書きたくなったのでもう1号だけ書きます。普通、こういう時は「このクラスとはこうこうこんな思い出があって」とか「あの時の君たちはとってもかわいくて」とか、そういったことを書くものだろうと思うけれど、僕は根がひねくれ者なのでそんなことは書きません。全然、違うことを書きます。

昨日、野球のWBCで日本が優勝しました。すごい。君たちの中にも桃鉄やっているフリしながら速報をずっと見ていた人もいたくらいだから、それなりに関心が高かったのではないかと思います。日本は見事に優勝したわけだけれど、あれ、負けていたらどうだった? 最初は東京でやっていたけれど、その段階で韓国や中国やチェコに負けていたらどうだった? たぶん「あーあ、負けちゃった」とか「なんだ、弱いじゃん」とか思って、日本代表を応援する気持ちが薄くなったのではないかな、と思います。まあ、それが普通でしょう。「負ける」ってそれくらい精神的ダメージが大きいものだよね。

ところがですね、僕はこの「負ける」ということについて、実は非常に強い耐性(耐えられる力)を持っているのですよ。なぜか。それは鍛えられたことがあったからです。

今を去ること30年以上前。大学生の頃、僕は吹奏楽部というクラブでトランペットを吹いていました。ある日、そのトランペットの先輩に言われました。
「おい、鈴木。野球の応援に行くぞ」
「え、どこのチームを応援するのですか?」
「横浜大洋ホエールズ(今の横浜ベイスターズ)だ」
「え、僕は巨人の方が好きなんですが・・・」
「うるさい。いいから来い。来てラッパを吹け!」
そう命令されてしまっては仕方がありません。

でも、行ってみたら面白かったんだよ。応援団の人たちにとっては「トランペットを吹いてくれる人」はすごく大切なので、色々とサービスしてくれたりしてね。トランペットを吹いて応援するのは大洋ホエールズが攻撃している時なのだけれど、守っているときは「兄ちゃん、弁当あるぜ!」とお弁当を持ってきてくれたり「兄ちゃん、焼き鳥あるぜ」と串を渡されたり「兄ちゃん、のどが渇いたらこれがあるぜ」とビールを置いていってくれたりする。なんだかその雰囲気が好きになって、最初はそんなに乗り気じゃなかったのだけれど、僕はしょっちゅう横浜スタジアムにトランペットをかついで行くようになりました。

ところで、当時の横浜大洋ホエールズというチームが、それはそれは弱いの。だいたい最下位にいるようなチームで、10回通っても3回、勝てるかどうか、という感じ。負けっぷりもなかなかすごかった。とにかくピッチャーがボカスカ打たれるわけ。「もうピッチャー、交代しろ!」とか応援団の人まで叫んじゃうのだけれど、交代したらしたで、そのピッチャーがまたボカスカ打たれる。

(うわぁ、弱いなぁ・・・)と最初は呆れていたのだけれど、途中でふと思いました。こんなに弱いチームで負けてばっかりなのに、どうしてこの人達は毎日横浜大洋ホエールズを応援しているのかと。

答はよくわかりませんでした。「そもそも横浜という街が好き」という人もいただろうし、「周りは巨人ファンばっかりでつまらない」という人もいたかもしれない。人それぞれだったろうと思うけれど、ただ、とにかくみんな負けても明るいの。2対18でボロ負けした試合を見たことがあったのだけれど、試合が終わったら隣にいたおじさんが「こんなに弱いのに2点も取ったなんてすごくねえか?」と言ってきたんだよ。そんな考え方もあるのか、とすごくビックリした。でも、それ以来、(そうか、負けてもそれはそれで楽しめちゃうな)と思ったのだよね。

以後、相変わらず横浜大洋ホエールズは負け続けたけれど、僕はとても広い心でその敗戦を楽しめるようになりました。負けても負けても負けても負けても、それでも次の日にはまた試合をして、1点取っただけで十分、楽しめる。たまに勝とうものなら、もう優勝したような大騒ぎができる。いいじゃないか。以来、僕の中には「負けるなんて大したことじゃない」という考えが出来上がったような気がします。言い方を変えると、僕は負けることを恐れなくなりました。

負けることを恐れないのって、割と強いんだよ。どんなことでも挑戦できちゃうから。「負けるのなんて怖くない。もしも勝てたら儲けもの」くらいのつもりでいるものだから「そんなの絶対に無理でしょ?」というようなことにもどんどん取り組んでいっちゃう。

Microsoftで授業したとき、Bingを使ったでしょう? あれも見ていた先生方からは「ぶっ飛んでる」って散々言われたの。「道徳の授業でAI使うなんてそんな冒険、よくやろうと思いましたね!」って。でも「別に失敗したって命まで取られるわけじゃないし、なんか面白そうだし」と思うとやれちゃうんだよね。

このクラスって勝負にこだわるじゃない?(笑) それが君たちのエネルギーになっていた部分もあるから、それはそれで悪くないのだけれど、負けたって大丈夫だぜ。うん、それは最後にちょっと伝えたいなって思う。負けたって大丈夫なんだよ。

負ける、と言うか、失敗することって誰にもあるじゃない? テストの点が悪かった。友達とケンカしちゃった。廊下を走っていて先生に怒られた。色々な失敗があると思うけれど、それね、そんなに大したことじゃない。どんな失敗をしたって明日はやってくるし、その失敗で君たちの存在が否定されるわけじゃない。そんな失敗で君たち一人ひとりが持っている素敵なもの、いいものが失われるわけじゃない。

5年生になれば、色々なことに挑むことが増えるでしょう。そうすると、失敗することも増えるかもしれない。でもね、失敗したって大丈夫。もちろん失敗を挽回しようと努力することはやった方がいいけれど、失敗したからって君たちは君たち。大事なところは揺らいだりしない。もう揺らがないような芯が君たちの中には出来ている。それは1年間、君たちを見てきたからよくわかる。大丈夫。

ということで、4月からは失敗することを心配しないで、様々なことに挑戦してほしいな、と思います。挑戦を楽しむような高学年生だったら、それはなかなか素敵だと思うぞ。君たちが楽しんで挑戦して(時々、失敗して)成長していく姿を見せてくれるのを期待しています!!

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