忘却の彼方に消える前に
かつて大変お世話になったレコーディング・エンジニアの方を偲ぶ会がありました。「偲ぶ会」と言うと、故人の想い出を参列者が代わる代わる語り、何なら故人のスライドショーかなにかを見てみんなで泣く、みたいな会が思い浮かぶわけですが、この夜の会は趣が全く違いました。
「『久しぶりに会うのがこういう機会』っていう年になってきちゃったね」
ん十年ぶりに会う知人と挨拶をして席に着くと、会場にはもう故人が録った音が流れていました。そう、この夜の会は、音を聴く会だったのです。
若い頃は有名ミュージシャンの数々の録音に携わっていた岡田さんは、PioneerではピュアモルトスピーカーやHAPPY TUNEといった魅力的な商品の開発にも携わっていました。(僕は、特にその頃、岡田さんのお世話になりました。)
HAPPY TUNE は楽しかったんですよ。サウンドスケープMDなるものがついていて、音楽CDとそのサウンドスケープ音源をミックスして流すことができました。その時のMD、まだ持っているのですが、MDを聴ける機械がなくなっちゃいましたねぇ…。
ピュアモルトスピーカーはサントリーとコラボして「ウィスキー熟成の使命を終えた樽」の樽材を使ってスピーカーにしちゃったという製品でした。よく「開封の儀」とかありますが、ピュアモルトスピーカーの「開封の儀」はもうレベルが違いました。何しろ箱を開けたらウィスキーの香りがするのですから。
ちなみに我が家にあるS-PM2000は発売から20年以上が経っているわけですが、未だ現役バリバリ。サウンドバーを買おうなんて全く思わない、いい音を鳴らし続けてくれています。
この夜、聴いたのは、岡田さんがサウンドバムで録った音。サウンドバムのWEBサイトはFlashで作成されていたため、長く聴くことができませんでしたが、つい最近、復活を果たしています。
僕は残念ながら一度も参加することができませんでしたが、音を聴くだけでそこに行ったような気持ちになります。特にオススメはこの3箇所。
この3箇所、いずれも行ったことはないのですが、音を聴いているだけで何だかそこに行ったような気になります。オルカの鳴き声とか堪らないし、キューバの街に溢れる音楽も魅力的。タマンネガラの自然の音も最高です。
会では、実際にその時のサウンドバムに参加された方々が想い出を語ってくださいました。「岡田さん、現地の人に録った音を聴かせるの好きでしたよね」「岡田さんっていつも笑顔でしたよね」等々。そして、口々に「音を聴くと思い出すんですよね」と言いながら。
そう、音って記憶を呼び覚ますようなところがあります。その魅力に取り憑かれて、僕も以前は熱心に音を聴く活動をしていました。その時に録った音で、今すぐWEBで聴けるのってほとんどないのですが、例えばこれとか。
会を主催されたサウンドバムの主要メンバーのお一人(この日、流した岡田さんの録った音を整理してくださった方)と少し話をしました。曰く「音を聴き返すと色々思い出しますね。でも、この話、岡田さんが生きているときにすればよかった。」
そう、そうなんですよ。やっぱり生きているうちに話さないと。そういう意味では、今頑張っていることの痕跡があちこちに残っているのは、いいことかもな、と思いました。
もちろん過去の栄光に浸っているだけではダメだと思いますが、たまには自分たちの頑張ってきたことをふり返って「よし、また頑張ってみようぜ」と決意を新たにすることも大切なのではないかな、と。
人の営みは、いずれは全て忘却の彼方に消えていきます。YouTubeに残そうと書籍に残そうと、あるいは誰かの記憶に残っていても、いずれは消えます。でも、だからこそ愛おしいのだし、価値があるのです。
夏休みももうすぐ終わるわけですが、自分たちの営みを改めて振り返る時間を取るのも悪くないかな、それをエネルギー源にすれば2学期も頑張れるかな、と思うのでした。