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『八色ヨハネ先生』三宅威仁著、文芸社、2023

 同志社大学神学部教授(このレビューを書いている2024年2月現在)の三宅威仁さんによる小説。小説を読むこと自体、筆者にとっては何年ぶりかわからないほど久しぶりであったので、とても新鮮だった。
 主人公の八色約翰(やいろヨハネ)先生は同志社大学神学部の教授である。しかし、作者によれば、この人物にはモデルとなる人物は存在せず、全くの創作であるという。作品ではこのヨハネ先生の、太平洋戦争末期の少年時代から晩年までの生涯が綴られている。

 作品には、キリスト教信仰に根ざす表現が幾つも出てくるが、どれも信仰を持たない人にも理解や共感ができるものではないかと思う。信仰者でないとわからないような用語や表現は出てこない。逆に、信じる人の気持ちはこんなものなのか、と読む人の心にもすんなりと受け入れられるのではないかと思う。

 個人的には、神に語りかけられる宗教体験の場面や、若い時代のヨハネ先生のシンプルな信仰、イエスがこの世に生まれたことの意味、そして永遠の命についての理解に、自分と相通じるものを感じ、大いに共感した。しかし、それは筆者も同志社の神学部で学んだためにそう思ってしまうのかもしれない。
 私たちは既に永遠の命を生きている。ただ、ひとりひとりにそれが分け与えられている期間が少しだけなのだ。私たちは皆んなで永遠の命を共に生きてゆくのである。

 作品には、人の命の儚さ、生きることの意味、死ぬことの意味、喪失、悲嘆、そして復活、永遠の命……などなど、ヨハネ先生の鮮烈な人生体験と思いが、豊かな映像的イメージで鮮やかに描かれている。
 ヨハネ先生の人生を通して読者は、自分は何のために、誰のために、どのようにしてこの与えられた束の間の命を生きるべきなのだろうか、と考えさせられるだろう。私も自分の人生を振り返らされた。
 頁をめくるごとに、人間への優しい眼差しが溢れ出している。何度も読み返したくなる愛読書となる小説に出会えたと思う。
 

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