実践

実践していることは何ですか?

中島岳志氏の『思いがけず利他』で紹介されていたNHK100分de名著『ガンディー 獄中からの手紙』を読んだ。本著は、ガンディーが収監中に書いた手紙の内容を抜粋し、ガンディーの活動と、その背後にあった思想や理念を結び付けて、説明を行っている。面白かったのは、いわゆる教科書に出てくるような聖人君子の側面だけでなく、幼少期~青年期に渡る欲にまみれた姿も描いていたところだ。この対比があるからこそ、人は精神的に成長できるというメッセージにもなりえている。

ガンディーの活動では断食と行進が有名だが、スワデーシー(自国産品愛用運動)については初めて知った。値段が高くて品質が劣っていても、コミュニティの中で生産されるものに対価を払うことで、そのコミュニティ内での人同士に役割や貢献感が生まれる。それがより良い生き方に繋がる。70年以上前に生きたガンディーが、既に資本主義の問題点に気付き、その対案としてコミュニティが重要だと説いていることは驚きに値する。おそらく、様々な抗議活動を行う中で、人間の根源的な問題と、社会の在り方に気付いたからこそ提唱出来たことなのだろう。

ガンディーの活動はよく非暴力だと言われている。ただ、個人的にガンディーのやったことが非暴力だと感じたことは無い。抗議のため殴られてもひたすら行進し続けたり、争いをやめるまで断食してやせ衰える姿を見せることは、傍観者ですら恐怖を感じるもので、それが対立する当事者であった場合は、暴力そのもののように感じる。周囲に影響力を発揮するために、どのような具体的行動が最も効果があるのかを、知り尽くした上で実行しているため、戦略的で、かつ忍耐的でもある。だから畏れを抱き、人々の心に考え直させる余地を与えたのだろうと思う。

一時期、会社の居室の掃除をひたすら一人でやり続けた時期があった。部下は居室の掃除がうるさいから集中できなくてデスクワークが進まないと言い、掃除をする管理職陣はノロノロと非効率に実施している。だから、朝誰もいない時間に一人でやってみたら、所要時間は殆ど変わらず、人もいないためデスクの下などもしっかり掃除でき、質も高めることが出来た。掃除をすることでスッキリ感も味わえたので自分にとっても良い変化があった。それから二年程度、週に2回、出張不在時以外は早朝掃除をし続けた。飲み会の次の日も休まずに実施した。

掃除をやるようになってから、周囲で安全や4Sの意識が上がった社員もいたし、問題などが発生した時にすぐに相談に来てくれるような社員も増えた。周囲を変えるのではなく、主体変容によって周囲が変わるという体験をすることができたように思う。この頃コーチングも受講し始めた時で、「あなたを歴史人物に例えると?」という質問を受けた時に、何故か「ガンディーです」と答えた記憶がある。当時は言語化まで出来ていなかったが、それなりに近しいことをやっていたことを、何となく理解していたのだろう。

複雑かつ多様な世の中で、自分一人の影響力などたかが知れたものだけれど、日々を真面目に素直に生きていけば、誰かに響くかもしれない。そこから新しい関係性が生まれたらいいなと思いながら、これからも小さな行動を積み重ねていければよいと思う。


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