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最低賃金を欧米レベルの1100円に引き上げるとともに、労働生産性低い中小企業は統廃合する

4 財政破綻を回避するための処方箋

② 既得権益を排し大胆な規制改革を行うことによって、経済の停滞から成長に

提言1 最低賃金を欧米レベルの1100円に引き上げて生活できる給料に。労働生産性の低い企業は統廃合を促す

 日本に来る外国人に日本のいい所を聞くと、「安くておいしい食事」や「店員さんのサービスがいい」という声が多くあります。この評価は嬉しい反面、外国の人にとって日本は安い国、安く旅行ができる国になったんだなと実感させられます。
 実際に日本は、先進国では米国を除いて最低レベルの最低賃金になっています。

世界の最低賃金

 その米国も民主党のバイデン大統領になり、最低賃金の大幅な引き上げに動き出しています。

米、時給1600円を義務化 連邦政府契約の労働者
バイデン米政権は27日、連邦政府と請負契約する労働者に時給15ドル(約1600円)の最低賃金を義務付けると発表した。省庁などで働く清掃員や修理業者、看護助手、カフェテリアの給食担当らを想定している。
政府と直接契約していない幅広い企業への波及効果も狙う。
(共同通信社 2021年4月27日)

 コロナ禍の前の日本では、コンビニや介護、作業現場で働く人の人手不足が問題となっていました。しかしアメリカ発祥の量販店コストコが時給1200円でアルバイトを募集すると応募者が殺到しました。

アメリカ発祥の会員制倉庫型量販店「コストコ」が、アルバイト従業員を全国一律時給1200円以上で募集しており、その好待遇が話題を呼んでいる。
 全国どの店舗でも募集条件は同一で、時給1200円から始まり、1000時間ごとに昇給し、最高1650円もしくは1800円になるという。同社は、このような基準を「グローバルスタンダードに基づくもの」と語っており、「コストコが進出している他の国においても同じルールを適用している」という。
宮城県富谷町では、従業員募集の説明会に参加者が殺到しているという。同町役場産業振興課の担当者は、コストコの進出に対し「若い世代の働き先となり、ありがたい。町の発展に大きく影響するだろう」と声を弾ませる。
(THE PAGE 2016年1月13日)

 2016年1月時点の宮城県の最低賃金は726円です。1日8時間で1ヶ月働いても127,776円(税引き前)。1日中交通整理をしたり、レジ打ちをしたり、高齢者のおむつ替えをしても、一人でギリギリ生活できるかどうかの給料では、結婚して子供を育てようとはならないでしょう。
 日本では、最低賃金に近い時給で働いている小売店の店員さんや飲食店のスタッフでも、仕事に対する責任感や気配りは質が高いですし、またお客さんや雇用主から高いレベルを求められてもいます。海外の店員さんは、もっと自由で責任感も低く、お客さんともフレンドリーに対等な立場で接しているように感じます。
 安易に海外から安い労働力を入れて需給のバランスを無理やり保って低い最低賃金を維持するのではなく、先進国並みの賃金にして、またアルバイトやパートならもう少し気楽に働けるようになれば、働く人の幸福度がUPするし、シニアや専業主婦、心身の面でフルタイムで働くことができない人も労働市場に出てきて人出不足も緩和されるのではないでしょうか。

 最低賃金を上げると機械化されたり中小企業がつぶれたりして雇用が減るので、雇用の面でもよくないという意見がありますが、これは最低賃金を上げたくない側の言い訳・ポジショントークのように思います。
 日本の労働者の質は高いのに、労働生産性がOECD加盟国の中で低い(21位)のは、自動化・IT化の遅れや競争力のなくなった中小企業がたくさん残っているからです。
 確かに、短期的には競争力のない会社がつぶれて職を失う人が出ることが予想されるので一時的なセーフティネットを用意する必要がありますが、従業員が暮らしていけないような賃金しか払えないような企業を残していては日本に未来はないのです。

労働生産性

 最低賃金と中小企業の問題については、日本の文化財の補修を行う小西美術工藝社社長で菅内閣の成長戦略会議のメンバーでもあるデービッド・アトキンソン氏が積極的に提案を行っていますので、下記に紹介します。

最低賃金を引き上げて経営者の尻を叩け
 先進国の中で最低水準にある日本の生産性。これを高める方法は、はっきりしています。同じく低水準にある最低賃金を引き上げる。それだけでこの国は劇的に良くなります。
 最低賃金が低いと、経営者は安く人を使えます。それで利益が出るから、経営者は頭を使わなくなるし、機械化やIT化のための投資もしなくなってしまう。最低賃金の低さが経営者を甘やかして、もっと高められるはずの生産性にブレーキをかけているのです。
 日本の最低賃金は不当に低く抑えられています。2016年のWorld Economic Forumのランキングで、日本の人材評価は世界4位です。ほかにトップテンに入っているのは、人口の少ない国ばかり。日本の人材評価は、人口の多い先進国で最高レベルです。にもかかわらず、最低賃金は先進国で最低水準ですから、不当と言って差し支えない。

4.人的資本指数ランキング

人材評価と最低賃金

 最低賃金が上がれば、まず中小企業は高い賃金を払うために規模を大きくしなくてはならず、雇用を増やします。それができない中小企業は統廃合されて、それまで雇用されていた人は、より大きな中堅企業や大企業が受け皿になってくれます。中小企業の数が減っても、雇用がなくなるわけではないのです。
 ただし、最低賃金の引き上げ方によっては雇用に悪影響を与えるおそれもあります。最低賃金引き上げ反対派がよく挙げるのは、韓国のケースです。韓国は18年1月に最低賃金を一気に16.4%引き上げました。その結果、失業者が増えてしまった。
 もともと韓国は最低賃金が極端に低いわけではありませんでした。そこからさらに一気に16.4%アップというのは、さすがに極端すぎました。アメリカ経済を分析した論文では、最低賃金の引き上げ率は15%がベストで、それ以上になると悪影響が出始めるという分析が示されました。もともとの水準が各国で異なるため数字をそのまま適用できませんが、上げすぎると弊害があるのは本当のようです。
 日本は現在、年率3%程度の引き上げ率です。この水準で雇用に悪影響が出ることはありません。現実に最低賃金は上昇しながら就業者数は増えていて、むしろ雇用を増やす効果が認められます。生産性を高めるためには、もっと高くてもいい。私は年率5%で引き上げてもまったく問題がないと見ています。
(デービッド・アトキンソン「最低賃金引き上げで、日本は必ず復活する」 プレジデント 2020年6月12日号 より)

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