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財政破綻についての見解のまとめ 橘玲氏

2 財政破綻が起こるとすれば、何を引き金にいつ起こるのか


 この章では、まずは財政破綻・ハイパーインフレの危機があるという有識者(著名な方や研究者)の見解を見ていきます。

〇 橘玲  『言ってはいけない—残酷すぎる真実』『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』等のベストセラー作家

国家破綻で起こる4つのことを知っておく!
 日本の財政赤字も構造的な問題で、国家が無限に借金することはできないのだから(もしそれが可能なら錬金術になってしまう)、このままでは危機はいずれ現実化するだろう。その影響が計り知れないものである以上、私たちは個人としてそのリスクに備えなければならない。
 日本国の財政が破綻すると、経済的には4つのことが起こり、それ以外のことは起こらない。
RISK1 金利上昇
国債価格の下落で金利が上昇すると企業倒産や住宅ローン破産が急増へ!
 財政破綻は、国債の暴落による金利の上昇をきっかけに始まる。
これは財政破綻の定義で、それ以外の経済的な事象(円安やインフレ)が起きても、金利が大きく上がらなければ、景気の回復につながるだろうから財政は破綻しない。だが国債価格が大きく下落(金利が上昇)すると、国債を大量に抱える金融機関が時価評価で債務超過になってしまう。
 仮に日本国債が暴落すればなにが起きるだろうか。日本の銀行や保険会社は大量の国債を保有していて、国債暴落で巨額の評価損を被ることは避けられない。救済のために実質国有化されるところが出てくるだろう。
 金利の上昇によって変動金利でマイホームを購入した人は返済ができなくなり、自己破産と不動産の競売が急増するだろう。短期の借入で資金繰りをしている企業も同じで、財政破綻と企業倒産、住宅ローン破産は一つの原因(金利上昇)から発生する同一の現象だ。大規模な金融危機は株価と地価の下落をもたらし、企業の倒産によって失業率は大きく上昇する。
RISK2 円安
短期的に円高から超円安にシフトし円の価値が10分の1になる可能性も!
 財政破綻で超円安を予想する人が多いが、実際になにが起きるかはそのときになってみないとわからない。日本の対外純資産は民間だけで180兆円以上あり、国内金利が上昇すれば海外資産を売却して円に戻す動きが広がるだろう。金利の上昇で海外投資家が日本国債に投資し、それが円高につながるかもしれない。ただし、為替レートは長期的にはインフレ率と金利差を調整するように動くから、高金利の通貨はいずれは安くなる。この“市場原理”が働いて、日本経済の高金利(インフレ)が定着すれば為替レートは円安に向かうはずだ。為替の水準は、金利の上昇とインフレがどこまで進むかによる。ハイパーインフレのような極端な事態を想定すれば、1ドル=500円や1000円になってもおかしくはない。歴史上、通貨の価値が10分の1や100分の1になることは珍しくないのだ。
RISK3 インフレ
国民を犠牲にして国家が借金を清算する急激な物価上昇が起きる!
 国債というのは、固定金利による借金だ。あなたの月収が20万円で、期間10年で1000万円のローンを年利3%で借りているとしよう。このとき日本を1000%超のハイパーインフレが襲えば、生活はなにひとつ楽にならなくても、名目の月収は200万円になる。金利も大幅に上がって、普通預金でも20%以上の利息がつくかもしれない。しかしそれでも、固定金利の年利3%という条件は変わらない。1000万円のローンの実質負担は10分の1以下になり、借金はたちまち返済できてしまうだろう。インフレというのは、国家にとってこれと同じ効果があるのだ。
 しかしこれは、国債の保有者である国民にとってはとんでもない事態だ。物価が10倍になれば、1000万円の貯金の実質価値は10分の1になってしまう。最大の被害者は年金だけで生活している人たちで、家賃を払えずホームレスになる高齢者が激増するかもしれない。ハイパーインフレとは、国民を犠牲にして国家が借金を清算することなのだ。
RISK4 預金封鎖
国民の1400兆円の金融資産を差し押さえ財政赤字と相殺するという最悪の事態も!

 財政破綻が現実化すると、インフレでしか国家は借金を清算できない。しかし、もしなにかの政治的理由でインフレが起こせなかったとしたらどうなるだろう。その場合は、1400兆円の国民の金融資産を差し押さえ、1000兆円の借金と相殺することで、財政赤字を消すことができる。これが「預金封鎖」や「新円切替」と呼ばれる究極の財政措置だ。
 国家は通貨を発行し、軍隊や警察などの「暴力」を独占しているから理論的にはなんでもできる。だが日本はまがりなりにも民主政国家で、預金封鎖は憲法に定められた財産権の侵害にあたるのは明らかだから、この“焦土作戦”の実行可能性は低そうだ。しかし預金封鎖は終戦直後の混乱期に実施されたこともあり、マクシミン戦略では、「最悪の事態」の一つとして考慮する必要があるだろう。
 財政学者の多くは、日本の財政を持続可能にするためには税率を20~25パーセントに引き上げる必要があると試算している。こんなことは政治的に不可能だから、彼らの計算が正しければ、そう遠くない将来に日本は深刻な財政危機に見舞われることになる。
 こうして、「国家破産」を警告するたくさんの本が書店に並ぶことになった。そこで描かれるシナリオはどれもほぼ同じで、国債暴落(金利の上昇)→超円安→ハイパーインフレという順番(因果関係)で危機は深刻化していく。この予想に基づいて、「国家破産に備えて外貨資産を持とう」というアドバイスもよく目にする。
 私はこれが間違っているとは思わないが、ソロスの失敗を見れば、国債暴落=金利上昇という第一要因がただちに円安やインフレという因果関係に結びつくかどうかは不確定だ。国債が暴落して金利が上昇すると、損失を被った日本企業や金融機関は海外資産を売却して円に戻そうとするかもしれない。だとすれば為替相場は一時的に大幅な円高になるだろう。
 このように考えれば、日本の財政は持続不可能だと考えた投資家は、円安ではなく、第一要因である国債暴落に賭けるべきだということになる。
 もっともここで注意しなければならないのは、仮に日本の国家破産が避けられない運命だとしても、いつ国債暴落が起きるかは誰にもわかない、ということだ。国家は無限に借金できるわけではないから、日本国の負債が5000兆円や1京円まで膨らむことはないだろう。だが日本経済は世界3の規模で、1500兆円や2000兆円の負債なら耐えられるかもしれない(あるいは逆に、負債はすでに限界を超えていて、なにかのきっかけで明日にでも国債が暴落するかもしれない)。


(国家破産はこわくない 日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 橘玲著 2013年03月発行より)

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