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唐突ですが大正琴の話を始めます


なんでいまさらタイショゴト?

唐突ですが「大正琴」といったら、みなさんどんなイメージをもたれるでしょう?ハードオフのジャンクコーナー常連の楽器?それともおばあちゃんたちがグループで合奏しているイメージ?

でも、どうやらそもそも大正琴という楽器自体が今やほとんど知られていないらしい。身の回りで聞いてみたところ、40代後半から50代に入るあたりに境目がありそうです。それ以上だと自分が弾くかどうかは別として「知ってはいる」。でもそれより下の世代だと「タイショゴト?」と首を傾げられてしまいます。

そして70代の知人からは「あれは私たちの親世代の楽器じゃないかな?」とのコメントをいただいたのですが、その世代の前後が戦後の大正琴ブームの中で育った愛好家のボリュームゾーンであったのは確からしい。

つまり、昔は周囲にあれだけたくさんの愛好者がいて、それこそTVで通販のCMが流れ、どの町や村にも大正琴の教室や愛好者サークルがいくつもあるレベルで隆盛を誇った大正琴はいま急速に忘れられていっている最中のようなのです。

この古賀政男(戦後の大正琴ブームと楽器の進化に大きな役割を果たした方です)モデルも復刻版含めてハードオフの楽器コーナー/ジャンクコーナーの常連ですね。

Wikipedia(ja) - 古賀政男

「大流行と後継世代への継承失敗」。かつてそれだけの愛好者がいて、たくさんの楽器が演奏され、しかしいま急速な愛好者数の減少に直面している。よくある話ではありますが、いまどこのハードオフに行っても楽器/ジャンクコーナーにたくさんの大正琴が並んでいるのはこれが理由です。なるほど、若い世代にとって大正琴が「なぜかハードオフに大量に並んでいる謎楽器」として受け止められるのも道理です。

大正琴の現在地と可能性

もっとも、私だって偉そうなことはいえないのです。私にとっても大正琴は「おばあちゃん達が弾いている楽器」で「ハードオフ/リサイクルショップに転がっている楽器」でした。少し前までは。ちょっと違うところがあるとしたら長いことエレキギターやウクレレを始めとして色んな楽器で遊んできたので大正琴の構造や弾き方はだいたい予想がついていたことぐらいでしょうか。(ただ、これは同時にあまりこれまで興味が湧かなかった理由にもなるのですけれども)

それがこの10月、ひょんなことから大正琴に興味をもって、この2ヶ月のあいだに手元に集めた大正琴はすでに30台を超えました。年内のうちにまだ増える予定で、割といま寝る場所がありません(比喩ではなく)。

2ヶ月とはいえ、これだけ毎日ヤフオクやメルカリを眺め続けてリサイクルショップを見かけてはジャンクコーナーに寄り道し、隙間の時間では調べものをして紙資料を取り寄せていると「これは思った以上にずっと面白い楽器だぞ!」と思うようになりました。毎日弾いてもいます。大正琴の歴史からは大げさに言えば日本の近現代史が浮かび上がってきて、更には大正時代から昭和初期にかけては日本を飛び出して世界各国に広がっていって、いま各国でその子孫が活躍して面白い音をかき鳴らしている、そういう驚きと面白さのある楽器です。

実際、インドに渡って独自進化を遂げたインド大正琴(ブルブルタラング/インディアンバンジョー)とその演奏の話題は定期的にSNSで再発見されてそのたびに盛り上がりをみせるネタです。そういう意味では大正琴の音と演奏に人々を沸かせるポテンシャルは十分にある。

中国からモンゴル、ロシアへ。インドネシア、タイ。インドからパキスタン、アフガニスタン、そしてアフリカ東海岸へ。ハワイからオセアニアへ。日本人移民とともに南米へ、世界各国へ広がっていった大正琴は、しかしインド大正琴にしてもそう順調に展開したわけでもなかったようです。それもまた楽器と音楽の伝播として興味深いところで、機会があればそのあたりも書くことがあるかも知れません。

とりあえずは、世界各国で伝播した大正琴とその音楽が紹介されると知らない世代にもけっこう新鮮に、かっこ良いものだと受け止められるようだ、という一点をまずは共有しておきます。

そして次の様な演奏はどうでしょう。結構、これは凄いと受け止めてもらえるのではないでしょうか。弱冠19歳の演奏です。

ハワイアンの楽器として有名でどちらかといえばポロンポロンと伴奏する楽器の印象が強かったウクレレは、90年代にソロ演奏が発展・普及したことでハワイアンの枠を飛び出し、楽器自体も世界各国で様々な伝統と融合しながら新しい音と演奏を生み出し続けています。

戦前、大正時代の誕生以来もともとは一人でつま弾く楽器だった大正琴は、戦後にアンサンブル(合奏)の可能性が花開いたことで楽器自体も様々に進化して演奏も大きく発展しました。

ただ、好事魔多しといいますが、いちどは成功の方程式だったものが次の時代にはブレーキとなるということは残念ながらよくあります。大正琴教室(流派)を通しての楽器の流通も、アンサンブル演奏(合奏)を基本とする文化も、いまやかえって弱みになりつつあるように思えます。

今後を考えるなら恐らくは愛好者のソロ演奏と様々なジャンルでのコラボレーションが、同じ楽器によるアンサンブル(合奏)ではなく、様々な楽器によるセッションが、これまで開拓されなかった新しい大正琴の可能性を引き出していくのではないでしょうか。

実のところ、Youtubeを眺めていると海外/海外向けで活動する大正琴ユーザーは意外に多く、そして楽器だけが海を渡って演奏情報等が最低限しかなかったところからか、かえって従来の考え方にとらわれない音作りと奏法が生み出されて再生数を集めているようです。

そしてなんという偶然か、この2023年には大正琴を独習するための決定版といえるテキストが出版されました。大正琴を入り口として広く音楽の世界にこぎ出していくような視点で書かれたとても分かり易く素晴らしい本です。

著者の泉田由美子さんにはもう少し入門者よりのテキストもあり、これは何度も改訂を重ねられていて、最新版はこれもまた今年に出たばかり。これはもう大正琴を始めるしかない!というタイミングです(笑)

徒然なるままによしなしごとを

正直な話として、ネット上には大正琴についてまとまった記述が少ないのです。減っているとはいえまだ何万人と奏者がいらっしゃる楽器にも係わらず、です。また、あっても内容が偏っていたりもします。

それにはいくつか理由があり、このnoteが続くならいずれ書くことがあるかも知れませんが、当座は置きましょう。大正琴を弾いてみたいと思われたなら、まずは上記の2冊を買っておくのが確実です。合わせて買えば少々はりますが、なにも2冊同時に買う必要はありません。なにせネット上の情報は少なく、分散しているので、それを集めている時間を時給換算すればかなり安く済むだろうということは保証します。

とはいえ、これら最新の2冊でもすでに現状とズレている部分があります(演奏部分については問題ないのでそこは安心してください)。いずれ別項で書ければと思いますが、それくらい大正琴を取り巻く状況は厳しい変化の最中といえるでしょう。

私の趣味は調べごとなのですが、ある程度ガッと知りたいことを知れて満足したらだいたい忘れてしまっていました。ただ、今回は珍しいことに「この面白い楽器についてわかったことのメモを残しておいたら、これからやってみようと思う人の手がかりになることもあるかもしれないな」と、思ったという次第です。

そんなわけで行き当たりばったり大正琴メモの初回のご挨拶でした。思いつくままのダラダラとした長文にお付き合いいただきありがとうございました。いつまで続くかは分かりませんが、一応作ってみたメモに従えば30ぐらいの話題はあるのではないかと思います。

そもそもまだ触れ始めて2ヶ月かそこらの人間が書きちらかすことですからいろいろ怪しい記述も紛れ込むでしょう(もちろん修正していくつもりです)。それでも、ここに書き付けていくメモのなにか一つでも、皆さんのお役に立つことがありましたら幸いです。

次回予告

そうですね。ハードオフのジャンクコーナー常連の機種についてまずは一つ解説してみるとします。そこから話題がどれくらい話題が広がるものか、試して見たいと思います。

2023/12/14 第1版 公開



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