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うつけ者、銀座を歩く。



銀座にはあまり来ない。
否、来ることが少ない。


一緒。なんで言い直した。
何が「否、」なのか。


銀座は自宅の最寄駅からアクセスが悪いというのも大きいが、銀座という街は自分には些かプレッシャーを感じる場所だ。

ここは金持ちしか歩いてはいけないところ。
家で札束を燃やすような種族ではないためそんな自分は銀座を闊歩する権利がない。

家で札束を燃やして初めてザギンを大手を振って歩くことができるというもの。

俺が家で燃やせるのはせいぜいポストに入っていた不要なチラシの束くらいだ。

否、燃やすことはない。大変怒られる。


今日は用があってこのセレブタウン銀座に降り立った。
ただ、その予定までに時間がある。
どうする俺。
どうする家康。

ということでね、もういい歳だし公園とかで時間潰すのもなんなんで大人らしく喫茶店で時間を潰すことに。

そこで素晴らしい喫茶店に出会った。

まさに今どんな状況でこんな駄文散文をぽちぽちしているかというと、
銀座は鈴蘭通り、晴美通り側から入って左手すぐの建物4階にある壹眞(かづま)珈琲店にて、
珈琲を味わいながら思い立った次第だ。


この珈琲店、良い。


正直珈琲の美味しさはわからん。
ブラックとか飲まないし。
個人的にはあんまい、あんまい飲み物が好きでブラック珈琲なんてのはもってのほか。
成人してもお酒をあまり飲まず「ココアの方が美味しいじゃん、一生ココアでいい。」とずっと思っていた。
お酒を飲むようになってからもカシスオレンジをずっと頼んでいた。
かわいい。
カシオレの金城、という異名もあったらよかった。(なかった)

ちなみに喫茶店に行く時はカフェオレを頼んでシロップをドバドバ入れる。
糖尿病のリスクを背負いながらも強く生きている。

とっ散らかったが、壹眞珈琲店の話をさせてほしい。
ビルの4階に入っている壹眞なのだが、
エレベーターで4階に着くと扉開いてすぐもうお店。
学生時代、友達と怪しげなマッサージ店が入っているビルのエレベーターに乗り込み、
「一回降りてみようぜ」とマッサージ店のフロアボタンを押し、廊下で様子を見て帰ろう思ったら扉開いてそのままお店で虚をつかれたあの日を思い出す。
もう今やそんなことで驚かない。
大人になった。
時間を潰しに喫茶店に入るようにもなりました大城先生。

そうしてお店の敷居を跨ぐことに成功した俺だが、ここで違和感を覚える。
人がいない。
ただ電気は点いているため営業はしてる雰囲気。

店頭の美味しそうなケーキを閉じ込めたショーケースを通り越し、
お会計処を越え奥に進む。
小学生の頃初めてバイオハザードをプレイした時の様な慎重さ。
側から見りゃかなり怪しい。

突き当たり、左右にスペースが展開されている。
左はカウンターとテーブル席、右はテーブル席オンリー。
人を探しキョロキョロしてたところに右手奥から「お好きな席どうぞー。」とマスター。
いたのか、マスター。

「あ、ああ、はい。」とスマートに返事をし右フロアの壁側2名席のソファに腰掛ける。
しばらく店内を見渡す。

所謂、純喫茶。
純喫茶をコンセプトにしてるわけではなく昔からある感じ。
たまらない。
おしゃれな今時カフェも好きなのだけど、
「え、この店いつからあんの?」みたいな喫茶店の方が愛しい。
居心地がいい。
なにより、すごく人気ってわけでもなかったりするから人が少ない。
落ち着いてぼーっといられる。

壁にはよくわからないヘタウマの類の絵が飾られている。
変な絵。
こういうのが○万とかで売られてたりすんだよな。

テーブルには蓋が閉まらない程角砂糖を詰められたカップ。

少ししてマスターがメニューと水を持ってきた。
しかもご丁寧に隣の2名テーブルをこっちと合体してくれた。
ありがてえ。
「あと一つテーブルあった方がいいでしょ?」という押し付けがましい感じもなく。
良い、もう好き。マスター。一生ついていくぜ。

しかもしかも、グラスが丸の筒状ではなく楕円形な筒状になっていて
細かいデザインが入っている。
そしてかなり薄い。
こんな繊細なグラス、家にあったら一週間と経たずに割っている。
祖父母の家の棚にこんなんあったわ。
その棚のグラスはいつ使うの?みたいな。
多分あれ実用とかじゃなく観賞用だったんだなと今知る。


渡されたメニューを眺めながらどうしようか悩む。
まずは一番甘そうなものは、と
チョコレートミルク珈琲。
ふむ、アリ寄りのアリ。もう絶対にハズレない。

がしかし、今日の俺は違った。

珈琲を頼んでみたくなった。
お店の雰囲気に押された。
雰囲気に流されやすい男、金城。

珈琲を頼むと決めたら次はどの珈琲を頼むかだ。
ブレンド珈琲、壹眞ブレンド
この二つで悩む。
おそらくこの二つを飲み比べてもそこまで違いもわからんだろう。
ただ、違いがわかるようになったらなんか良いなというふわっとした理由でブレンドなるものを頼んでみようと思った。

っていうかブレンド珈琲と壹眞ブレンドって何が違うの。
同じブレンドでも味が違うというのか、こざかしい。
壹眞コーヒーにしよう。


しばらく待ち、運ばれて来た壹眞コーヒー。
こじんまりとした白いコーヒーカップに受け皿。
真っ黒な液体が入っていて微かに湯気が立っている。
まるで深淵をのぞいてるよう。
深淵をのぞく時、深淵ズもまたこちらをのぞいている。

コーヒーとカップの境目に泡が立っている。
時間が経つたびに泡が一粒一粒割れて無くなっていく様を見てぼーっとする。
ん〜、とても良い時間。

この仕事があるなら週2で3時間ずつ入れたい。
コーヒーの縁についてる泡が溶けていく様子を見つめる仕事。
どのように利益が生まれてるとかは知らん。

カップを持ってみて鼻の近くに寄せ香りを嗅いだりする。
ん〜、とても良い。とても良いコーヒーの香りがする。(馬鹿)


「いや良い加減飲めや」ってツッコミが入りそうな頃合い。
飲んでみる。実食。

まぁ、苦い。
でもちょっと大人になったようでそっちの方が少し上回る。
なるほどね、壹眞ブレンド。
いいじゃん、壹眞。やるじゃん、壹眞。

酸味とか、苦味とか、愛とか、夢とか、希望とか
わからん。

けど気に入った居心地のいいお店で小さな成長を遂げたこの時間は、
何事にも代え難い。
満たされている気がする。

しばらくコーヒーを眺めたり店内を観察したり机上のコーヒーを飲んだり、飲まなかったり。
頬杖ついて物思いに耽ったり。

沈黙が心地よかったが、そんな時間も束の間。
仕事終わりの会社員3名様が来店。
続け様に家族連れ3名様。父、母、娘の様子。
俺の隣の4名席に着座。
ちなみに娘さんが20代前半くらいに見えた。
このくらいの歳になっても家族でこういう珈琲店に来るのって、いいな。
とても良い家庭環境なんだろうなと予想がつく。

静寂の心地よさは無くなったけど、これはこれであり。

時間の許す限り居たかったが許されなさそうなため退店を決意。
絵手洗いを拝借し、戻り様にオブジェを楽しみ、マスターに会計を依頼。
お金と感謝を払いお店を後にした。


帰る時AirPods忘れて取りに帰ったら隣の席にいた家族連れが
「あぁ、よかった。ドキドキしてました。」
って言って安堵の笑いがあって少しほっこりした。


ちなみに雰囲気に絆されたけど、
コーヒー1杯1,250円。




たっっっっっっっっっっっっっっっっか




でもまたいく。
ありがとう壹眞。銀座。


fin.


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