短文バトル15「本の読み方」

 「自分の主観・意見は置き、筆者の主張を理解しなさい」
 国語・長文読解の受験対策の基礎を、40歳になる今でも心掛けている
 先日直木賞を受賞した馳星周作品との出合いがあったからだ。大嫌いな作家の作品を、大好きになった経験――

 サッカーの2002年日韓ワールドカップで、日本代表は初めて決勝トーナメントに進出した。私は、代表監督のフィリップ・トゥルシエが大好きだった。

 たまたま行ったトークショーで、トゥルシエは熱弁。基本的なことも懇切・丁寧に。
「日本代表にキャプテンはいらない。私は最初探したが、間違っていた。日本人は、命令されなくても役割をきちんと果たす。全員がキャプテンだ。日本代表のキャプテンは形式的なもの。コイントスさえできればいいんだ」

「中田英寿と中村俊輔、2人とも素晴らしい才能を持った選手だ。だが、大事なのは日本代表として勝つこと。2人とチームなら、間違いなくチームが優先だ」
「日本人サポーターにサッカーを教える!!」という熱意を感じた。予定では2時間だったのに、4時間に及んだ。私は、心をつかまれた。

 結果を残しながら、マスコミはトゥルシエに手厳しかった。予選リーグを勝ち上がったことよりも、ベスト16で敗れたことへの批判が上回っていた。 中でも、馳はほぼ全否定に見えた。

「日本代表を導いた恩人に、何てことを言うのだ」「作家?サッカーの専門家でもないくせに」私は憤った。
 なぜか「そこまで偉そうなら作品を読んでみよう。つまらなかったら、バカにしてやろう」と思った。

 馳のデビュー作『不夜城』を購入し、読んでみた
 すぐに夢中になり、あっという間に読み終わった。
「おもしろい」
 以後、馳の作品を次々に読んだ。新作発売の際には、紀伊国屋書店でのサイン会に行った。
 文体の影響まで受けた。完全にはまっていた。

 ちなみに、似たパターンで、作品も全く受け付けなかった作家もいる。

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