パコ・アルカセル(現ドルトムント/当時バレンシアB、U-19スペイン代表) 2010年実施インタビュー再掲
長く一つのクラブ、一人の選手を見続ける、見守ることで生まれる物語と愛着。
バレンシアCFのカンテラーノとして、新たなバンディエーラとして、スペインA代表のエース定着も果たしつつあったパコ・アルカセルがFCバルセロナへ移籍したのが2016年夏でした。
全てのタイトルを狙う常勝クラブへの移籍と同時に、「バンキージョ(ベンチ)」要員となることを受け入れて臨んだパコのバルサでの挑戦は2年で幕を閉じ、今季新たな挑戦はドイツの名門ボルシア・ドルトムントへと移ります。
パコの新たな門出を応援すべく、今からもう8年前になる、2010年10月27日に配信をした「メルマガでしか書けないサッカーの話」通巻第13号に掲載したパコ・アルカセルのインタビューを一部編集の上で転載します。
――今回はチーム練習がオフ、雨天、右手首負傷という状況の中、取材に応じてくれてありがとうございます。日本メディア向けのインタビューは初めてなのでは?
「はい。日本どころか、スペイン国外のメディアから取材されるのも初めてです。(ハニカミながら)そう考えると若干緊張しますね……(笑)」
――選手としての君のプロフィールを簡単に説明してもらえますか?
「3歳の時にサッカーを始めました。その後、地元のトレントやモンテシオンといった4つのチームでプレーして、12歳の時にバレンシアのインファンティルBに入団。それ以後はずっとバレンシアのカンテラチームでプレーしています」
――小さな頃からバレンシアの選手になることをイメージしていましたか?
「イメージしていたなんてとんでもないです。ただ、毎晩バレンシアでプレーすることを夢見ていたのは事実です。今は、バレンシアのカンテラですごく多くのことを学び、吸収していますし、いつかトップチームでプレーすることを目標にしています」
――小さい頃からフォワードでプレーしているのですか?
「はい、これまでずっとそうですね。ここ最近、トップ下のようなポジションでプレーすることもありますが、基本的にはフォワード出場が多いです。ただ、ポジションに対するこだわりはありません。監督に置かれるポジションで一生懸命プレーします。僕が望むことはプレーすることですから、ポジションなんて関係ありません」
――子供の頃のアイドル選手は?
「子供の頃ではないですが、バレンシアでプレーし始めたころからダビド・ビジャ(現NYシティFC/当時バルセロナ)が目標です。彼の決定力はすさまじいものがあります。打ったシュートはほとんどゴールになりますから、ああいう選手になりたいです」
――ビジャがバレンシア在籍時代、彼と話すこと、あるいは彼からアドバイスを受けることも多かったのでしょうか?
「個人的に話す機会はそれほどありませんでしたが、彼のプレーやオフザボールの動きは参考にしていました」
――今の発言から推測すると、君は勉強熱心で、家にいる時もかなりサッカーの試合を観ているのでは?
「はい、かなり観ていますよ。バレンシアのトップチームの試合はもちろん全てチェックしていますし、海外のサッカーも出来る限り観るようにしています」
――スペイン国外で好きなリーグ、チーム、選手は?
「プレミアリーグが好きで、よくマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーの試合を観ています。4-4-2のシステムを用いて、2トップに素早くボールを入れていく典型的なプレミアサッカーが好きですね。選手でいうと、ルーニーです。メスタージャで彼のプレーを見ることができなかったのは残念でした」
――今夏はトップチームの合宿に呼ばれました。現時点での君の目標は?
「まずは毎日少しでも成長を続けることです。次に、トップチームのメンバーに入り、そこで出来るだけ長いシーズンプレーすることを考えています」
――落ち着いていますね。「一日でも早くトップチームの一員になりたい」という願望はないのですか?
「願望はありますが、焦りはありません。トップチームがどういう場所で、どういうレベルであるのか理解していますし、そのために何が必要かもわかっています。僕はまだそこで継続的にプレーできるレベルではありませんし、今はBチームで毎日成長を続けていかなければいけません。まだまだやるべきこと、学ぶべきことがあります」
――ただ、君くらいの選手になれば、バレンシアBが属する3部(スペイン4部)は少々レベルが低いのではないかと思うのですが?
「それはわかりませんが、4部のサッカーはフィジカル重視で、つないでしっかりサッカーをするようなチームは少ないです。選手もベテランが多い。バレンシアBが目指すサッカーや抱える選手の質、平均年齢からして、最低でも3部が相応しいとは思いますが、逆にそれを良いモチベーションとして3部昇格に向けて戦っていかなければいけません」
――日本でもバレンシアBの試合や結果を気にしている人がいます。ただ、彼らはスタンド観戦できるわけでも、テレビ放映があるわけでもないので、実際にバレンシアBがどういうサッカーをするのか詳しくわかりません。君の口から、バレンシアBがどういうサッカーをしているのか説明して下さい。
「バレンシアBにはボールタッチに優れた選手が多く、目指すのはボールを大切にするパスサッカーです。システムは基本的には4-2-3-1で、僕はトップでプレーしています。ただ、4部のフィジカルサッカーに対抗すべく強固なディフェンスもそろっていて、選手の年齢は19から20歳前後と若い。去年ユースで一緒にやっていた選手も多いですから、チームワークは良いですよ」
――トップ下には同じU-19スペイン代表のイスコ(現レアル・マドリー)がいます。
「彼は今のバレンシアのカンテラで最も才能ある選手と言われていますし、僕もそう思っています。彼とプレーすることは光栄なことですし、彼のような選手がチームにいることでゴールや決定機が近づきます」
――君はもうプロ契約を結んでいるのですか?
「はい。僕だけではなく、4部でプレーするためにはプロ契約が必要ですし、他の選手もプロ契約を持っているはずです」
――バレンシア以外のクラブでプレーすることは考えていないのでしょうね?
「全く考えていません。僕の頭にはバレンシアしかありませんから。バレンシアには家族もいますし、僕はここで育ちました。ただ、今僕が考えるべきことは将来のことではなく、日々のこと、バレンシアBでの今季のことです。ここで良いプレーをして結果を出さなければ、将来などありませんから」
――今季のバレンシアのFWは、ロベルト・ソルダード(現フェネルバフチェ)、アリツ・アドゥリス(現アトレティック・ビルバオ)の二人のみ。コパ・デルレイの試合では、招集や公式戦デビューもあるのではないかと期待しています。
「それはどうでしょう。今はそういったことは考えていません。まずは今の環境で最大限良いプレーを続けていくことだと思います。トップチームで活躍するためには、まだまだ足りないものが多いですから」
――今季のトップチームは開幕から調子が良いですが、カンテラの選手として今季のバレンシアをどう見ていますか?
「とても良いチームだと思います。ビジャ、シルバが抜けた直後は心配しましたが、そこで世界は終わらない、バレンシアが死んだわけではないとも理解していました。彼らが抜けた後にクラブは良い補強をして、ソルダード、アドゥリス、リカルド・コスタといった代表クラスの選手がやってきました。今週末(16日)はバルセロナとの対戦がありますし、勝ち点3が奪えるようなら単に調子の問題ではなく、真に競争力の高いチームということが証明できるはずです。(※バレンシアは1-2で敗戦)」
――君は、今季のリーガ・エスパニョーラをどう見ていますか? 日本でも「二強のリーグ」と呼ばれることが多く、バルセロナ、レアル・マドリードとそれ以外のチームとの実力差は大きいと感じます。
「このレベルの戦いになれば、どんなチームの存在も消すことはできません。バレンシアの調子が良いからといって、最下位のチームに勝てる保証はどこにもありません。サッカーにおいては、常に全力で目の前の敵に集中しなければいけません」
――話をスペイン代表に変えますが、まずは今夏スペインが成し遂げたワールドカップ優勝についての感想を聞かせて下さい。
「とにかく嬉しかったです。開幕前からスペインが優勝し、代表のユニフォームに星マークが入ることを願っていましたから。ちなみに、ワールドカップは全試合観ました。その意味でも達成感がありますね(笑)」
――君は、下部カテゴリーのスペイン代表でコンスタントにプレーしていますが、いつかフル代表でワールドカップの舞台に立つことも夢見ていますよね?
「もちろんです! 僕にとって、僕の家族にとっての大きな夢の一つです。もしその夢を実現することができればどういう気持ちになるんでしょうね? 想像するだけでもワクワクします。ただ何度も繰り返しますが、今僕がやるべきは日々の練習であり、毎週末の公式戦です。そこを疎かにしてはどんなことも実現しませんから」
――今夏、日本(静岡)で行われたSBSカップにケガのため参加できなかったのは残念でした。日本で君のプレーを待っていた人も多いと思います。
「僕を待ってくれていた人がいるんですか?」
――もちろんです。イスコから話を聞かなかったのですか? 空港まで出迎えに行ったバレンシアニスタがいたんですよ。試合には多くのファンが観戦に訪れ、試合後はイスコフィーバーが起こっていたようです(笑)。君が来日していたら、イスコと共に大歓迎を受けたと思います。
「(満面の笑みで)本当ですか! それは知りませんでした。個人的にも1学年上の代表に飛び級で招集してもらえたのは嬉しいことでしたので、日本に行きたかったです。ただ、直前にハムストリングの肉離れを負って、ドクターから招集辞退するよう言われたので仕方がありませんでした。今回のケースに関しては、運がなかったですね」
――今、U-19スペイン代表に選ばれているということは、すでに出場権を獲得しているU-20ワールドカップ出場の可能性もあるということですね?
「まだ1年ありますから、そこまでは考えていません。その時に代表監督が僕を招集してくれるのであれば、参加できるでしょう。今は、バレンシアBが3部に昇格するために出来る限りの試合に出場し、勝利のために貢献するまでです」
――しかし、君の受け答えはトップチームにいる選手みたいに落ち着いていますね? なぜ17歳でそこまで冷静なメディア対応ができるのですか?
「これまでに結構な数のインタビューを経験していますから。インタビューを受け始めた頃は、ナーバスになって上手く話すことができませんでした。慣れるようになると、マイクを向けられても緊張せずに話せるようになってきました。今では、メディア対応している時でも他人と普通の会話をするような感覚で話せるようになっています」
――スペインの若手選手はみなしっかりとメディア対応できる印象があるのですが、例えば家族や代理人が受け答えについてアドバイスしたり、クラブがメディア対応についてのレクチャーをしたりといったことはあるのですか?
「時々、家族や代理人からアドバイスを受けることはありますが、クラブから特別なことは言われません。一番大事なのは慣れだと思います。場数を踏むことですね。あとは小さい頃から、プロ選手がどういう言動をするのかテレビや新聞で見聞きしているのが大きいと思います」
――周りの人間からは具体的にどういったアドバイスを受けたのですか?
「随分前になりますが、家族から『マイクを意識することなく、インタビュアーと普通の会話をしていると思いなさい。マイクやレコーダーの存在は忘れなさい』というアドバイスをもらいました。それ以来、緊張することなく普通に会話できるようになりました」
――メディア対応は好きですか?
「サッカーのテーマについて話すのであれば好きですよ」
――今後は間違いなくインタビューを受ける機会も多くなるでしょう。
「この調子、レベルでプレーできればそうなるでしょうね。もし上のレベルに到達できなければ、マスコミも僕のことなんて忘れるでしょうから、そうならないよう頑張ります(笑)」
――代理人は、ソルダード、アルベルダらと同じトルドラ兄弟ですね。彼らと代理人契約を結んだ経緯を教えて下さい。
「インファンティルA(13歳)でのビジャレアル戦で、僕のプレーを気に入ってくれたようで、その試合の直後に連絡が来ました。その後、家族と共に彼らと話す機会を持って、僕たちも好印象を持ちました。とても熱心で節度ある代理人だというのがわかりました。しかも、すぐに契約という話にはならず、その後も継続的に付き合うようになって徐々に信頼関係を深めていき、それなりの年齢になってから契約を結びました」
――今日話してみて、同じように好感を持った点が、君の謙虚さ、地に足をつけた態度です。ここまでの発言を聞いても、目の前のことに集中するよう、あまり先のことを考えすぎないようにしていますよね?
「鼻持ちならない人間は嫌いですし、そういう人間にはなりたくありません。自分の力を信じることは大切ですが、過信になってはいけませんし、謙虚さを忘れては選手としてのみならず、人間として成長できません。僕は一日一日、一瞬一瞬を大切に生きていきたいと考えていますし、サッカー界で生き残っていくためにはそういう考えを持っていなければいけません」
――ピッチを離れた時の君は、どのような青年なのですか?
「普通の17歳ですよ。特別なことは何もありません。やらなければいけない勉強はしていますし、家族と一緒に住んでいますからその時間も大切にしています。友達と遊ぶ時間も大切にしています。自分が特別だと思った瞬間から勘違いが起こりますから、精神的な安定にも気を遣っています」
――ピッチ外での趣味は何ですか?
「家族や友達と過ごすことが好きですね。よく友達と映画に行きますし、テニスやパデルもやります」
――テレビゲームはやらないのですか?
「あまり好きではありません。(ギブスをはめた右手を出しながら)加えて今はこんな状況ですから、できません(笑)」
――勉強は好きですか?
「好きではないです(苦笑)。でも必要なのはわかっていますし、必要最低限の勉強はしています」
――大学に行く予定は?
「今のところはありません。高等教育があと1年残っていますし、その後はサッカーに集中したいと思います。ただ、英語を勉強するために語学学校には通うつもりです」
――彼女はいるのですか?
「今のところいません。募集中です(笑)」
――選手として成功するためには、プライベートで安定をもたらしてくれるような女性を見つけることも大切です。
「その通りです。サッカーに集中するためにも良い彼女が必要です」
――どういう女性がタイプなのですか?
「誠実で僕のことを愛してくれる人ですね。恥ずかしいので、こういった話はやめましょう(苦笑)」
――了解です。今夏のバカンスではどこか旅行に行ったのですか?
「行っていません。オフはわずか1週間でしたから、地元トレントに残ってゆっくりしました」
――1週間だけですか!?
「はい。フベニールのリーグ戦が終了してから、チャンピオンズカップ、コパ・デルレイといったカップ戦があったので本当に長いシーズンでした。その後も大会や練習があり、そうこうしているうちにトップのプレシーズンが始まり招集されました」
――近年のバレンシアは、カンテラから多くの選手を輩出しています。今カンテラにいる君たちカンテラーノにとって大きなモチベーションになるのではないですか?
「なりますね。バレンシアのようなビッグクラブ、リーガで首位を走るチームが、カンテラの選手を重用しているということは容易なことではありません。僕のみならず、すでにイスコ、イバン・ルビオ、ジョエルといったカンテラーノがトップチームでプレー、練習参加していますし、それはカンテラでプレーする選手全員に良い刺激になっています」
――今のトップチームでよく話をする選手はいますか?
「基本的にトップチームの選手と接する機会はそれほどないのですが、今夏に練習参加した時には、ソルダード、ティノ・コスタといった先輩からよく声をかけてもらいました」
――君は良い選手になるためには、良い人間になる必要があると考えていますか?
「はい。トップレベルに到達する選手になるためには、謙虚かつハードワーカーでなければいけません。そう考えると、良い選手になるためには良い人間でなければいけないと思います」
――ウナイ・エメリ監督から声をかけられたことがあると思いますが、どういう話をしてもらいましたか?
「個人的な内容ではなく、試合に使ってもらう前にどういうプレーをすべきかを話してもらった程度です。ただ、『プレッシャーを感じることなく、普段通りのプレーをしてこい』と言ってもらえたことで緊張がほぐれました」
――現代サッカーをどう見ていますか?
「現代サッカーはテクニックや戦術以上に、フィジカルの進化やそのスピードが速くなっていると見ています。プレミアリーグが良い例で、彼らのサッカーはフィジカル的なスピードや強さをベースに、よりゴールに直結したものとなっています」
――ただし、ここ数年はバルセロナやスペイン代表のパスサッカーが結果を出し、モダンです。
「それは間違いない事実ですが、僕の趣向としてはより速く、より強くゴールに向かっていくサッカーに惹かれます。プレミアリーグを見ていても、そういうサッカーが世界的主流になると考えています。スペイン代表やバルセロナのようなサッカーを実践するためには、それだけの選手を抱える必要がありますから、簡単に真似できるものではありません。パスサッカーも良いですが、無駄なパスが多いのも事実ですし、フォワードとしてはできるだけ早いタイミングでパスが欲しいですね」
――最後に日本のファンにメッセージを。
「今日のインタビューや皆さんからの質問を通じて、また日本語ファンサイトで僕のページがあることを実際に確認して、皆さんから応援してもらっていることがよくわかりました。本当にありがとうございます。今夏、日本に行けなかったことは残念に思いますが、次に来日できるチャンスがあるなら、例えケガをしていようが行きます!(笑)日本で僕のプレーを気にしている人がいるとのことですが、心配しないで下さい。必ず日本で放送があるレベルの選手になって、毎週見てもらえるようになりますから。今後も応援よろしくお願いします」」
※全写真クレジット「(c) Alberto Iranzo」
【プロフィール】パコ・アルカセル /Francisco Alcácer García
1993年8月30日生まれ。バレンシア州トレント出身。インタビュー当時17歳。12歳でバレンシアCFに入団し、以後バレンシアCFのカンテラで順調に成長を続けトップチームに定着したストライカー。選手としての特長は、得点嗅覚と高い決定力。当時はバレンシアB(テルセーラ・ディビシオン/スペイン4部)に所属するも、夏はトップチームのプレシーズンに参加。合宿中の親善試合(アル・ヒラル戦)に出場している。下部カテゴリーのスペイン代表にも毎世代招集されており、現在は1つ上の世代で作るU-19スペイン代表に選出されている。今年9月の練習試合では、トップチームで初ゴールをあげるなど、イスコと共に公式戦デビューとトップチームが期待されていた「バレンシアCFの至宝」。インタビューを実施した後の10-11シーズンのコパ・デルレイの試合でトップチームデビューを果たすと、12年1月のレアル・ソシエダ戦でラ・リーガ(リーグ戦)デビュー。12-13シーズンにはヘタフェにローン移籍するも、13-14シーズンからはバレンシアCFの主力として定着。16-17シーズンからはFCバルセロナへ移籍し、今夏のドルトムントへの買い取りオプション付きローン移籍が発表された。
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