キミは「それだけは聞かんとってくれ」 を知っているか? | 森田一郎の毎日戯文 #4
人生には「それだけは聞かんとってくれ」という事がある。
昨日嘘に関する投稿をしたが、黙るわけにも嘘をつくわけにもいかず「あじゃぱー」と言ってごまかすしかない状況が、人生にはある。あるんだ。
インターネットがにわかに流行りはじめると、日本語圏に「テキストサイト」なるジャンルが誕生した。まあ当時は画像圧縮技術もイマイチで、音声コーデックの整備も整ってなかったので今思えばほとんどが「テキストサイト」だったのだが。
「テキストサイト」ってなんだったっけ
インターネット黎明期には、ぁゃιぃわーるどからあめぞう、2ちゃんねるへと変遷していった大規模フォーラムがあり、今では即摘発されそうなアングラサイト(当時でも違法な情報はやりとりされていたが)もあり、いろんな危ない科学的ノウハウを発信する者も居た(Dr.Stone見てます)。いずれもテキストを中心にした媒体には違いないが、当時の「テキストサイト」の文脈は、「情報ではなく文章自体で楽しませる文芸サイト」というものだったように思う。
そういう意味では視聴者投稿型の性質もあった怪談サイト「あっちの世界ゾーン(いたこ28号氏主催)」なども広義のテキストサイトであったように思うし、開設から22年を経た今なお現役の「ろじっくぱらだいす」やトンチキロボ先行者を取り上げて一躍有名になった「侍魂」などは王道であろう。ほかにも32才のVTuberになって帰ってきた「ちゆ12歳」など、ニュースと文芸を融合したエポックメイキングなサイトもある。
本当はこの前後にももっと色々あって戦争かプロレスかわからない状態になったり、ネットウォッチや炎上まとめ系の端緒もこのへんにあるのだが詳しくは佐倉葉ウェブ文化研究室様の「テキストサイトの歴史」を参照されたい。(ほんとうにめちゃめちゃ詳しくて正確)
現在ではインターネット上での個人発信はもちろん、マネタイズやマーケティングまで非常に容易になりこうして私もnoteで戯文をズリズリッと書いてザバッと投稿出来る便利なよのなかになっているのだが、その動機の根源にあるのが「それだけは聞かんとってくれ(以下「それきか」)」というテキストサイトだ。
私の子供心を掴んで放さなかった駄目のひと、Keith中村
「それきか」は、「駄目」を自称するKeith中村氏によるエッセイが中心のサイトだった。フォントいじりなどを一切用いず、なのに絶妙な起伏と流れを実現した、まるで落語を書き起こしたような軽妙な語り口が魅力だった。
「プログラムをお仕事にしているひとなのかな」「賢そうだな」「なのに駄目なんだな」と、小学校高学年か中学生そこらの私は夢中で読み漁ったものだ。子供でもにわかりやすい「ウィットに富んだ笑い」だったのである。
そんなこんなで同じようなテキストサイトを目指したり、Keith中村氏を気取ってみたりもしたがほんとうのだめのばかでは再現出来ない文体だったので大いに恥をかいたりスベったりもした。知性がなければ与太郎は体現出来ないのだ。
だっただった、と繰り返しているが、というのもこの間消えてしまったのである。サイトの存在したhttp://www.sorekika.com/を訪れるとドメインを解決出来ない旨が表示されるので、サーバ自体はホスティングされているのかもしれないがドメインは無効になっている事がわかる。Internet Archiveでは閲覧出来るので、ご興味のある読者は是非一読してみて頂きたい。
Keith中村氏、見ていますか、あの時の子供です。ぼくはあなたの駄目に憧れてこんなに大きくなりました。駄目ってこういうことだったんですね。ぼくも立派な駄目になれたでしょうか。喋ったこともありませんが。つきましては私を駄目にされた責任を八つ当たり的に貴殿に問うと共に次なる駄目を育成する事をここに誓いつつご健勝をお祈り申し上げます。心から。
追記: 同日16:27、「それきか」Internet Archiveへのリンクを追加した。
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