あの日、君は僕の手をつよく握ったね
GWですね。みなさんいかがお過ごしですか。
連休中はですね。イベントごとが多くてですね。
富士急とか、ディズニーとかディズニーとか富士急とか。
その周辺のイベント会場とか、周辺のホテルでの仕事が多かったりします。
行楽シーズン、そんな場所に黒づくめのネクラ男が馳せ参じるわけで。
前にカップル。後ろにカップルって感じで。なんか、こう、人権すら危うい状況での出勤を余儀なくされるわけ。
モノレールの中でのミッキーの声に泣けてくる。「ハハッッ!」じゃねっつーの。こちとら仕事だっつーの。
ってことでね。そんなこんなで、思い出した昔の話を書きます。
19歳の時。付き合いたてだった女の子と富士急の巨大お化け屋敷に行ったことがある。
彼女は看護学生で、廃病院をモチーフにしている、その恐怖の巨大迷路に俺を誘った。
いちろーも怖がりではあるが、そこは惚れた女の頼み。快諾だ。
ひとりだったら辛いことも、ふたりでやると楽しかったりして。
そういう風に過ごせる彼女を俺は求めていた。ふたりの絆を確かめるのにこれ以上の舞台はない。
いちろーはまんざらでもない表情を浮かべつつ、迷宮内に潜入。
さっそく一体目のゾンビが出現する。
キャー、なんつっちゃってさ。
彼女が俺の手首に絡みついてくるわけ。
キャー、って……言っちゃってね。
俺の手首に……手ェ首がぁぁあぁぁアダダダァァァアアアダァァ!!!
俺の手首に、なんか、ブラジリアン柔術みたいな技がかかってる。つよいつよい。
その技使えばゾンビ撃退できんじゃね?つよいつよいってばつよい。
でも思ったの。ここで俺の人生は100㌫使い果たされたな、って。幸せだな、ってえェェェェ゛エエええェエエエエエェ゛!!!(二体目)
この日を境に、1日1日の進むペースがなんとなく早いし、うん、たぶん間違いないと思ォォオォォオアダダァァァァダダッッ!!!(三体目)
んでさ、ここでさ、男だから。俺は。勇気出して。
「怖いなら手ェつなごっかぁ~」なんて言ったわけ。
俺の手首、紫色になってきてるし。
そんで手ェ握ったわけですよ。そしたらさ。やっぱり、その握力たるや、女子のソレじゃないわけ。
たとえ女子だったとしても、たぶん何らかの球技の日本代表選手。ボール握る系の選抜投手。
俺の小指、軽くイっちまってる。並みの戦士ならとっくに思考停止してるくらいの激痛。
なんで俺の手をそんなに反対に反り返してくるん?
なんで一緒にお化け屋敷に入ってる男子に護身術みたいな手の握り方するん?
もうちょっと、ロマンチックな想定してた。女子の本気の握力舐めてた。
このへんでね、なんで俺、わざわざこんな真っ暗闇で、激痛に耐えてるのかわからなくなってきたんですよ。
なんでこんな闇の中で、恐怖の声(彼女)と激痛の声(いちろー)で見ず知らずのゾンビたちに一目置かれなきゃならんのか。
そんでね、さらになんだけど。迷宮の中程でね、彼女が動かなくなりました。
歩きたくないと。角を曲がりたくないと。そこにいるんだと。
そりゃいるだろう。お化け屋敷なんだから。なんで入った。イヤイヤ期かと。
ここ仮にも病院なんだけど。どうした看護師の卵。
もうね。諦めて瞬速のノールックで団長の恐ろしく速い手刀を打とうかと思った。
そんで彼女を担いで出ようかな、と思った、その時。
でたーーーっ!!!
つって。
ギャアアアアアアアアァァァ!!(彼女・恐怖)
つって。
オアァァ゛ァァァア゛ああァァァ !!(いちろー・激痛)
なんつって。
その日以来、俺の着ていたジャージはヨレにヨレ、チャックが故障し、いつも同じところで引っかかるようになった。
脅かすために出てきたゾンビが、俺の服のはだけ方を心配する目つきになっていた。
ゾンビに気遣われた人類、たぶん俺が初めて。
こうして俺の小指は折れた。全治1ヶ月。
彼女には最終的に「いちろっぴとの将来が見えない」と言われ、フラれることになってしまう。
これが本当の骨折り損のくたびれ儲け、ってやつだ。
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