見知らぬ他人の家に行きたい


#一度は行きたいあの場所

今日の午前中、アパート1階の角部屋105は掃除をしていたらしく室内が良く見えた。濃い黄緑色のカーペットとシンプルな木目の机が落ち着いた感じを醸す。使い捨てでないゴム手袋をつけて掃除していたからカビ取りでもやっていたのだろうか?RCCラジオを結構な音量でかけていたので掃除もこなれた調子で定期的にやっているに違いない。男子大学生にしてはしっかりしてるなぁなんて思った。103はよく夜になると窓を開けて麻雀をしているのを見かけた。105とは打って変わってごちゃごちゃとしたまり場といった印象を受ける。大学生らしいといえば大学生らしい。低い麻雀の台は部屋の中央にいつもあって、お店で見かけるような円柱のタバコの吸い殻入れが玄関にある。酒の缶のはいった大きなゴミ袋はもはやその部屋の個性的なインテリアであった。103、105両者ともに違った魅力のある部屋である。他の部屋は残念ながらカーテンを開けているところを見たことがないのでよくわからない。

これを読んで分かると思うが私は人の家を外からチラッと拝見するのが好きである。家主の思いや生活を勝手に妄想して楽しむ。生活音や香りがさらにそれを加速させる。決してヘンタイ的な趣味ではない。ただ気になる、興味があるだけである。あなたもいい感じの家を見つけるとその中身や生活スタイルを想像するだろう?私はそれを全世帯を対象に行っているだけである。

見知らぬ他人の家の中というのはテレビに映ったりしない限り基本的にパーソナルな非公開情報で、一つの家につきその雰囲気を味わえるのは限られた関係者だけである。丁度私の部屋の感じを知る人が20人もいないように。各家々にその人だけの生活があって日常がある。どんな怖い人やイライラしている人も家の中ではリラックスしている時間があるんだろうなとか思ってみたりする。頭の中で妄想するのは簡単だが実際に見てみるのはとてつもなく困難だ。人の家の日常を伺い知ることはたった30センチの壁に阻まれたとてつもなく非日常的な行為なのだ。

「よそはよそ、うちはうち」という言葉をよく言われた。昔から他人の日常を知ることはおよそ意味のない行為だったのだと思われる。しかし私はどうしても気になった。犬を室内で飼っている子の家、新しくできた高層マンションに越してきた子の家、学校の近くにあってよくピンポンダッシュの的になる家、会社の2階部分にある家。みんなどういう視点で生きてるんだろうって気にになった。よく遊びに行った家もあるが大抵行く部屋や時間帯は決まっているので日常なんて1割も掴めなかった。

つまるところ私にとって一度は行きたいあの場所とは見ず知らずのあなたの家である。そして私はあなたの家であなたの日常を一定期間ロールプレイングする。その間あなたには私の家で私の日常を生きてもらう。他の人の日常を生きることで人生とは何なのか考えなおす良い機会になると思う。経験として他人の人生を生きることがどれほど役立つことかは分からない。なんの意味もなく終わるかもしれない。しかしそれはそれで唯一無二の自分の人生を頑張る活力になるかもしれない。すべては未知の世界。他人の家で他人の日常を生きてみたい、そんな人はいないだろうか?

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所