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「読書のすゝめ」という話

「読書のすゝめ」という話

「本を読みなさい」と言われなかった人はいないでしょう。

今からでも読んでみますか?

少し考えてみましょう。

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ようこそ。門松一里です。静かに書いています。

いつもは、
「あまり一生懸命になるな」という話
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n081dd28c9a6c
とか、
「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n416e39d84b94
を書いていますが、本当はノワール作家です。

という話(ik)を連載しています。

こちらは調査資料(エビデンス)を使った「思考の遊び」――エンタテインメント(娯楽)作品です。※虚構も少なからず入っています。

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『「読書のすゝめ」という話』という題は、福澤諭吉の『学問のすゝめ』(學問ノスヽメ)の模倣です。

ひらがなの「ゝ」やカタカナの「ヽ」は、同じ文字を重ねるときに使う踊り字(おどりじ)という記号です。「時々」の「々」もその一つです。

どうしてそんなことを言うのかというと、読書をするにしても本には決まり事があるからです。

一つ引用してみましょう。

書くことは、生き方の問題である。
――田中泰延

田中泰延『読みたいことを、書けばいい。――人生が変わるシンプルな文章術』(ダイヤモンド社、2019年第3刷)P248
https://amazon.co.jp/dp/447810722X/ref=cm_sw_r_tw_dp_V355407B8S6D0Z4GJ2AT

まずは著者名です。次に題名。括弧のなかに出版社出版年、そして。最後に掲載ページです。

著者名は、本名の他に筆名(ペンネーム)があります。推理作家の江戸川乱歩(江戶川亂步)は、作家のエドガー・アラン・ポーから名付けられています。ポーは小説が有名ですが『アナベル・リー』という美しい詩も残しています。

題名は、出版社が勝手に変えてしまうこともあります。『ハリー・ポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher's Stone)も、米国では“Harry Potter and the Sorcerer's Stone”になってしまいました。

賢者の石(the Philosopher's Stone)は錬金術の専門用語です。賢者(Philosopher)は特別な人で、一般的な魔法使いあるいは魔術師である“Sorcerer”ではありません。どちらかというと、イエス・キリストが誕生したときの東方の三賢人(the Three Magi)のほうが近いです。

洋画の邦題に比べれば些細な問題かもしれませんが、それでは話の内容すら変わってしまいます。

出版社出版年は、そのままの意味です。

というのは、活版印刷の名残りのような言葉です。初版と二版では間違いを修正しています。もっとも、最近では二回目の二刷の時点で細かな誤字脱字を修正しているようです。

最後の掲載ページで後から誰でも確認することができます。

こうしたことを何千何万何億回重ねたものが、文化としての書籍です。

福澤諭吉の『学問のすゝめ』の冒頭を読んでみましょう。

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。

福澤諭吉『学問のすゝめ』

「言えり」とは「そう言われている」という意味ですから、伝聞です。つまり、福澤諭吉が聞いて書いた言葉です。では、誰の言葉かというと、アメリカ合衆国の独立宣言だと言われています。

単純に『学問のすゝめ』という題名だけを考えると「勉強しなさい」――「そのために慶應義塾で学びましょう」という意味になってしまいますが、違います。

民主主義や主権のことを述べて、「独立しなさい」と書いています。実際に読まなくてもいいですが、その内容の通り日本は変わってきました。けれど、それでもまだ至らないところがあるというのが現実です。

歴史小説でしか幕末から明治維新を知らない人もいますが、今の人は読む前の「事前知識」をもっていなかったりします。

たとえば、「万国公法」というものがあります。

万国公法を知らずに司馬遼太郎を読むとかありえないのですが、実際多いです。ロマンだけを求めて読むと死生観が歪みます。

小説ですから、嘘偽り虚構です。

同時代の陸奥宗光の『蹇々録』を読むと、まあ身も蓋もないこと書いています。
(内村鑑三が読んだら気が狂うレベルです。)

当時の日本や周辺諸国、列強を知る意味でも万国公法は知っておかないと話になりません。だからこそ『学問のすゝめ』が読まれた訳です。

たぶん、Wikipediaで万国公法を読んでもあまり分からないかもしれません。それ以前の東アジアの思想を理解している人は少ないですから。

【「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話】リスト
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n416e39d84b94

どうして、これらを無料で公開しているかというと、常識だからです。こうしたことを知っていないと恥をかくからです。
(より言えば、こうしたことを知っていないと私の本は楽しめないからです。)

だいたい1万冊ほど読めば、本の参考文献の半分は読んでいなくても知っているレベルになるでしょう。

漠然とした知識が整列する瞬間まで読み込むことができたなら、人生はより楽しくなりますよ。

なぜなら、読書は作家からの一方的な言葉の羅列ではなく、その思想との対話が主になるからです。ですから、ビジネス本や自己啓発本など、その意思が自己満足のものであるなら、読む必要がないのです。#blackjoke

ビジネス本なんて目次と巻末の参考文献だけ読めばいいです。最前線で使われている技法なら人に教える訳がありませんし、使い古されて確立したからこそ書籍になるのですから。

内藤陳「いいか。大切なのは読んだ本の数じゃねえ。一冊でもいい、そこからどんな大切なことを学びとったかが肝心なんだ」


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