ーーはじまりの思いーー ワコのあるきかた0


ーーもういちど やりなおすのーー

                     桜乃いちよう

 やっぱり、会ってみよう。と思った。
 ワコと話してみよう。と思った。
 一番気になっている、あの日のワコから、最初に会いたい。
 あの日のワコに、ここまで生きてきた私がいったい何ができるのか、試してみたいから。

 いつからそんな気持ちが生まれたかは、定かではないけれど。
 私の中に、たくさんの疑問がわいてきて、収集がつかなくなってしまったの。
 そしてたまらなく、ワコと話したくなってしまった。
 こんなこと、おかしいと思ったのだけれど。

昭和40年代。地方のある町にあった、肢体不自由児施設「ホーム」。ワコは、ここに住んでいた100人の子どもたちの中の一人だった。

 あの日。

無意識のなかで、ワコは何かを諦めたような気がする。
 今の私だからわかることだけれど。
ものごとは毎日流れていって、としつきは過ぎていったけれど、ワコは少しずつ、自分がおとなになっていくことをやめてしまったんだわ。こじつけているかも知れないけれど、そんな気がしてならない。


 子どもの時に、無意識な部分でおとなになることをやめていくなんて、なんてかなしいことを、ワコは選択してしまったのかしら。


 もし、あの日が、ちがう一日だったとしたら。
 ワコはもう少し、人生に積極的になれていったのかしら。


 こんなにあきれるほど時間をかけなくても、物事のしくみがわかるように生きられたのかしら。
 今となっては、わからない。
 
 ワコに会いにいくなんて、叶わないと思っていた。
 昨日までは。

 ……。
 昨日まで、そう思っていたのだけれど。
 叶わないって、諦めることは、よくないのかも知れないって、今日は思い直したの。
 こんなに気になっているのに、試さないで諦めると言うことは、やっぱりよくないことだと思ったの。

 ワコの心には、私、とても責任を感じているのよ。
 それに、私は少しだけ、ものごとがわかってきたのだし。

 だから今日は、ワコに会いにいってみようと心に決めた。
 やっぱり逢って、ワコと話してみようと。
 ワコが本格的にすねて諦めてしまった、あの日に会いに行くわ。
 ワコとちゃんと話せるかどうか、やってみる。


 会いに行くわね。もう決めたの。
 私はワコを徹底的に助けるって、決めたの。
 
 でも、どうやって会いに行くんだろう。
 ワコの居場所がわかるんだろうか。

 いいえ。
 かんたんなことよ。とても簡単なこと。
実は私には、とても簡単なことだったのよ。
 なぜって、ワコは…。

 さあ、会いに、行くわよ。ワコ。

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