『ラーメン』 春風亭いっ休

私はラーメンが好きだ。お金も時間も少ない前座の身なのでそんなに頻繁に食べには行けないが、それでも3日に1回は食べている。東京に越して来てから3年ちょっとになるが、その間に訪れたラーメン屋は200軒以上になる。真のラーメン愛好家は年に7、800杯は食べるというが、さすがにそんな生活習慣病まっしぐらな食生活を送る覚悟はない。お金もない。

ラーメンが好きだという話をすると、大抵「どんなラーメンが好きなの?」と聞かれる。聞いた側は「醤油」とか「塩」とか、せいぜい「家系」「二郎系」などという答えを期待している。
だが私の答えは「淡麗系」だ。ラーメン通以外には耳馴染みのない言葉だと思うが、あっさりして透き通ったスープのラーメンのこと。要するに、いわゆる普通の「醤油ラーメン」や「塩ラーメン」とほぼ同一なのだが、「でも一口に醤油ラーメンと言っても色々あるし、極論すると家系や二郎系だって醤油味ではあるし、でもそれを言い出すと淡麗系だって動物系魚介系とか色々あるし……」とかゴチャゴチャ考えてしまう。ラーメン通はめんどくさいのである。(個人の見解です。)
ただ淡麗系が好きとは言っても、ドロっとしたスープのつけ麺も、油そばも、家系も二郎系も、もう何でも食べる。ラーメンやつけ麺なら全部好きだ。麺に貴賎無しである。

ラーメンが着丼すると、まずはスープを一口味わう。口の中に一気に出汁の味や香りが広がるこの最初の一口こそ、至高の瞬間である。
それから麺を啜る。各々の店が、スープとの相性を考えて、麺の太さや固さを工夫している。そのコンビネーションを存分に楽しむのだ。ちなみにつけ麺の場合はまず麺だけを1本啜る。つけ麺の主役は麺の方だと思うからだ。二郎系の場合はゴチャゴチャ考えずとにかく一目散に食べる。

ラーメンの具材といえば、チャーシュー、メンマ、ナルト、ネギ、味玉、海苔、もやし……などなど。
中でもチャーシューは、麺とスープに並ぶラーメンの顔と言っていいだろう。ほとんどどの店のラーメンにもチャーシューは入っている(麺とスープとネギだけで勝負!という潔さが魅力の"自家製麺 伊藤"のような例外もある。)し、それゆえ店ごとの個性もはっきり表れる。
脂ののったトロッッットロの豚バラチャーシューは最高だ。さっぱりした豚肩ロースや鶏むね肉を、低温調理でレアっぽく仕上げたチャーシューも、食感がよくて好きだ。だが中には、レアを通り越してほとんど生肉のようなものもあって、これはさすがにいただけない。しかも熱いスープに浸かっているうちにどんどん熱が回って風味が損なわれてしまうから注意が必要だ。

チャーシューに次いで好きな具材が、海苔。チャーシューと違って入っていないことも多いが、1枚か2枚入っていると嬉しい。スープにちょっと浸しておいて、それだけを口に入れると、スープの味に海苔の風味が加わって、もうたまらない。

メンマも外せない。これも色々な種類がある。上方落語で使う小拍子ほどの太さがあって、ボリボリと歯ごたえのあるメンマ。穂先メンマと呼ばれる柔らかいメンマ。どれもラーメンのいいアクセントになってくれる。
このメンマ、よく考えると謎の存在である。
チャーシューは豚を煮たものだ。ナルトは魚肉のすり身を蒸すなり茹でるなりして作った練り物だろう。分かりやすい。
メンマはどうか? タケノコっぽいが、食感などが何か違うし、タケノコをどう調理したらこうなるのか想像がつかない。実は、メンマの原料は日本の竹ではないらしい。中国南部や台湾でしか採れない麻竹(マチク)という竹を使う。それを蒸して、発酵させて、乾燥させたのがメンマだ。だから国内で流通しているメンマの99%は輸入品なのだという。(ごく少数だが日本の竹を使ったメンマもあるが、食感はだいぶ違う。)
そんなメンマがラーメンの具の定番になった経緯がよく分からない。
チャーシューは、もともと中国の麺料理によく入っている。ナルトはというと、昔は日本の蕎麦屋でおかめそば(おかめの顔の形に具を並べた蕎麦)等によく使われていたらしい。戦前や戦後すぐには、ラーメンも出す蕎麦屋が多かったらしいので、蕎麦屋にあったナルトがラーメンにも使われるようになったのは納得が行く。ネギや海苔も同じだ。
しかしメンマはどちらにも当てはまらない。中国ではメンマを麺の具材に使う習慣がないらしい。日本の蕎麦屋でもメンマは使わない。となると、わざわざ外地から買い付けないと手に入らないメンマが、当たり前のようにラーメンに入れられるようになった理由が分からないのだ。どなたか知っている方がいたら教えてください。

さて、ここまで好きな具材について書いてきたが、逆に一番どうでもいい具材が……ナルトだ。ナルト好きの方と某忍者漫画の主人公にはたいへん申し訳ないが、本当にどうでもいい。
別に嫌いというわけではない。ただ、ナルトを特別おいしいと思ったことがないし、「この店のナルトは絶品!」なんて話も聞いたことがない。新宿末廣亭の斜向かいにある"くろ渦"のラーメンには、店名どおり黒いナルトが入っているが、別に特段変わった味がするわけでもない。("くろ渦"のラーメン自体はとてもおいしい。)
最近はナルトが入らないラーメンも多いし、もはやナルトにはラーメンのシンボル以上の意味はないと思う。
私はラーメンの全てを愛しているが、唯一ナルトだけは愛せない。ナルトを愛せるようになった時、真のラーメン愛好家を名乗ることができるのかもしれない。

おいしいラーメンに出会うと、つい健康など気にせず、スープを飲み干してしまう。ごちそうさまでした。そして、多幸感に包まれて店を出る。
オチも何もありません。ただ私の好きなものについて書きなぐっただけの文章でした。

2020.2.29

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