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カタカナのビジネス用語から生まれる「新しいもの幻想」を乗り越える

こんにちは。ビジネスを加速する「つなぐ力」について考えている市瀬博基です。

「つなぐ力」とは、専門的な知識と、すでに自分が知っていること・経験していることをヨコに結びつける知識やスキルのこと。激しい環境変化に適応するために、これからますます重要性が増してくる力です。

前回は、専門的な用語で語られる知識には、日常感覚との「つながり」をはばむ力が働くので、この壁を乗り越えるために、専門用語をふだん使いの言葉に置きかえることで、すでに分かっていることや経験したことに結びつけて理解することができる、という話をしました。

専門用語がつくり出す壁や問題は、それだけではありません。

今回は、耳なじみのない言葉で語られる専門知から生まれる、「新しいもの幻想」について考えてみようと思います。

目あたらしい言葉から生まれる、「同じことなのに別物に感じられる問題」

新たな情報をインプットする際は、難解な言葉で語られる専門的な知識を、ふだん使いの言葉に置きかえて、専門用語がつくり出す壁を乗り越えることが大事。

このことは、新しい知識が、それまでにまったく耳にしたことのない(カタカナや横文字で表記されることの多い)言葉で語られるときに、いっそう重要になります。

なぜなら、「(ほぼ)同じことなのに、違う言葉で表現されると、まったく別物に感じられる問題」が起きる可能性があるからです。これ、ビジネスやマネジメントの分野では、けっこうひんぱんに起きているように思います。

「マインドフルネス」って?

「マインドフルネス」という言葉を例に、こうした問題がどのように生まれてくるのかを考えてみましょう。

「マインドフルネス(を得るための方法)」とは何か? それが以下のように説明されても、正直、何のことだかよく分かりませんよね。そして、これまでにはなかった、何かまったく新しいもののように感じられる。

マインドフルネスは、自分の内側に意識を向け思考や感情や行動について、解釈や良し悪しの判定をせずにただ観察するための方法である。
~ ダニエル・ゴールマン マシュー・リピンコット「マインドフルネスはEIを向上させる」

ところが、「マインドフル」な状態を実現するために、具体的に何をすればいいのかについての説明を読むと、だいぶ印象が変わってきます。

そこには、ヨガ瞑想呼吸法といった方法が書いてある。

こうしたことは、これまでにもたくさんの人が行ってきているから、「まったく新しいもの」ではないなず。なのに、耳なれないカタカナの専門用語で語られると、すでに自分が知っていること・経験したこと(あるいは人がやっているのを見たり読んだりしたこと)との「つながり」を実感することがむずかしくなる。

だから、自分が(ほぼ)同じことを知っていたり、経験していたりしても、同じものだと気づきにくい。こうして「新しいもの幻想」が生まれてくるわけです。

「コーチングの準備運動」としてのマインドフルネス!?

じっさいに、マインドフルネスの手法として紹介される多くのエクササイズは、かつてコーチングを学ぶうえでの「準備運動」(コーチングを実践するために必要となる、感覚や感情をしっかりと感じるためのさまざまなエクササイズ)として位置づけられていたトレーニングにとてもよく似ています。

しかし、この2つのエクササイズ、どこが似ていて、何が違っているのかについて語られることはほとんどありません。そういうわけで、「まったく新しいもの感」がそのままに残ってしまいます。

目あたらしい言葉で示される専門用語があらわれたときは、これをふだん使いの言葉に置きなおし、直感的・感覚的に理解できる形にしておかないと、「新しいもの幻想」にまどわされる可能性があるんですね。

目あたらしい言葉を、直感的・感覚的に理解できる言葉に「翻訳」する

そういうわけで、私は個人的に「マインドフル」な状態を、こんな風に理解しています。

単純作業に没頭していると、しっかり集中しながらも、穏やかで落ち着いた気持ちになれるような感覚(たとえば料理で万能ネギをザクザクきざんでいるときのような。長ネギではダメ)

ふだん使いの言葉に置きなおしてみると、「あの時のこれ」的な感覚をさらにいろいろと思い起こし、結びつけることができるようになります。こうして、マインドフルネスの意味や意義について書かれた(分かりにくい)説明を、自分自身のさまざまな知識や経験と重ね合わせながら、理解を深めていくことができます。

もちろん、耳なれない用語で語られていることが、すべて自分自身の経験に結びつけられるわけではありません。でも、自分で経験したことではなくても、映画やドラマ、小説の一場面などに置きかえることができないかと想像することが大事です。

描かれている具体的な状況や、そこで起きる出来事、自分や相手の身のこなしに、生み出される感覚や感情など、自分自身が感覚的に理解できるものとの共通点や相違点を探すことで、さまざまな知識や経験をヨコに「つなぐ力」を高めることができます。

人の声ではなく、自分の納得感に耳を傾ける

もちろん、「マインドフルネス = 万能ネギをザクザクきざむ」式の理解の仕方は、マインドフルネスの専門家からめちゃくちゃ怒られることになるでしょう。でも、そういうことはぜんぜん気にしない。

知識をインプットする際にもっとも大切なこと。それは、(たとえばこの場合は)最終的に自分自身が穏やかで落ち着いた状態になることです。そのためには、自分にとって一番しっくりくる感覚を見出し、これをしっかりとカラダに覚えこませ、定着させることが大事。

だから、まずは直感的・感覚的な「納得感」を持って理解できる、自己流の「暫定的な正解」を見つけだす。そして、これをさまざまな知識や経験と結びつけながら、より深く、より広い理解につなげていく。

後で「ちょっと違うかな」と思ったら、その時点で考えを変える。

大事なのは、「ちょっと違うぞ」という人の言葉ではなく、「なんか認識が間違ってたかも」という自分自身の納得感に耳を傾けること。

いまは「正解のない時代」である。この時代を生き抜くには、「問う」力や「探求する」力が大事。そういうことがさかんに叫ばれていますが、「問う」こと、「探求する」ことで、コトが終わるわけではありません。

「問う」ことによって、自分なりの「暫定的な正解」をみちびく必要があるからです。そして、「暫定的な正解」の足場を固めるのは、「その通り」と言ってくれる人の声ではなく、自分自身の直感的・感覚的な納得感であるはずです。

(「正解のない時代」なのだから、たとえどれだけ多くの人から「その通り」という言葉をもらっても、それが正解だとはかぎらない。)

このように、自分の納得感にもとづいた「暫定的な正解」を探すことを通じて、直感的・感覚的な理解を深め、さまざまな知識や経験との「つながり」を広げていくこと。それは、「マインドフルネス」という言葉にかぎらず、さまざまなビジネス用語についてもいえるはず。

これがしっかりできていれば、(もうホントに)つぎからつぎにビジネス分野に登場する理論やコンセプトの表面的な目あたらしさにまどわされることなく、本質的な理解を深め、さまざまな知識をヨコにつなぎ、応用の幅を広げていくことができるんですね。

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