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第六回笹井宏之賞を読んだ感想

白野さん、第六回笹井宏之賞の受賞、おめでとうございます。
歌人にとって、笹井宏之の名を冠したこの賞を取ることは、本当に素晴らしく、名誉なことだと思います。
受賞作が掲載されている雑誌のねむらない樹の受賞コメントに、「ご感想を一文字でもいいので頂けるととてもありがたい」と書かれていましたので、読んだ感想を書いてみました。

夏 きっと父とあなたを引き裂いたおれの前科に名前が欲しい 
白野/名札の裏

両親が離婚した理由が、きっと自分であろうという罪悪感に名前をつけたい子どもの独白の一首。
掴みとして、かなりグッときて、友人の後悔を聞いているような、教会の告解室での懺悔のようにも聞こえる。

最初の10首の中に、母親と父親、こどもが出てきて、家族のことを題材にしたものだとわかる。
その後も、嫁入り、家系図、ママチャリと家族に関連する言葉が随所に散りばめられている。
読み進めていくと、大学生ということもあり、家族を引き裂いたのが、無垢な幼少期の子どもではなく、ある程度年齢がいった青年期ということも、この連作の空気に作用している。
年金やリベラルなど、ある程度年齢がいかないと分からない話を理解していることから、主体が青年期の時の話かなと私は読みました。

感触をしょっかんって言う友だちの箸で剝がされていく天ぷら 
白野/名札の裏

スーパーの天丼とかを食べたくて買ったはずなのに、べちょりとした衣が何とも言えない時がある。友人がどんな理由で衣を剝いでいたのかは分からないが、食べ方にその人らしさや場面を覚えさせるほど視覚像を刺激することを的確に捉えている。

自称どこへも行けない人頼むから一生どこへもいかないでくれ 
白野/名札の裏

この一首がすごく好きだった。
地元とか、大学とかで、もうここ以外の土地には行けない、住めないっていう人もいるし、相手が変わらずにいて欲しいという願いのようにも聞こえる。

どっかから泣き声がしてカロナールを意図せず指で温めた夜 
白野/名札の裏

どこからか聞こえた子どもの泣き声に、解熱剤・鎮痛剤を温めていた。
もしかしたら、聞こえたのは、歌の主体の子ども時代の声だったのかもしれない。

前半は家族の話から徐々に自立、故郷と離れることが描かれている連作でした。
白野さん、改めて、受賞おめでとうございます。

私もいつか笹井賞に挑戦してみたいです。

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす 
笹井宏之/ひとさらい


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