見出し画像

レベッカ・ソルニット「オーウェルの薔薇」が教えること/一日一微発見428

全体主義社会の悪夢を描いた小説『1984』で知られるジョージ・オーウェルは、1903年に生まれ、苛烈な戦中活動を潜り抜け、その著書はベストセラーになったにもかかわらず、1950年に死んでしまった。どう考えても早死だ。

彼が描いたディストピアは、トランプやプーチンだけでなくネットによる管理社会を批判する者たちにより、ある種の「便利な」予言として引用され続けている。

しかし、アクティビストで作家のレベッカ・ソルニットはそんな凡庸な「軽い」やり口は決してやらない。彼女は多くの環境問題や人権問題などに、傍観者(口先だけの批評家)ではなく、ラディカルにかかわり続けてきたから、もっともっと当事者的にオーウェルに接近するのである。

彼女はこの本の第1章をこう書き出す。
「1936年の春のこと、ひとりの男が薔薇を植えた」。第2章も同じ書き出し。
第5章ではちょっと変わって「1936年のこと、ひとりの英国人の男が薔薇を植えた」。
第6章では「1936年に薔薇を植えた男は、花についてよく書いた」となり、終章の書き出しも「1936年のこと、ひとりの若い作家が薔薇を植えた」で始まるのである。

ソルニットは、何度もくり返して、オーウェルという人に接近し直すのだ。この本は他の「オーウェル伝」「オーウェル論」とまるで異っているのはそのことである。

では、なぜソルニットはオーウェルに接近したいと思っているのだろうか。それは人から何を学ぶのかということ。オーウェルの生涯はソルニットにとっては、もちろ「他者」の生涯であるが、その「他者」から何を学ぶのかということだ。

ここから先は

2,037字

応援よろしくね~