2019年劇場映画プレイバック・後編

もう年が明けましたね、今回もお付き合いくださりありがとうございます。これでラスト。致命的なネタバレはないです。

13. 天気の子


監督の新海さんのこれまでも含め、色んな思い入れがある作品でした。

新海作品への思い入れや結末に覚えた動揺については前のブログに書きましたので、今回は割愛しますが。

観たときの感情の揺れ、感動と衝撃の振れ幅こそ凄まじかったですけど、後から評を読みながら振り返ったりすると、所々でモヤッとする話ではあるんですよね。作劇という意味でも、「ヒロインの都合のよさ」であっても。

「賛否両論を起こしたい」とは新海さん自身が言ってたのですが、その軸が意図していない所でまで起きているという現象は見受けられました。

だから、(映像のクオリティは文句なしとしても)お話として優れた映画かと言われれば微妙、というのは確かです。

けどやはり、僕は「天気の子」が今年ベスト級に好きなんですよね。
この作品に「クリエイターのエゴ」を強烈に感じたのが大きい。

前作「君の名は。」で予想外のメガヒットを起こしてしまって、プレッシャーが物凄いだろう中で、最大公約数を狙うのではなく尖ったパッションを爆発させたこと。
エンタメにおける「ただしさ」が叫ばれる中で、社会の道を踏み外す主人公を描き「こんなヒロインが好き」を貫いたこと。

ファンとしても書き手としても、すごく勇気をもらいました。
自分の「好き」に、正直になっていいというエールだと思ったんですよね。相手が人であっても、作品であっても。

後は、観た人たちで感想をやいのやいのするのが楽しかったですね。
オタク層に限らず、大学つながりの友人も観た人が多くて……ひとりで劇場に行ったらサークル同期カップルと鉢合わせたの笑いましたね……

そして濃すぎるファンアートとして。夏の集団オタク幻覚と、その裏にあったやるせない別れと。



14. 劇場版 うたの プリンスさまっ 
マジLOVEキングダム

僕のネット関係のお知り合い、人数の面でのツートップがふぁなみりー(fhánaファン)と図書館戦争ファンなのですが。

そこで日頃からお世話になっているレディの皆さんが、すごい熱量&頻度で劇場版うたプリを鑑賞(入国)されていまして。

うたプリの福利厚生の充実ぷりは聞いていましたし、参加している声優さんやコンポーザーの強さも知っていましたし。
後、音楽ライブが物語の核になる小説を自分で書いていることもあって。ライブ映画である今作は「Check it out!」だよなあと。

それで観に行って、思っていた以上に楽しめました。

そもそも僕は、次元も性別も問わず「アイドル」を推すことは少なくて、うたプリの中心である「プリンスに夢中になるプリンセス(&プリンス)」という世界観も、あまり得意ではないです(観たところで一転とかはしなかった)

とはいえ、日本最高水準の歌声たちも、上松さんを筆頭とするElements Gardenによる楽曲群も、2次元だからこそ可能な視点移動も、初見でも十分に楽しめました。いい曲をいい声で歌われたら楽しいよね、というシンプルな作用。

加えてストーリーも、初見なりに熱いものがあって。
これまで火花を散らしていたグループ同士で、時にはメンバーのシャッフルも行いながら、最高のステージを作るべく手を取り合い声を重ねる。
アベンジャーズ然りHiGH&LOW然りライダー大戦然り、オタクが大好きな構造です。

その様子を、ステージ本番のみ、客席側からの視点のみで描いているのも、投影可能なキャラクターを通してではなく「ファンひとりひとり」として楽しんでほしいという意図を感じました。そしてエンディング、マモの「アンコール」が泣ける。

うたプリは声優コンテンツの中でも公式とファンとの関係性が温かい方だと感じていたんですが、その認識がさらに強くなりましたね……イベント運営とかだと色々大変みたいですが。ちなみにアニメは今観てます。

15. ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝
-永遠と自動手記人形-

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のTV版に触れたのは、あの事件の後でして。完成度の高さは聞いていましたし、TRUEさんや茅原実里さんの楽曲も好きだったので、いずれ観ようとは思っていましたし、それこそ劇場版の前にTV版に触れておこうか、という気分でもあったのですが……

事件後、いま観ても辛くなるだけかとも思ったのですが。一アニメファンとしてできることは、(義援金などの直接的な支援は勿論として)作品を受け取ることだと思いまして。

非常に心揺さぶられる作品でした。戦禍とその後の世界を舞台にしているので、胸の痛いシーンや悲しい展開も多かったのですが。それでも、こんなに世界が美しく、人を愛しく思えるような作品もなかなかないです。

繊細で美麗な映像表現も、巧みな構成も、キャラクターを活き活きとさせるお芝居も、感動をより際立たせる音楽も、どれを取っても最高級で。それらが物語と一体になり、「悲しくても、会えなくても」「この美しい世界を、明日へ」と励ますような、そんな作品でした。
特に10話は思い出しただけでも泣けます、「会えなくても見守っているから」という話は自分でも書いています、弱い。

……前置きが長くなりましたね、そうして迎えた外伝の公開。

今回はヴァイオレットというよりも、生き別れてしまった(擬似)姉妹……イザベラとテイラーが中心の物語で。
ふたりの出会いと別れ、そして別の人生を歩むふたりとヴァイオレットたち郵便社との出会い、という二段立てで。

まずはTVシリーズの後日譚として最高で。働きながら人間らしい感情、「愛している」を探していたヴァイオレットが成長し、別れてしまった姉妹それぞれを導こうとする姿はそれだけで感慨でした。

彼女たち郵便社の「手紙を届ける」という使命の継承。
「名前」の持つ意味の大きさ。
技術発展と、古い媒体である手紙との関係。

そしてTVシリーズから重ねられてきた、「離れていても、想い合えることが希望になる」というテーマ、などなど。
切ない運命の中に温かな希望が息づく、素晴らしい物語でした。相変わらず伏線とかモチーフ使いが巧み。

演出や作画も、勿論ものすごいハイクオリティで。人物の表情や風景の美麗さ、舞台となる世界の色彩……前半での女学校の空気感とか、さすが京アニさんでした。
キャスト陣だと、特に悠木碧さんの絶叫の悲痛さがほんとに胸に刺さって。

そして茅原さんによる主題歌「エイミー」。
物語への寄り添い方、これ以上できないくらいに密に丁寧で、あの余韻が何度でも去来します。ヴァイオレットはほんとに曲が良すぎる。

そして、どれだけでも待とうと決めていた劇場版が、嬉しいことにすぐそこまで来ています。本当に楽しみ。

16. メランコリック

ラジオ「アフター6ジャンクション」きっかけですね、年末の年間ベスト投票はこの作品に入れました。

映画製作チーム「One Goose」、会社員との兼業メンバーもいる無名の新人チームによる自己資金(300万)映画でありながら、数々の映画賞で話題をかっ攫っていくという、「カメ止め」的な躍進を遂げた一本です。

・東大卒ニートがバイトを始めた銭湯では
・夜中に闇の人殺し業務が行われており
・知ってしまった主人公は闇仕事に関わりつつ、裏社会のヤバい目に……?

という、青春お仕事×ハードボイルドアクション+ラブコメなハイブリッド映画。銭湯って人殺しの場には向いてるよね~という妙に納得感のある舞台設定、そこから始まるストーリーは緩急織り交ぜながらも驚きの連続で、最後まで持って行かれっぱなしでした。

生活感、日常感が丸出しな一方で、命の取り合いとなったら物凄い緊張感とキレで。日本でこんなにシャープな近接ガンアクションが見られるとは……

しかし一番の魅力、キャストの皆さんが醸すキャラクターの存在感でした。
主人公の和彦の「喋りも世渡りも下手な秀才」がまとう不器用な空気感といい、彼に歩み寄る元同級生・百合の「純真にDTを殺す女子」感といい、仕事の相棒である松本の「チャラ男/熟練ヒットマン」の二面性といい。

物語の説得力、キャラクターの「そこにいる」「この世界のどこかにいる」感覚が凄まじかったです。こんな実在感は初めてでした。
「もしかしたらこの世界の裏でこんなことが」という想像をさせてくれることがフィクションの醍醐味のひとつだと思うのですが、その点も非常に面白かったです。一回目は集中して、二回目はあれこれ言い合いながら、そんな見方も絶対に楽しい。

17. HiGH&LOW THE WORST

行 く ぞ て め ぇ ら !!(ジャジャーン)

マッッジで最高の格闘アクションでした、超楽しかった。

……その前に、HiGH&LOW(ハイロー)の話をしましょう。

こちら、アロハ天狗さんによる信頼しかないプレゼンで骨子は伝わると思うのですが、補足すると。

ギャング(的な)5つのチームが群雄割拠するSWORD地区を舞台に、若者たちの抗争と、さらなる大敵に対しての共闘を描くシリーズです。
天下のLDHが、運動神経のヤバい人材と資金をフルに使った青春格闘アクション。特撮とかカンフー、アクションゲームが好きな人には間違いなくオススメです。各演者の動きのキレは勿論、キャラごとの味付けはバッチリ、ド派手すぎる舞台での数百人単位の巨大乱闘は圧巻でしかなく、それらを捉えるカメラワークも超優秀で、音楽バフも最高、という。

ストーリーも、まあ整合性や洗練さはともかくとして、「全員主役」というコピーの下に熱い群像劇が楽しめます。キャラ読みの奥深さがすごい。

LDHへの偏見は捨てていいし、恨みも……ある程度までは中和されるんじゃないですかね……なお僕はこれだけハイロー好きでも、LDH本体に対してそんなに愛着はないです、リスペクトこそあれ。

で、このTHE WORST(ザワ)の背景を説明すると。
ドラマ2クールと劇場版4本を使って描かれた、SWORD各勢力の物語が一段落した後に、その一角であるO=鬼邪高校(おやこうこう)にスポットを当て、さらにジャンル的な大先輩である「クローズ」世界(WORST)を対バンに迎えるというスピンオフ・コラボです。
MCUでたとえると、エンドゲームをやった後に「ブラックパンサーVSバットマン」をやるみたいな……違うか……

これまでのメインキャラも出しつつ、ニューフェイスのデビューを盛り上げつつ、クローズ先輩との共演も全力で、という。

単体のクオリティでいえば、ハイローサーガでも屈指だったと思います。

ストーリーのバランス感覚が非常に良かったんですよね。
「後日譚」「デビュー」「共演」という3つの要素で盛り上げつつ、本作での主役コミュニティの物語も泣けるし追いやすいしハイローイズムがまっすぐ。
シリーズ経験者(中毒者)へのサービスは満載ながら、初見でも「ここ見てれば話は分かるよ」という設計になっていたのでは。
クローズの作者である髙橋ヒロシ先生が脚本のコアに関わっているそうなので、その作用もあると思いますが。

後、「強さ」の調整も気配りが効いていて。
キャラ同士の勝敗を通してゲストであるWORST側の顔は立てつつも、細かい戦闘描写を通してこれまでのSWORDキャラの強さも際立つという目配りの良さ。この辺りを詳細に分析しているテキストも見かけたんですが、思い出せず……

そしてハイローといえば格闘アクションですが、こちらも大満足。

何しろカメラワークが物凄くて……
・モブの間を駆け抜けながらの一騎打ち、一緒に飛んだりグルグルしたり
・志尊くんの精度を試すドSワンカット
・河原での大激突の主観&俯瞰ロングショットのスペクタクル
・現代日本によみがえる「攻城戦」を描く三次元ショット
大内さん率いるA-TRIBEの発明が随所に光りますし、それが詳細にパンフレットに記されているのも良きです。

キャラクター性が活きるアクションの演じ分けや、「それそう使う!?」というアイテム使いも絶好調、脚立が大好きになる。

ストーリーとのリンクも熱かったです。「陰謀で対立させられる」展開はハイローでおなじみなんですが、そのストレスが昇華されるパートではアクションもそう演出されていて。
脳内再生できるまで見直したい……

18. ジョン・ウィック: パラベラム

いよいよラスト。キアヌが孤高の殺し屋に扮し、世界中の殺し屋たちと
撃ち合い・殴り合い・極め合い・斬り合い・轢き合いのオンパレードを繰り広げるJWシリーズの第3作です。

JWシリーズの見どころ、まずは公式が名付けるところの「ガン・フー」、格闘と銃撃のハイブリッドにあります。狭い空間で次々と襲い来る敵を、打撃や関節技で捌きながら銃撃で殺していく、この流れるような攻防一体のコンビネーション。
現代を舞台にした対人アクション映画につきものの「格闘の方が盛り上がるじゃん」「けど銃使ったほうが合理的やん」というジレンマに対するベストアンサー。

それに留まらず、車にバイク、本や鉛筆に至るまで、その場にあるもの何でも使っての至近距離での殺し合いを、圧倒的に見やすい・伝わるカメラワークで描き出す。

そのバックグラウンドは上述の記事で解説されていて、僕もよく分かっていなかったので興味深かったです。アトロクでも監督を呼んで特集が組まれていたかな。
先ほどのハイローでも、斬新なカメラワークはアクション部の方が手がけていて。アクションチームの仕事は想像以上に広く、感想に直結するのだと再認識です。

今回の「パラベラム」も、興奮必至バトルのてんこ盛りで。
・夜を疾走するバイクで斬り合い
・相棒、そしてワンちゃんとの連携が格好よすぎる長回し銃撃戦
・防御力と攻撃力がインフレしあう至近距離ガンファイト
・インドネシアの超傑作アクション「ザ・レイド」のラスボスコンビも活躍、美しすぎる職人技との対峙

などなど、殺しの粋が詰まっておりました。

そんなシーンを成立させるだけあって、JWは世界観もキマッっておりまして。大多数が殺しで稼いでるかのような人口構成も然り、殺し屋を取り巻くシステムの整い方といい。
回を重ねるごとに殺し合いのスケールが大きくなり、今作ではとうとう裏社会全体を敵に回すことになるのですが、カタストロフィを見ているはずが妙に楽しい、カーニバルの渦中にいるようなアゲアゲ感もありました。

加えて、アクションだけでなく画作りの美しさも引き込まれます。光の当て方が独特で、現代の大都会でありながらファンタジックな気分にもなるんですよね……リアリティレベルはファンタジーなんですけど。

ここで劇場公開に追いついてよかった、第4作も楽しみです。

……という訳で全18作品、お付き合いくださりありがとうございました!
アトロクでの宇多丸さんの映画批評に触発されて始めたシリーズですが、やはり映画は語り甲斐があります。反芻することでより楽しめますしね。

ちなみに他の話題作(と思しき)で言うと、
・プロメア、空青、ハロワ→好みだとは思うんですがタイミング合わず、リリース待ちです。
・JOKER→共感性羞恥がキツいので、劇場で耐えられるかが不安で回避
・SW9→つい先日観ました、後日シリーズの思い出込みで

といった辺りです。やっぱり今年は話題作が多すぎた。

そして2020年、何よりも楽しみなのは、やはり。

僕をアクション厨に仕立てた決定打、るろ剣であります。
「伝説の最期」で終わったと思っていましたので、楽しみでならない……!

そして前述した「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も、可能ならリピートしたいですし。
色々と立て込む年ですが、隙間を縫って観ていきたいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?