見出し画像

いつかの古時計

声色も、音色も、もうよく覚えていない
けれど、あなたとギターの元に
集い歌った幼き日を、忘れることはない

子どもたちは好きな歌をせがみ
あなたはいさかいの起こらぬよう
間を取り持って
順番にみんなで歌う

故郷の道やさとうきび畑を抜け
森の中、動物たちを呼び、大空に翼を広げ…
必ず歌うのはそんな歌
そして、全員一致でいつも聞きたいのは
ズーズー弁の古時計

お別れの日も、あなたは歌ってくれた
どうしてその日が来たのか
幼い私には分からなかったけれど
今でも時折あのズーズー弁を
口ずさんでみる

子どもたちの中でも、特に体が小さくて
あなたの背中に甘えていた私
肩に頭を置くと、手元がよく見える
ギターを爪弾く手の指は荒れていて
よく弦で切れてしまう
それでも、絆創膏を貼って、あなたは弾く

願い事が叶うならば
帰れないあの日に帰ってみたい
声を探して記憶を辿ってみても
あなたの歌が聞こえない
せめてこの先も覚えていよう
あの古時計の歌を
みんなで笑っていたことを

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?