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誰何

自己紹介は難しい。
「平均化訓練がしたくて来てます」でいいかと思っていたがそうもいかない。
何しろ熱心な人も多かったし、平均化訓練にかける想いというものがあればそこがぶつかることもある。
お互いに正体不明の相手で、自分のことをどう相手に伝えればいいかも手探りだった。

まず自分がここにいる由来をどう伝えたらよいのか。
「たまたま偶然ここにきた」ではすまないことが多かった。
それだけではこちらの手の内を隠すような雰囲気になってしまうこともある。
でも正直に伝えようとしてもそれはそれで難しい。

「甲野善紀先生の元で武術などを10年近く学びその周辺でシステマや韓氏意拳などに触れていました。そのうちに武術よりむしろ身体鍛錬そのものに興味があることがわかり、また平均化訓練が自分の感性にマッチしていることもあり、これまで学んだ武術などはひとまず整理して平均化訓練一本に注力することにしました」

書いてみればシンプルに見えるかもしれないが、口で言うには長すぎる。
とにかくこれを口頭で伝えるのは至難の業であった。
だいたい甲野善紀とは誰だ。
システマとは何だ。
韓氏意拳とは何だ。
おまけに武術から想起されるステレオタイプなイメージから僕は相当かけ離れた印象だ。

それに相手だって僕のことを詳しく知りたいわけでもなかっただろう。
むしろ、自分のことをわかってほしいという人のほうが多かった。
当時は特に生き苦しさを抱えてやってくる人も多く、実態にそぐわないキャラ設定を自己紹介として滔々と語る人も何人かいたりした。
集まった人がそもそも多少エキセントリックな人達だったということも相互理解の困難さに拍車をかけた。

僕はいったい何者か。
それを十全に理解されるのはひとまず置いておこう。
へなちょこだと思われていればそれもそれで楽だろう。
ちょっと武術の技を見せて怖がられたのは意外だったし反省するが、そこは仕方ない。
そのうち輪の中に溶け込めるのではないか。
むしろこちらが周囲を理解しようと努めるべきだろう。

しかし、僕のインタビューが上手くいくことはなかった。
「我々に不用意に近寄ると火傷をするぞ」と言われたりする。
「我々」とはなんだ。
僕達は平均化訓練を学びにここに集まっているのではないのか。

そもそも平均化訓練は貴方達のものなのか。

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