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ifの世界を経た先で ―男性ブランココントライブ『やってみたいことがあるのだけれど』感想—

男性ブランコのコントライブ『やってみたいことがあるのだけれど』、素晴らしいコントライブでした!たくさん笑えてたくさん胸を揺さぶられるコントライブ……男ブラの真骨頂という感じでした。ほんとに良かった……もう何回も観てる……まったく飽きない……何度でも笑えるしぐっとくる……。

以下、がっつりネタバレしてますのでまだご覧になってない方は『やってみたいことがあるのだけれど』を観てから読んでいただけますと幸いです。6月15日まで配信してますよ!まだ間に合う!



『やってみたいことがあるのだけれど』、通称『やてみた』はコントライブですけれど作中に「男性ブランコ」の「浦井」と「平井」が存在しています。それがすごく新鮮だった。男性ブランコの浦井と平井で始まり、二人のifの世界が始まる。観光案内所で働く父とタイムスリップしてきた息子、音楽家と悪魔、仲良しのおっちゃん二人(片方は……)、狂気の研究者AとB、絵描きとパトロンの息子、失った記憶を求めて服屋に来た男性と服屋の女性店主。年齢も関係性も性別もバラバラの登場人物達。別のコントだからバラバラで当然なんだけど「やってみたいことがあるのだけれど」という台詞によって繋がっていく。複雑な繋がりではないと思う。このコントの登場人物とあのコントの登場人物は同一人物ではないか、みたいな、そういうのではなくて。というのも平井さんが特典映像で「最後のコントで全部繋げたかったけどできなかった」と言っているし、インライでも「それぞれのコントに関連はない」「伏線はない」ってはっきり言っているんですよね。だからそこはとりあえず私は考えなくてもいいかなと思っている。

ひとつずつ簡単な感想を書いていく。


コントの感想

漫才師

漫才で始まるんだ!?平井さんの「おやさ」からの言葉遊びが楽しい。「やってみたいことがあるのだけれど」という台詞が出て、ああ!タイトルそういうこと!?と思って、なるほどなー!と思いました。

観光案内

舞台を下りてトニーフランクさんのギターがあって場面転換するのがおしゃれ。トニーフランクさんの生演奏本当にいいですね。薄々そうかなと思っていましたけど後半で二人が親子ということが分かって空気が変わって息を呑みました。

あまり親を舐めない方がいいです。自分で考えて、考え抜いて出した結論を子どものせいにする親なんていません。少なくとも私はそんな親には、ならない。

野宮さんの台詞が力強く優しい。

音楽家

最初は悪魔らしかったのに徐々にめちゃくちゃ人間らしい本当の姿が出てくる三叉路の悪魔好き。「おおきいねこ飼いたいの」かわいい。寿命の交渉おもしろすぎるな……。自分の優勢を意識した音楽家の表情笑う。後半の「疲れたよ」って言ってる悪魔は虚無の罰が近づいてるのを受け入れてるようにも見えて切ない。

だったらさ、寿命を差し出さないでさ、すこしでも長くその「おもしろい楽しい」したほうがいいんじゃないの。

こんなことを言える優しい悪魔。消えてほしくないな。

おっちゃん

男ブラのおっちゃんコントはなんでこんなに愛おしいんだ。仲良しおっちゃんたちかわいい。ジャケットやベストを裏返すことで幼少期に戻る演出がとても好き。せいちゃんにとってかっちゃんはヒーローだったんだろうな。男ブラ二人の関係ともちょっとかぶって、そこもぐっとくる。浦井さんの低ジャンたすかる、と思ってたら衝撃の展開。驚いた。

あんなかっちゃん、せいちゃんはいっつも助けてくれるって言うてるけどな、あれ、逆やから。いっつも助けてもうてたんはこっちや。

かっちゃんを見守ってたせいちゃんの気持ちを考えると優しく、切ない。「今これどういう感じ?」は笑った。最後の幼少期の二人の話がまぶしくて泣ける。優しい話だ。

研究者

ここにきてこんなこわいコントが来るとは……。コーヒーゼリーからコーヒーを抽出する装置を作ってる研究者二人のコントがホラー展開になるとは思わないじゃん……。『Denki Ifuku Yē‐Yē』の『人間をつくろう』を思い出しました。あれもこわかったけどこのコントもそれに匹敵するくらいこわかったぞ……。そして好きだった……。
子どものような純粋さを持つ博士と大人のどす黒さを持つ久保くん。「辞めそう」最高だったな。久保くんが本性を現してピンチなのにちゅうしゅっちゃん呼びを譲らない博士笑う。ここのやりとり好き。このコントは今回の単独の中でも特に演技力が光っててすごかったなぁ。平井さんの怯える演技も浦井さんのマイムもすごかった。二人の声色も表情も。

世の中不思議なことばかりじゃないか。複雑に絡み合ってるものばかりじゃないか。だからね、僕は純粋なものに憧れるんだよ。

平井さんの博士、かわいらしいのにすごくこわかったな。ゾッとするようなビターエンド。最高だった。

絵描き

「汚名を~汚名を~おっしゃっれっに着っこなす~🎵」が頭から離れない。手の振りの滑らかさ流石ZiDol……。宇賀原くんを憎しみを込めて呼ぶところ何度見ても笑う。「パトうさん」(=パトロン+お父さん)も大好き。

大事なのは今お前がここに在る、そういうことなんだよ。

おもしろくて優しい話だったなぁ。二人の関係がすごく良い。敬太に禅さんがいてくれて良かった。

服屋~漫才師

肩のボリュームすごぉ……と思ってたら後からちゃんとツッコんでくれてよかった。

ドイツの文化人類学者、民俗学者アントン・ウェーバー曰く、服は記憶である。彼は体に纏う衣服には記憶が宿ると言っている。あなたは着る記憶、つまり「着憶」を探しに来たんですねえ。

不思議な話に引き込まれていく。このコントについては以下に詳しく書く。


ifの世界を経た先で

『観光案内』から『服屋』まではすべてifの世界と私は思っている。自分が自分として存在していなかったらこんなことをしていたかもしれない、というような。今回のコントライブは衣装にすごくこだわっていて、衣装がとても重要な役割を果たしている。着る記憶、「着憶」の話。最後の服屋のコントで浦井さん演じる男性は今までのコントの衣装を身に纏い、その着憶を思い出す。13年分の記憶がない自分にしっくり来るものを探す。13年というのは男性ブランコの芸歴と考えていいと思う。男性ブランコは今年芸歴13年目だ。

浦井さん演じる13年分の記憶がない男性=「男性ブランコ」の記憶がない「浦井」は、いろんな着憶を辿った末に最初に漫才をしたときの「男性ブランコ」の「浦井」の衣装を身に纏い、「男性ブランコ」の「浦井」に戻る。

なんて美しい構成だ……。素晴らしすぎるよ……。全然ちがう人物だったのに浦井さんに戻ったもん……。自然にコントから現実に……。そしてこの「浦井」に戻った浦井さんと平井さん演じる女性店主のやり取りがめちゃくちゃ好き。浦井さんは「浦井」なのに平井さんは女性店主のまま。コントの中の世界は現実とは別の世界。
今回は舞台にも工夫がされていて、舞台上に一段高いアクトスペースが作られている。これは男性ブランコが尊敬しているラーメンズがやっていたことと同じことであって、平井さんは以前、いつか舞台上に舞台(アクトスペース)を作ってコントをやりたいという旨をインタビューで答えていた(男性ブランコが語る、面白い先輩に見つけてもらえた喜びとラーメンズ初体験 | 忘れられないあのライブ 第5回より)。それが叶った形だ。一段高い舞台がコントの舞台。そこから降りたところにはトルソーに飾られた洋服たちが並んでいる。

アクトスペースにいる平井さんは女性店主のまま。
しかし、「男性ブランコ」には、「浦井」の隣には、「平井」が必要なのである。

だから「浦井」に戻った浦井さんは女性店主の平井さんに着替えるように言う。女性店主はきょとんとしている。浦井さんはそこにいるのが平井さんだと分かっているけれど、女性店主は何も分かっていない。相方が見えてるのは浦井さんだけ、というのも他のコントでたくさん出てきた「おばけ」と呼応していて不思議さがまたおもしろい。

女性店主は言われるままに舞台を下りて「男性ブランコ」の「平井」の衣装に着替えて着憶を取り戻す。「男性ブランコ」の「平井」に戻る。

再び舞台に上がってセンターマイクに立つ二人は「男性ブランコ」だった。

数々のifの世界を経た先で二人は「男性ブランコ」に戻った。観ながらなんの涙かよく分からないけれど涙で視界がぼやけたよ……。単純に構成が素晴らしすぎて感動したのもある。そして、なんだろうな、勝手ながら、これから先どんなことがあっても僕たち二人は男性ブランコです、というようなメッセージみたいなものを感じて。それもすごく、ぐっときて……。
会場は万雷の拍手が鳴りやまなかったけれど私もパソコンの前で同じくらいずっと拍手しちゃってました。それくらい本当に素晴らしいコントライブでした。
観終わった後放心気味だったな。すごすぎて。めちゃくちゃ期待してたけどその遥か上をいくコントライブ。おもしろくて優しくてあたたかくてさみしくてたまにすこしこわい男ブラの世界観をこれでもかと浴びた。最高でした!

特典映像もとても良かったです。浦井さんと平井さんが素敵なのはもちろん、スタッフの方々もとても素敵で観ていてぐっときました。みなさんのおかげでこんなに素晴らしい単独ができたのですね。ありがとうございます。

エンディングテーマも泣けちゃうよ……。トニーさんの声うるっとくる……。トニーさんが作った曲も平井さんの歌詞も最高すぎる……。

まだ配信終了まで日があるので観まくろうと思います!


おまけ。今回のコントライブ『やってみたいことがあるのだけれど』に寄せて。

蘇る数多の着憶を抱きしめてセンターマイクに立つのはきみと

このコントライブを観て感じたことを短歌にしました。今後も男性ブランコを応援していきたいと思います!


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