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続・能を観に行くこと

前回のつづきです。

前回は、

①見せ場は後半戦、最初から気合を入れて見ないこと
②舞から何が伝わってくるか、その感情表現を味わうこと

このふたつについて書きました。

今回はいくつかの補足を書きます。

①夢幻能(むげんのう)

能のよくあるパターンに「旅僧(ワキ)が名所旧跡で謎の人物(シテ)に会う」という型があります。謎の人物は旅僧にその土地の謂れや自身の暗示を伝えて、後場で夢幻の中、真の姿を現すのですが、この旅僧の見た夢、または幻という形の能を「夢幻能」と呼びます。
能には現在能と夢幻能(むげんのう)のふたつがあります。「現在能」とは生きている人のみが出演する能で、現実世界での出来事を描きます。「俊寛」や「安宅」など「歌舞伎や文楽など後世の芸能に影響を与えた作品も少なくない」(the能ドットコム )です。

夢幻能で仮の姿が前場、本当の姿が後場です。「見せ場は後半戦」と書いたのはそういうわけです。夢幻能という言葉は覚えておいてください。

②面(おもて)と舞

「能を観に行ったら、面(めん)を被った人が踊ってたよ」と言う人がいましたが、違和感アリアリです。「面(おもて)を付けた人が舞っていた」と言って欲しいところです。「踊るは跳躍、舞は回転」と教わりました。舞はダンスではなく、回転の所作です。時計の反対回りの動きが反復されます。どの曲のどの部分で何を舞うかは決まっています。これはネットですぐに調べられます。

面(おもて)もその曲で使うものが決まっています。ちょっとした傾き方でも表情が変わって見えるのも不思議なところです。能を観る前に「今日はどんな面で、舞は何かな」と調べてみると、楽しみが増えます。

能楽堂では面や装束の展示がされている時がありますので、機会があればチェックしてみてください。

③チケットの取り方

能楽堂の席は、正面、中正面、脇正面の三つがあります。全部正面というのはうまい表現と思いますが、脇正面はワキ座に座ったワキ方の正面、中正面は目付柱の正面です。真横から見るか、柱側から見るか、ということなのですが、見やすいのは正面で、やはり価格は一番高いです。中正面は柱が邪魔な分、安いです。脇正面は見やすくなく、安くなく、といった感じですが、橋掛かりでの型は近くで見れます。それぞれの席でメリット、デメリットはありますから、最初のうちはとりあえすいろんな席に座ってみることです。初心者と行く時は高くても見やすくわかりやすい正面席で見ることにしています。

国立能楽堂のチケット予約を見ていると、中正面が一番早く売り切れます。ある程度、心得のある常連客は少しでも安く、数多く見たいということでしょうか。国立能楽堂の場合、三千円ちょっとで見れますから、リーズナブルです。
国立能楽堂の脇正面席の最後部にGB席というスペースがあります。ここは現在、販売していますが、研修時代はいつもここで能を観て学んでいました。ワキ座の正面にあるので、途中で寝ると先生に丸わかりです。翌日、「よく寝てたな」と叱られたりしました。今でもワキ座と目が合うのがいやで、脇正面席のチケットはまず買いません。演目や同伴者の有無で正面か中正面を使い分けています。

④意表を突くアウトプット

能を観ることもまたインプットです。能楽堂に入ると、日常とは全く異質の空間に来たことにドキドキします。面に装束、そして舞、謡や囃子などさまざまのインプットがあると思いますが、あなたなりの意表を突くアウトプットを期待しています。

能舞台には何もありません。たまに「作り物」と呼ばれる簡略な道具が置かれることがありますが、何もないということは何にも特定されないこと、つまり、あらゆる想像力が可能ということです。シテの謡や所作に応じて、桜の花が満開になったり、町が廃墟になったりします。
ワキ方の宝生閑先生は「幻視の座」という言葉を使われましたが、曲に入ると、共感力で幻視が起こります。ワキ方は観客の代表者と言われることもありますが、その意味では観客席すべてが「幻視の座」と言えます。

何が見えても、それは能の可能性であり、個性的なアウトプットがまた楽しいのです。


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