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フリーダ・カーロ『折れた背骨』と

横尾忠則『名画裸婦感応術』を開きながら南武線に乗る。
この文庫本には裸婦の絵ばかりが掲載されているので、立川ー川崎間でシャドウボクシングするにはちょうどいい。
現場に絵のような奥さんがやってきたら、俺はなんと言うか。そしてどう責めるか。そんな架空の取り組みをイメトレするのだ。
で、しばし動きが止まった1枚を紹介する。
フリーダ・カーロ『折れた背骨』。

ただの裸婦ではない。横尾さんの文章を基に絵を眺める。
鎧のようなコルセットと裸体に打ち込まれた無数の釘。
彼女自身、実際に交通事故で重傷を負ったそうだが、目から雨のように流れる涙。そして荒涼とした大地。
ああ、これはすごい絵だなと、多摩丘陵に目をそらす。
さあ、なんて言う。
「奥さん……」に言葉が続かない。
現場ならとりあえず何か言うだろうが、その言葉の先、どう責めるか。
キスさえ釘に邪魔されて無理そうだ。
「よく来たね」と抱きしめるか。
いや、体が二つに割れてしまいそうだ。

横尾さんは絵に「世界の悲劇」を読む。
個人の悲劇が昇華されている、という。

南武線は京王閣競輪場あたりを走っている。
責めないうちに時間が過ぎていく。
とりあえず奥さんを撮り続ける。
表情、全身。
後ろに回るか。それも小技になる。
後ろの釘は見えないが、ビッシリ刺さってそうだ。
まぐわいとか考えなくていい。
ともかく回し続けて、尊大な裸体に付き合おう。
打てないボクシングというのがある。
そういう手の繰り出せない一戦であった。

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