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行政/自治体との共創について:日本全体のオープンソースコミュニティ構想

この記事について

こんにちは、平塚です。夏休み(ただし、本業学生に限るため自営業の私には適用がない。)を挟んで後半戦です。武蔵野美術大学では「第3ターム」と呼んでいる期間への突入です。既にエディトリアル・デザインの授業や産学協同の授業もあり、なかなか沼となってきております。

ということで、この記事は、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士課程造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコース(以下「本研究科」といいます。)の科目である「クリエイティブリーダーシップ特論」(以下「CL特論」といいます。)における令和3年9月6日(月)に開催されたCL特論の第9回のエッセイです。最前線でご活躍される方の連続講演イベント第9回のスピーカーは Code for Japan 代表の関治之様です。今話題のあのデジタル庁のプロジェクトマネージャーでもあります。

Code for Japan
https://www.code4japan.org

講演内容について

テーマは "Let's Make our City" ということで、いわゆる「まちづくり」や「政策づくり」など公共分野で自分たちの課題を解決するために手を動かしていく方法が紹介されました。

関様は、オープンな技術でよりよい社会をつくりたいという思いで活動をしてきたとのことで、特に「オープンな技術」というところが、ご自身の中での大きなポイントだそうです。現在の活動のきっかけは東日本大震災にあるそうで、それ以前はまったく社会課題の解決は想像しておらず、普通のエンジニアとして働いていたとのことでした。当時、オープンソースソフトウェアのコミュニティで偶然に立ち上げていた「sinsai.info」というサイト——「クライシスマッピング」と呼ぶそうですが——があったこともあり、震災直後すぐに情報をマップに落としていく活動を行ったところ、Twitter で大きな反響があり、様々な方の協力があったとのことでした。累計で250名程度の顔も知らない方々の協力があったとのことです。

私などは震災当時は学部入学前あたりだったと思いますが、実家で何の役にも立たないウェブサイトをつくってた記憶しかないので、当日すぐに役に立つサイトを提供できるのはすごいなぁと感じました(小並感)。関様は、こうして東日本巨大地震をきっかけに公共サービスや地域課題サービスに対して自分はどう貢献できるのかを意識し始めたとのことでしたが、単にそれだけではなく、大きな疑問が芽生え始めたそうです。

このサイトを作ったんですけど、本当にこれは人の役に立ったんだろうかということを数か月運用する中で疑問がわき始めました。……つまり、こういうサイトを作って提供しました、たくさんのページビューがありました、色々な情報を集めました、それはいいと。ただし、当時の被災地を考えてみると、インターネットがそもそも使えません、スマホを持ってない人が多かったです、持ってたとしても電波が入りません、みたいな状況だったわけです。なので、実際、このサイトが被災地の人たちを直接助けたことはあまりないよな、と――とはいえ、ボランティア活動しに行く人たちは見ていたらしいので、まったく役に立たなかったと思わないんですけど――直接的にどれくらい技術は人を助けられるんだろうか、と。災害時に被災地に行ってみて話を聞いてみても IT 云々とか言っている雰囲気じゃない。とにかく泥をかきだしている状況のときに、みんな地上戦を頑張っているのに「IT で何か課題解決」みたいなことを言いにいってもなかなか話が通じないし、なんかこうすごく空中戦で戦っている人たちみたいなかんじでふわふわしているんですよね。
そういった思いがなんとなくあったのと、同時期に、Facebook とかで「フィルターバブル」という言葉が言われ始めたとか、人を分断しているんじゃないかとか、テックジャイアントが格差を生んでるんじゃないかとか言われ始めていた。僕はインターネット大好き人間だったんですけど、どうも技術って格差を広げたりとか、差別を助長したりとか、そういった危険性もあるものなのではないか、へんなふうに使ったらよくないんじゃないか、と思い始めた。要するに自分の存在がちょっとぐらついた、というのがありました。〔強調引用者〕

そこからより踏み込んだ視点から技術をどのように使うかを考えるようになったようです。ここで、関様がとりわけ着目するのが「オープンソースソフトウェア」の考え方であり、オープンソースソフトウェアの世界における「伽藍モデル(トップダウンモデル)」と「バザールモデル(ボトムアップモデル)」を引き合いに出して(エリック・レイモンド:伽藍とバザール, 1999)、次のように述べます。

それを行政にあてはめてみると、日本って 1741 自治体があるんですが、その自治体がそれぞれ伽藍を組み上げているわけです。〔…〕すべてにおいて「車輪の再発明」をしている状況です。これ無駄だよね、単純に。エッセイにもあるんですが、伽藍モデルの欠点は、まず変化に弱い。〔…〕変化の激しい時代において、そんな何年もかけて設計してつくるということ自体が無駄ですよね。今は変化の激しい時代と言われています。企業にとってもそうですけど、行政にとってもそうなはずなんです。今までのやり方みたいに伽藍モデルで組み上げるよりもバザールモデルで色々な人たちが参加できて自律的に物事がよくなっていく、そういった環境がつくれないだろうかと思って活動しています。サービスを市民と一緒に参加型で作って、自治体間でいいものができたら共有をして、みんなでよくしていくエコシステムみたいなものを日本全体でつくれたら。そうしたら、日本の公共システムは、すべてオープンなコラボレーションのためのオープンソースのコミュニティとなることで、色々な人が色々なチャレンジができるようになります。〔強調引用者〕

こうして、Code for Japan のビジョンである「ともに考え、ともにつくる社会」が掲げられることになりました。組織の垣根を越え、属性に関係なく、一緒に考えられる環境、一緒に手を動かしてともにつくっていく場をつくっていく活動をしているとのことで、様々な事例をご紹介くださいました。COCOA(で叩かれた話からの改善した話)や経済産業省 GOVERNANCE INNOVATION、参加型熟議民主主義の話などもあり、なかなか興味深いと感じました(小並感2)。あとは、私も読みましたが、ご紹介のあったエツィオ・マンズィーニ『日々の政治 ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』(BNN、2020年)は、この領域の必読書なんだなぁと。

私も鋭意実践中であり…

提唱者は私ではないのですが、この note を投稿している「市ヶ谷法務店」というプロジェクトも、司法の領域に対して共創とオープンデータの活用を視野に入れた活動を試みているところです。たとえば、まだまだ課題が山積みで技術力もリソースもまったく足りていないのですが「新宿区はコンビニの数より、法律事務所の数のほうが多かった!?」掲載の法律事務所マップの作成などに細々と取り組んで実験しております。シビックテックとはちょっと異なるかもしれません。かといってリーガルテックとも異なるのですが。そういうわけで、本講演でご紹介いただいた取り組みはたいへん刺激的なものでした。今後も地道な活動を行っていきたいと思います。

本講演では行政との対話の重要性も強調されていました。私は本業のほうでは規制対応等との関係で行政官僚と会話をする機会もけっこうありますが、行政に対して立法関連で意見表明していくようなことはたしかにないですね。基本法の制定でスコープが横に広がるとはいえ、所掌事務の範囲を超えて会話できないのが若干ネックかもしれません。行政側としても教示を間違えると民事責任を負うおそれがあったりするので、そのあたりは、まだ課題がありそうな気がします。ちょっとまだ私の中で従来の民主過程である代議士政治との理論的整理がついていないというのもあり、今後の検討課題としたいと思います。

(執筆者:平塚翔太/本研究科 M1)

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