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ベネフィット・ファインディング

私が40歳代前半から50歳代前半頃の日常の些事。

近年、医学の世界で注目されている概念に、ベネフィット・ファインディング(benefit finding)がある。
これは苦しみを経験することで、それまでは何でもないと思っていた出来事に意味と価値を見出す過程をいう。

(PRESIDENT 河合薫のストレス予報)


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娘が小学校2年生の時、川崎病という難病となり、20日間あまり入院した。退院の日に病院から出たその足で、どうしても食べたいというマックに直行した。ハンバーガーを本当に美味しそうに、宝物のように頬張る娘の姿は、私たち夫婦にとって、天使がいまそこに舞い降りたかのようにキラキラと輝いて見えた。

休日の午後、愛犬"のマイケル"が、犬小屋の前で泡を吹き、白目をむき倒れていた。仮死状態のまま動物病院に連れていったものの、翌日を迎えられるかどうかは予断を許さなかった。
普段は屋外で飼われている彼を、その日から2日間、白タオルに横たえて、家族全員で添い寝した。
翌朝、子馬が産まれた時のように、両手両足を踏ん張って、ヨロヨロと立ち上がろうとする彼の姿を見て、皆揃って嬉し涙を流した。

奥さんが、難しい病気で入院した時、口には出さなかったものの、夫である私にはかなりの覚悟があった。
主のいないベッドを毎夜毎晩眺めながら、その暗闇が永遠に続くのではないかという恐怖にたじろいだ。
退院の翌日、キッチンで、母親として戻ってきた彼女がつくる朝餉(あさげ)の音は、私や娘の耳に、喜びを奏でるメヌエットのように、美しく響いて聴こえた。

東京にいる息子が精神的に追い詰められていた時、何も出来ない田舎の両親は、その無力さを心底嘆いた。
立ち直った彼が勤める地下鉄の駅を、ひと目見ようと、何度も何度も無駄に往復する出張中の父親である私の目に、制服を来て凛として働く若い彼の姿は、既に駅長のように逞しく映って見えた。


ベネフィット・ファインディングを経験した人は、人生に一筋の光を見出すことができ、生きることへの意欲が高まり、人生を豊かに感じることができるという。
(PRESIDENT 河合薫のストレス予報)

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