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イジッコの材料『岩芝』とは?


イジッコの材料「岩芝」について

岩芝とは?

岩芝(いわしば) 正式名称:

岩芝工芸では、岩芝(いわしば)と呼ばれるミヤカマンスゲの柔らかい新芽を使って編まれています

ミヤカマンスゲ(方言名:岩芝 学名 : Carex multifolia):
カヤツリグサ科スゲ属の植物の1つ。カンスゲに似ているが、穂が細い。日本に広く分布し、変異が多く、分類の難しいものとされる。常緑性の多年生草本。和名の意味は深山カンスゲで、深山(みやま)に生えるカンスゲの意である。

いろんなサイトから抜粋

主に、薄暗い山奥の沢沿いに生育しています。岩場に生育していることが多いので、こちらでは「岩芝」と呼ばれるようになったようです。

草とは思えぬほど、段違いの強度を誇る岩芝

岩芝の繊維はとても強靭で、葉を引っ張ってもまったく切れません。

これは実際に岩芝を触ってもらわないとわからないのですが、藁やススキとは比べ物にならないほど、段違いの強度を誇ります。

岩芝の写真を見て「うちの近所にいっぱいあるような?」と思った方、多いと思います。が、その葉っぱを採って、引っ張ってみてください。

ブチッと簡単に切れてしまうものは、「岩芝」ではありません。(←これが見分ける一つのポイントになります)

なお、スゲ類は非常に変異の大きい植物です。場所により柔らかさなども変わるようで、お隣の福島県のミヤマカンスゲは柔らかく、強度も少し弱めです。生育している土地の状況なのか、ただの変異なのか。植物学者ではないので、そのあたりは不明です。

採るのは新芽だけ(時期も決まっています)

新芽は9月秋の彼岸前の10日間に採ると昔から言われています。この時期だけ、新芽がスポっと抜けるようになります。時期がすぎると、新芽はしっかり株にくっつき、抜けなくなると同時に固くなります。

また最近は温暖化の影響か、少し時期が早まっているようです。なので私は9月1日から10日までを採集期間としています。このあたりはそれぞれの地域の気候などで調整します。日光市よりも南部の鹿沼市では8月25日ぐらいから採集しているそうですよ。

岩芝 新芽採集の様子

薄い黄緑のものが新芽で、手で簡単に引き抜くことができます。(葉はカミソリのように鋭いため、軍手必須です)

わかりにくいと思うので、短いですが動画撮影したものをUPしますね。
根っこまで採れてしまっているのは、この年は少し遅めに採集したせいか(確か9月17日)、新芽が固まり始めてしまい、ちょっと採りにくかったからです。9月上旬だとサクサク抜けると思います。

真ん中の新芽だけが塊でスポっと抜ける感覚、結構クセになります。たまに師匠と一緒に採集に行くのですが、採集に没頭してしまうため、撮影時にはボソボソ話していますが、普段は会話はほぼなしです…

岩芝を採集する師匠(阿部征子さん)
岩芝採集する私。話す暇があれば新芽抜きたい。
束にしておく。10束でバッグ1個ぐらいと換算して採集しています。
2~3時間ほどでこれだけ採れました。 が、これでバッグ5個作れるかどうか

採ったら洗ってしかっり乾燥

しっかり乾燥すれば何十年と保管が可能で、蔵に眠っていた数十年前の岩芝も、変色はあるものの、埃を払えば問題なく使えるほど、本当に丈夫な植物です。

上:未乾燥 下:乾燥したもの

干し方は特にルールはなく、洗う人やら陰干しする人やら、作り手さんの数だけ方法があります。

私は、新芽の束をほぐして、根本を良く洗って泥を落とし、陰干し(2週間以上かかる)スタイルです。

以前は束で干していましたが、1ヶ月弱干すので、手間を考えてこの干し方になりました。

しっかりカラカラになるまで干した後は、使う束ごとに紐でまとめ、新聞紙にくるんで保存します。乾燥が甘いと、あとでカビます。
編む時はお湯で戻して、割いて使います。(このあたりの話は後日…)

余談ですが、時々「岩芝民芸は水に強い」という表記があります。確かにもともと水に近い場所に生えているものなので、水に濡れても強度が弱くなることはありません。

が、やはり植物という性質上、カビが発生しやすいです。

濡らしてしまった際は、かならず干してしっかり乾燥する必要があります。

それは編んでいる時も同様。編み残した岩芝は必ず乾燥させて、また使う直前に戻します。

岩芝の今(原料確保の問題)

岩芝を探して、採って干して…

岩芝民芸が途絶えた理由は、編むのが細かく大変な上に、良さが伝わらない。というのもあるのですが、材料の確保も理由の一つかなと思います。

岩芝は以前はどこにでもあったようですが、今は山奥まで行かないとありません。

群生地を見つけ、10日間のうちに採集し、洗って干して、使う時は戻して割いて…

なかなか手間のかかる伝統技術です。

鹿の食害について

鹿に食害された岩芝(日光市川俣)

昔はどこにでも生育していた岩芝ですが、鹿が増えたことにより食べられてしまい、今では材料確保が非常に難しくなりました。

特に餌がなくなる雪深い2月でも、常緑の岩芝は目出つ存在。

一面に広がっていた群生地も、次の年に行くと食べられていた。。。なんてことが頻繁にあります。(もう涙なんて出ないさ)

そのため、常に山に入って、群生地を見つける必要性があります。


私は趣味が登山なのと、冬は狩猟でも山に入るので、ある程度生育場所は見つけてあるのですが、あるから採っていいわけではなく・・・

採集する前には、地域の自治会長さんに一言伝えておくのはもちろんのこと(山菜採りなどと間違えられるので。)土地所有者さんにもお話して、許可も必ずもらいます。

ここまで苦労して材料を確保してから、紐縒り作業が始まり、そしてやっと編み作業に入れる・・・

こんな大変な伝統技術なのですが、地域の皆さんの理解と協力があって、どうにかここまで復活することができました。(パチパチ)

もしご興味が出てきた方、材料の岩芝はまだまだ自分の分の確保でいっぱいいっぱいで、お渡しするようなことが出来ませんが!

代替えの植物繊維を、これからUPしていきますので、そちらを試して見てほしいな!って思います。

- ichico -


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