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ツイッターのデータが中国に流れる理由 中国企業が買収に参加

イーロン・マスクのツイッター買収にともなって、データが中国当局に流れる懸念がもちあがっているようだ。結論から言うと、その可能性は高い。なぜなら、ツイッターの買収はイーロン・マスクとコンソーシアムが行っており、そのコンソーシアムには中国企業暗号通貨のバイナンス(Binance Holdings、https://www.binance.com/、中国で起業し、その後中国外に移転)が参加しているためだ。
【2022年11月23日追記】以前の話も軽く触れておいた方がわかりやすそうだったので概略を付記しておくことにした。アメリカはデータ管理の保護に全く制度や規制がおいついておらず、それがIT産業の振興につながっていることもあって野放し状態だった。ヨーロッパはおろか日本にすら遅れているのが実情だ。アメリカのIT産業は莫大なデータを自由に収集し、ビジネスを拡大した。
しかし、同じことを外資やアメリカで企業した外国人もできる。中国はそこに目をつけて、広範なデータをアメリカから継続的に取得する構造ができあがった。さらに中国の国家情報法は中国企業のみならず、中国に進出した企業にも適用されるため中国当局は必要に応じてデータにアクセスできる状態になる。日本も同様の危機に直面している。試算によればアメリカも日本も成人のほぼすべての個人情報が中国当局の手にわたっている計算だ。
この問題は近年注目されるようになり、火急の対処が必要とされている。そのへんの事情をまとめたのが『Trafficking Data: How China Is Winning the Battle for Digital Sovereignty』(Aynne Kokas、Oxford University Press、2022年11月1日)であり、それを日本語で紹介したのが以前の記事でもちろんLINEの件にも触れている。また、ニューズウィーク日本版には日本の事例についてもう少しくわしく紹介している。

以前書いたように、中国当局がデータをトラフィッキングする方法は3つある。

今回はそのうちのひとつ、出資・買収によるものに該当する。さらに、ツイッターが今後中国企業にデータ処理を委託したり、データセンターを利用、あるいは合弁企業などを作ることがあればその中国企業経由で中国当局にデータが流れることになる。

対米外国投資委員会(CFIUS)が今回の取引の審査を行うかどうかは未定だが、CFIUSによって買収が白紙に戻る可能性はないとは言えない。ただ、現状はそもそもCFIUSの対象にならない可能性の方が高い

中国のデータ・トラフィッキングは先ほどの3つの方法を中心に広範におよぶ、巧妙であり、イーロン・マスクがツイッターは日本中心と発言したのも、中国当局の意向を反映している可能性がないとは言えない。

台湾に関して何度も書いているが、台湾併合の先だって、日本などの近隣国へのサイバー攻撃やデジタル影響工作が増加する。実際、日本へのサイバー攻撃は増加している。デジタル影響工作も同様と考えるべきだろう。このふたつに攻撃対象のデータや効果的な方法を与える基盤となるのが、日本国内のデータであり、ツイッターは非常に有効なツールになり得る。リアルタイムで誰かなにを発言しているかを追跡できるのだ。しかもすでにTik Tok、フィットネストラッカー、ハイアールなどの家電などさまざまな方法で取得したデータを組み合わせて、詳細なプロフィールを把握し、行動を誘導、制限することができる。

また、蛇足であるが、イーロン・マスクに次ぐ出資者はサウジアラビアであり、この株主構成で言論の自由が保障されると考えるのは難しいだろう。

出典
Analysis-Musk's new Twitter funding could draw TikTok-like U.S. scrutiny、ロイター、2022年5月6日、https://jp.reuters.com/article/twitter-m-a-musk-security-analysis-idCAKCN2MS0P8
U.S. exploring whether it has authority to review Musk’s Twitter deal、Washington Post、2022年11月2日、https://www.washingtonpost.com/us-policy/2022/11/01/musk-twitter-treasury-department-review/
Twitter and TikTok Have a Key Risk in Common、 Aynne Kokas、Barrons、2022年11月7日、https://www.barrons.com/articles/twitter-and-tiktok-data-risk-regulation-51667834750
China is gaining control of the world’s data as the US stands by Global data trafficking presents security risks that most countries are not prepared to handle, Aynne Kokas argues in her new book
2022年11月17日、https://www.codastory.com/authoritarian-tech/data-trafficking-china-us-tiktok/

関連資料
『Trafficking Data: How China Is Winning the Battle for Digital Sovereignty』(Aynne Kokas、Oxford University Press、2022年11月1日)

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