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過去の陰謀論対策の論文を分析してわかった有効な介入手法

「The efficacy of interventions in reducing belief in conspiracy theories: A systematic review」https://doi.org/10.1371/journal.pone.0280902 )は過去の研究から陰謀論に対する介入を検証した論文である。ほとんどの介入は効果がなかったが、いくつかは効果があったことがわかった。

●概要

この論文ではデータベースから陰謀論に関する過去の研究から該当するもの25件の研究から、合計48件の介入のある研究を抽出し、分析している。その結果、過去の研究は個人差と陰謀論を信じることの関係を特定し、理解することに焦点をあててきた。介入の効果についての包括的な検証は行われていない。

陰謀論への介入にはいくつかの種類がある。
・情報予防接種(informational inoculations)
あらかじめ陰謀論の問題点などの情報を与えることで陰謀論にはまることを予防できる。

・プライミング(priming)
陰謀論に接する前に、集中力や分析的思考を促すことで陰謀論への耐性が増加する。

・ナラティブによる説得(narrative persuasion)
陰謀論と同様、ナラティブを用いて説得する。

対象となった研究の半分は効果がなく、意味のある効果があったのはごくわずかだった。意味のある効果があったものには陰謀論を見せる前に行われたという共通点があった。情報予防接種とプライミングには意味のある効果が認められた。
ただし、情報予防接種はその前に予防接種を信じないように言われると効果が打ち消された。

最後にこの論文では下記を推奨している。

1.感情や感情に訴えることには効果がない。
2.反論は効果的ではない。
3.予防が最良の対処方法。
4.分析的考え方と批判的思考は、陰謀論に対抗するための最も効果的な方法。

なお、対象となった研究には対象が特定の人種、文化圏に偏っていたこと、短い期間で行われたため長期間にわたって効果が持続するかは不明であることなどの限界がある。

●感想

陰謀論の研究で介入効果を検証したものが少なく、包括的なものがないというのは驚きだった。まだまだ研究が進んでいないのかもしれない。今回の研究結果も今後研究が増えればくつがえされる可能性もある。

その一方で陰謀論を含むデジタル影響工作や陰謀論者の対策はSNSプラットフォームへの規制など制度面では進みつつある。このことが意味するのは科学的根拠のない制度が社会に実装されつつあるということになるのだけど、それでいいんだろうか? しかもこの論文が正しいならば多くの対策は失敗する。

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